EU子どもの権利戦略 (2021年3月)では、子ども参加を推進していくために欧州委員会がとるべき対応のひとつに「文書における、またステークホルダーが子どもの参加者とともに行なうイベントおよび会合における子どもにやさしい言葉の使用に関するガイドラインを作成しかつ促進する」 ことが挙げられています。このうち文書のチャイルドフレンドリー版を作成するためのガイド (Creating child-friendly versions of written documents: A guide)が2021年9月にとりまとめられたことは、昨年1月の投稿 で取り上げました。
その後、2022年2月には欧州委員会が「イベントにおける子どもにやさしいコミュニケーションガイド」 (Guide to child friendly communication at events )を発表しているので、その内容を簡単に紹介します。
ガイドでは、「居心地がよく、尊重され、大切にされており、ここは自分がいていい場所だと感じられる雰囲気づくりが目指されるべきです。堅苦しすぎる雰囲気は発言の制約につながる可能性がありますし、子どもたちが、どうすればいいのか、自分の役割や義務は何なのかについて不安に思ったり、お飾りの子どもだと感じたりしかねません。……」 (p.1) と強調したうえで、イベント前・イベント中・イベント後に配慮すべき事項がまとめられています(以下、太字は平野による)。
【イベント前の配慮事項】 イベント前に主催者が配慮すべき事柄としては、次のことが挙げられています(p.2)。セーフガーディング(子どもの安全確保)についてもとくに項を設けて言及されています。
子どもたちは一様ではなく、年齢およびその他のニーズにしたがい、異なる水準の支援や関与を必要とする場合があります。たとえば言語・翻訳上のニーズや障害があるために、メッセージを伝えるのに追加的な支援と時間が必要だったり、小休憩の時間をより多くとらなければいけなかったり、質問の理解、テクノロジーの運用、プレゼンテーションに関して手助けを必要としたりする子どももいるかもしれません。イベントの主催団体は次のような対応をとるべきです。 ● 子どもたちおよびその支援団体と協議して、イベントのあり方や、子どもたちおよびそのコミュニケーション上のニーズに適合する方法の選択に関する決定に際して子どもたちの意見が包摂されるようにする。 ● イベントをできるだけ年齢にふさわしいアクセシブルなものにするため、これまでの作業方法を修正する備えをしておく。 ● 開催場所/演壇が居心地のいい安全な場であること、そしてそのように感じられることを確保する。そのためには、子どもたちが開催場所/演壇を(場合によってはバーチャルで)見学できるようにすることも必要かもしれない。 ● イベントについて、また子どもは何をしなければならないか、子どもに何が期待されているか、イベントはどのように進行するかについて子ども・若者に情報を提供するため、年齢にふさわしいアクセシブルな要約資料を作成する。 ● いっしょに登壇する大人の情報や顔写真を提供しておく。 ● 子どもたち同士、セーフガーディングチーム、いっしょに活動するその他の大人を子どもたちに紹介しておく。
セーフガーディング 子どもの保護・セーフガーディングチームの重要な役割をイベントに出席する人全員が認識しておくことは、非常に重要です。このようなチームはあらゆるイベントでその存在をよく知られ、容易にアクセスできるべきであるとともに、子どもが援助を必要とする場合に備え、すべてのパネルセッションやサイドイベントに参加していることが求められます。 参加者は、子どもが不公正に扱われたと感じたり、子どもの安全について懸念を持ったり、イベントにおける子どもたちとのやりとりに関連するその他の問題が生じたりしたときには、セーフガーディングチームのメンバーの誰かにコンタクトしなければならないことを認識しておくべきです。その他、とるべき実際的対応としては次のものがあります。 ● 子どもの保護責任者・支援責任者・イベント主催者の顔写真および詳細をイベント案内資料に掲載しておく。 ● イベント開会時にセーフガーディングチームを紹介し、その重要な役割を強調する。 ● セーフガーディングの担当者・デスク・控室などの所在を参加者に明示しておく。 ● イベント主催者は、ガイドラインにしたがわない人、不適切なやり方で振る舞う人または子どもにとって危険な存在である人に対して退去を求める権利/参加を拒否する権利を留保する旨、出席者に告知しておく。
【イベント中の配慮事項:大人の出席者のためのガイダンス】 イベント中の配慮事項として挙げられているのは次のような内容です(pp.3-4)。
子どもがあなたとの自発的やりとりを楽しいと感じているかどうか、子どもが居心地のよさを感じられるようなやり方であなたがやりとりしているかどうか、確認してください。これには、写真撮影について、また子どもが自分の活動に関して名前を出されることを希望するかどうかについて、子どもに尋ねることおよびセーフガーディングチームに確認することが含まれます。自分が行なっているすばらしい活動についてきちんと名前を出されることを望む子ども、それを必要とする子どももいれば、自国の論争的・政治的問題について声をあげ、特定されれば危険にさらされる可能性のある子どももいます。子ども(および保護者)がどこまで同意しているかについて確認するため、セーフガーディングチームと連絡をとることが重要です。自発的参加 次のガイドラインにしたがうことにより、子どもたちが自発的に参加し、居心地がいいと感じていることを確保できます。 ● 参加者全員が意見や持論を表明することを評価する。子どもたちに対し、世代、学校、自国の子どもたち等々を代表して発言するようにという、いかなる圧力もかけない 。 ● 子どもたちへの強制があってはならない。同意について、子どもおよびセーフガーディングチームに常に確認する。いかなる搾取も回避するため、事前の許可なく子どもまたはその活動の写真やスクリーンショットを撮らない。 ● 投稿/公表の前によく考える。ソーシャルメディアでのメッセージ、報告書その他の文書では、子どもおよびその支援団体との事前の合意がないかぎり、子どもの姓、所在、子どもの特定が可能になるその他のデータを出さない。そうしなければ子どもが危険にさらされる可能性がある。覚えておくべきこと :イベントへの子どもたちの参加は自発的なものであり、子どもたちの安全と居心地のよさは何よりも重要です。子どもたちは、報酬や契約に基づいてここに来ているのではありません。子どもたちは、熱意と情熱があるから、そして援助する立場にある大人と自分の経験や知識をシェアすることで変化を起こしたいから、参加しているのです。子どもたちが多くのやり方で、たとえば絵を描くこと、その場で発言することあるいは動画で話すことを通じて自分を表現できるような対応をとることが求められます。● オンラインの場合 -子どもたちは、いつでもカメラやマイクをオフにすることができます。チャットのほうが居心地がいいと感じるならチャット機能を利用することもできますが、書かれたテキストでは感情面の意図が失われるおそれもあるため、大人は、子どもたちがチャットで書いたことに関して結論に飛びつく前に、質問をするべきです。● オフラインの場合 -子どもたちは、イベント、パネル、ディスカッションルームからいつでも退出することができます。セーフガーディングチームまたは支援団体の「信頼されている大人」が各パネルに参加し、子どもたちのケアをします。
とくに次の点(p.4)については、イベントなどで子どもと接する大人はよく留意しておく必要があります。
子どもにやさしいやり方によるコミュニケーション:大人の出席者のためのガイダンス 子どもたちは、参加にあたって常に居心地のよさを感じていられるべきです。この指針は、子どもたちが強制・操作・搾取されたり、真剣に受けとめられなかったり、危険にさらされたりしないように、そして子どもたちがそのように感じないようにするためのものです。こうしたことはいずれも、子どもたちが自分の意見を自由に表明することを妨げてしまいます。 ● 参加は子ども1人ひとりの人格の発達の増進につながる可能性があります。子どもたちが、歓迎されている、自分の意見が大切にされていると感じられるようにすることに協力してください。 ● 大多数のイベントでは、英語が作業言語である可能性があります。子どもによっては英語が第2言語である場合もありますし、英語をまったく話せない子どももいるかもしれません。ゆっくり、はっきり話すよう努めてください。短くて単純な文を用いるようにし、業界用語や(各単語の頭文字をとった)略語は使わないようにしましょう。 ● 辛抱強くいてください。考えをまとめるのに人より時間がかかったり、それを表現するために手助けを必要としたりする子どももいるかもしれません。 ● 子どもたちは、自分たちに影響を与える事柄についての意見を表明します。子どもが パネルやもっと人数の少ないグループで話しているときは、よく注意して耳を傾けてください。退屈そうな顔をしたり、他の人と雑談したり、不必要に電話をチェックしたりしないこと 。不誠実な人だと思われたり、ないがしろにされたと子どもが感じたりする可能性もあります。 ● 子どもとやりとりしたり、子どもに質問したりするときには、敬意を持ってください。横柄な態度をとらないこと 。何かのイベントで大人に接するときのように、敬意を持って子どもに接しましょう。大人の発言者に話すときと同じように、敬意を持った語調で話すこと。 ● 討論の際、子どもから質問されたり、トピックについてのあなたの立場を明らかにするよう求められたりするかもしれません。誠実に答え、現実的なコメントをし、何が可能かを伝えてください。笑ったり、ため息をついたり、一蹴したり、質問に対してうんざりしていることを示すその他のサインを出したりしないこと。 ● 子どもが発言し、あなたがその子の意見を理解できるときは、そのことがわかるような反応をしましょう。微笑んだりうなずいたりといった前向きな仕草をしたり、発言に感謝したりすることによって、賛同と謝意を示すこと 。 ● 質問するときは、本題に入る前に長々と話したりせず、関連のある情報を要領よく話しましょう 。そうしなければ子どもの注意力が切れてしまうおそれがあります。 ● あなたが言うことを子どもにわかってもらえない場合、イベント主催者、セーフガーディングチームまたは支援団体の手助けを求めて、子どもがわかる形で言い換えてもらえるようにしてください。この点については他の子どもも手助けできる可能性があり、援助を申し出てくれるかもしれません。
個人的に気になっているのは、イベント等で発言した子どもに対し、上から目線で「アドバイス」をしたがる大人の参加者 がちょくちょくいることです(本当に「アドバイス」という言葉を使うのです)。そのこと自体が子どもを傷つけることにはならないかもしれませんが、少し長く生きてきただけで、求められてもいない「アドバイス」を子どもにする資格があるなどと考えるのは、度しがたい傲慢さの表れだという自覚を持ってほしいと思います。
ガイドではこのほか、イベント後の配慮事項 として、▽参加した子どもたちへの感謝とフィードバック、▽アンケートなどを活用した評価と改善策の検討などについても触れられています(p.5)。
子ども参加を進めている団体ではすでに配慮されている内容が多いでしょうが、これから子どもと大人が同じ場で議論することが増えると予想されますので、とくに「大人の出席者のためのガイダンス」については、子どもたちの意見も聴きながら日本の状況に合わせて発展させ、広く共有していく必要があると思います。