透明な紳士と、透明になりたかった私
第六話 尊い世界
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この町に来た初日、夜道で見かけたゴスロリ少女が春風若菜という名だと知ってから、綾斗の心は浮足立っていた。
昼間の彼女は地味な顔と地味な空気を一生懸命取り繕っているが、繕えていない。無表情で黒板を見つめる彼女の横顔を見つめていると、黒と紫のアイシャドウや黒髪のツインテール姿がおのずと浮かんでくる。
ゴスロリなんて、どんな美少女が着てもひどく浮ついて見える幻想の服だと思っていた。だが、ちがった。春風若菜だけは本物だった。レースとフリルに包まれる