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十 『僕、賢嗣です』 けんじ、と聞いたとき、わたしの頭の中には真っ先に「賢嗣」の文字…
週明け、この日の大学は午前で終わる。賢嗣は終了してすぐにT大を出ていた。いつもなら図書…
翌日、日曜日だが朝六時に起床する。八時に間に合うよう、引っ越し業者の制服や着替えの入っ…
九 賑やかな歓楽街の一角に、小さな居酒屋がある。自動ドアが開き、煙草のにおいとが…
八 中島真里、という名前が嫌いだった。 中島はパパの会社についているし、真里は…
七 ヒマリさんの館は、その壁面や庭こそ荒れているけれど、玄関の扉をくぐるとすぐに…
それから僕は、リビングで兄の同席のもと、母から厳しく問い詰められた。ヒマリさんの館にいつから行っていたのか、そこで彼女に何をされたのか。母は一貫してヒマリさんが僕を性的にたぶらかしたと決めつけ、僕が折れてボロを出すのを待っているかのように延々と尋問し続けた。 気づけば窓の外に薄闇が降りてきている。心も体もくたくたになっていた。 「もう、埒があかないわ」母が天を仰ぎ、ふかぶかとため息をつく。 「賢嗣、本当のことを言ってくれないと困るのよ。あなたに罪を犯した人が、その自覚
僕の買った青十字のケーキは、ヒマリさんの用意したものと比べるとやはり見劣りして見えた。…
翌朝五時、目覚ましが鳴る一時間も前に目が覚めた。 今日は待ちに待ったヒマリさんとのク…
六 お茶会が終わり、僕は次の予定……ヒマリさんとのクリスマスのことで頭がいっぱい…
カフェ・ルナティのケーキはとにかくおいしくて、僕はあっという間に食べ終えてしまった。ヒ…
ところが、庭の門から出る直前で僕の足は止まってしまった。 「どうしたの」 門の外でヒ…
「母さん、明日の土曜、昼から出かけたいんだけど」 学校から家に帰るなり、僕は台所で母に…
五 昼間になっても風の冷たさが増すようになってきた。十二月の頭にもなると、本格的にセーターやコートを着なければならなくなる。 僕は毎朝早起きして勉強に勤しむようになっていた。あの日点数を落として以来、神経過敏になってしまっている。 「次の土曜日、僕、外へ出たいんだけど」 夕飯のとき、母に申し出てみた。母は兄の方をちらりと見つつ、首を横に振る。 「だめよ。冬休み前にもテストがあるんでしょう。あなたはこの間点を落としたばかりなのよ、遊んでいる暇はないわよ」