英国政府が「オンライン安全法案」を議会に提出/イングランド子どもコミッショナーはオンラインの安全向上のための勧告を発表
昨年(2021年)5月の記事で概要を紹介した英国の「オンライン安全法案」(Online Safety Bill)が、3月17日に議会に提出されました(英国政府のプレスリリースも参照)。
法案の大きな目的のひとつは、子どもにとって有害なコンテンツから子どもたちを保護することにあります。法案提出にあわせて発表された英国政府のファクトシートでは、次のように説明されています(昨年公表された法案がどのように修正されたかについてもこのファクトシートで説明されていますので、ご参照ください。/追記:日本語の記事としては、NNA EUROPE〈オンライン安全法を議会提出 英政府、運営社の責任強化へ〉が比較的詳しいです)。
一方、イングランドの子どもコミッショナーを務めるレイチェル・デ・スーザさんは、法案提出の前日(3月16日)、オンラインの世界を子どもたちにとってより安全なものにするための勧告を発表しました。
この勧告は、デジタル・文化・メディア・スポーツ大臣と教育大臣の委嘱を受けてとりまとめられたものです。
〈英国の学校評価機関、学校における性暴力についての報告書を発表し、さらなる対策を勧告〉で紹介したように、英国の独立機関・Ofsted(オフステッド:教育水準監査院)は昨年6月、学校における性暴力についての報告書を発表しました。そこでは、オンラインで行なわれる生徒同士の性暴力にも焦点が当てられ、オンライン安全法案の検討にあたって同報告書の知見を考慮することを含む、さらなる対応が促されています。
この報告書を受けて、前述の両大臣は、インターネット上のポルノグラフィその他の不適切・有害なオンラインコンテンツの問題について、またこれらのコンテンツが学校における性暴力をどのように促進しているかについて検討を行なうよう、子どもコミッショナーに依頼しました。デ・スーザさんの序文によれば、両大臣は「オンライン安全法案をめぐる議論の中心に子どもたちの声を位置づけるための援助」も求めたということです。
今回の勧告も、大規模調査「ザ・ビッグ・アスク」に寄せられた子どもたちの声、子ども・若者(12~21歳)とのフォーカスグループディスカッションやワークショップで得られた知見などを踏まえて作成されており、随所で子ども・若者の声が引用されています(この過程で、以前紹介した、オンラインで子どもが受ける可能性のあるセクシュアルハラスメントについて子どもと話すための親向けのガイドも作成されました)。
今回の勧告では主として、次の4つの課題とその対応策が提示されています。
1)ポルノグラフィを掲載しているサイトで効果的な年齢確認(age verification)が行なわれていないこと。
政府は、ポルノグラフィを掲載しているすべてのサイトに対してユーザーの年齢確認を義務づける立法を、オンライン安全法案においてまたは同法制定の前段階で、緊急の優先事項として行なうべきである。修正法案でポルノグラフィサイトが対象とされているのは歓迎されるものの、規制が実施されるまでに少なくとも2~3年はかかる可能性が高い。それほど長く待つことはできない。
(平野注/この問題については、TechCrunch Japan〈英国政府、ポルノサイトの年齢確認の復活なるか?〉なども参照)
2)ソーシャルメディアおよびメッセージングプラットフォームにおける最低年齢要件が執行されていないこと。
テクノロジー業界は、プライバシー、包括性および有効性に関してコミッショナーが提唱する原則に合致した、よりよい年齢保証(age assurance)技術の開発に投資するべきである。デジタル・文化・メディア・スポーツ省は、Ofcom(情報通信庁)に委嘱して年齢保証に関する実務規範を作成させることにより、この分野における思慮深いイノベーションを支援するべきである。
3)アカウントが子どものものであることをプラットフォームが知っている場合でさえ、18歳未満の者がオンラインの有害コンテンツにさらされることが常態化していること。
業界は、18歳未満の者のものであることがわかっているアカウントについての保護を引き続き強化するべきである。オンライン安全法案の可決を待つまでもなく、いますぐに行動できる。このような保護の強化は、迅速化された通報機能の導入、不適切な特性(たとえば見知らぬ人にも見えるようになっている設定など)の除去および年齢にふさわしいエンゲージメントアルゴリズムの開発によって達成することが可能である。
4)親と学校の対応が十分ではないこと。
教育省およびデジタル・文化・メディア・スポーツ省は、オンラインのセクシュアルハラスメントおよび性的虐待への対処に関する、学校・親向けの質の高いアドバイスの作成と普及に関して、連携を図るべきである。その際には子どもたちの経験を十分に参考にするべきであり、またセクシュアルハラスメントに関する積極的な(proactive)会話および全学校的戦略へのアプローチならびに生徒同士の人権侵害が明らかになった後にとるべき実際的行動を取り上げることが求められる。
「有害コンテンツ」のとらえ方およびそれに対する対応のあり方、デジタル世界に参加する子どもの権利と子どもの保護とのバランスなどについては引き続き議論が必要です。たとえば「年齢にふさわしい」(age appropriate)という基準についても、プライバシーに対する権利に関する国連特別報告者からは、
「本質的に、年齢にふさわしいという概念は発達しつつある能力(evolving capacity)の原則とうまく適合しない。子どもの発達しつつある能力にあわせてサービスを修正していくために、さらなる模索が必要である」
という指摘も出ています(昨年7月の投稿参照)。
しかし、政府が「オンライン安全法案をめぐる議論の中心に子どもたちの声を位置づける」ことを望み、子どもの権利の視点に立った勧告を行なうよう子どもコミッショナーに委嘱するという姿勢には、おおいに見習うべき点があります。イングランド子どもコミッショナーは今後、地域改善(Levelling Up)・住宅・コミュニティ担当閣外大臣と平等担当大臣の委嘱を受け、英国における現代の家族生活についての独立レビューも実施することになっています(3月17日発表)。日本でもこのような機関の設置を積極的に考えていくべきです。
【追記】(2022年11月27日)
2022年9月29日にイングランド子どもコミッショナーによる新たな報告書が発表されたので、Facebookに投稿した内容をこちらにも載せておきます。
【追記2】(2023年2月6日)
もうひとつ追記しておきます。Facebookへの投稿の採録です。
noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。