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無国籍の子どもが急増――日本は国連人権条約を踏まえた対応を

★朝日新聞:無国籍の子どもが急増 3年前の3.5倍、氷山の一角か(4月5日配信)
https://www.asahi.com/articles/ASP455RZMP45UUPI001.html

 国籍がないまま日本で暮らす子どもが急増している。法務省の統計によると、無国籍の乳幼児(0~4歳)は2019年末時点で213人と、3年前に比べて約3・5倍に増加。20年6月末時点で217人となっている。外国人労働者や留学生の増加を背景に、日本で生まれた子どもの国籍取得に必要な手続きがなされていないケースが多いとみられる。
(中略)
 昭和女子大学の月田みづえ・名誉教授(社会福祉学)は「在留管理上で無国籍と把握されている人は氷山の一角。親が非正規滞在なら仕方がないと考えがちだが、子どもに責任はない。万人に当然の権利としての国籍が与えられ、安定した状態で育てられるようにするべきだ」と指摘する。

 月田名誉教授が指摘していることは、自由権規約(市民的および政治的権利に関する国際規約)や子どもの権利条約に基づく義務でもあります。無国籍の子どもの急増は、日本がこれらの条約上の義務を十分に履行していないことの表れです。

 この点については、日本の第4回・第5回統合定期報告書の審査の際、国連・子どもの権利委員会からも指摘され、次のような勧告が出されています(2019年の第4回総括所見)。

23.持続可能な開発目標のターゲット16.9〔2030年までに、すべての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する〕に留意しつつ、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
(a) 両親の国籍を取得できない子どもに対しても出生時に自動的に国籍を付与する目的で国籍法第2条(3)〔日本で生まれた子どもは、「父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき」には日本国籍を取得する旨の規定〕の適用範囲を拡大することを検討するとともに、締約国に暮らしているすべての子ども(非正規移住者の子どもを含む)が適正に登録され、かつ法律上の無国籍から保護されることを確保する目的で国籍および市民権に関わるその他の法律を見直すこと。
(b) 登録されていないすべての子ども(庇護希望者である子どもなど)が教育、保健サービスその他の社会サービスを受けられることを確保するために必要な積極的措置をとること。
(c) 無国籍の子どもを適正に特定しかつ保護するための無国籍認定手続を定めること。
(d) 無国籍者の地位に関する条約および無国籍の削減に関する条約の批准を検討すること。
* 〔 〕内の補足および太字は引用者。

 昨年10月には、国連・自由権規約委員会が、無国籍(国籍不詳)の子どもへの対応をめぐってオランダの規約違反を認定し、無国籍認定手続の設置を含む再発防止措置をとるよう同国に促しました。決定が発表された際、同委員会の古谷修一委員(早稲田大学法科大学院教授)は、
「国には、自国の管轄下にあって他のいかなる国の国籍も取得できない無国籍の子どもが法的保護を受けられないまま放置されないことを確保する責任があります」
「国籍に対する権利は、個人、とくに子どもにとっての具体的保護を確保するものなのです」

 とコメントしています(以前の投稿を参照)。

 またUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は、今国会に提出されている入管法(出入国管理及び難民認定法)改正案に関する見解(PDF)を4月9日付で発表しました(概要はこちらのPDFを参照)。そこでも随所で無国籍の問題に言及されており、無国籍認定手続の設置などが促されています。

8.無国籍への対応に関しては、無国籍者の地位に関する 1954 年の条約(無国籍地位条約)および無国籍の削減に関する 1961 年の条約(無国籍削減条約)に加入することならびに無国籍者を保護するための無国籍認定手続を設置することが望ましい。
64.……特に日本では無国籍認定手続が設けられていないことから、無国籍者が必ずしも無国籍者として特定されず、理論的には、出国しないことまたは旅券発給申請命令に従わないことを理由として処罰されることもあり得る。……この機会を捉え、日本政府として、無国籍者が退去強制令書の発付後も無期限に非正規な状況に留まらざるを得なくなることを防ぐ方策として、無国籍認定手続を設け、またはその他のやり方で無国籍者の滞在を許可することを検討するのも有用となり得よう。……

 日本政府(とくに法務省)は、以上のような国際機関の勧告も踏まえ、無国籍の子どもの権利(国籍取得権を含む)が十分に守られるようにするための措置を速やかにとるべきです。

 朝日新聞の連載国籍のない子どもたち(全4回、4月5日~8日配信)も参照。

1)病院にも通えず亡くなった母 私と2歳の娘は国籍がない
https://www.asahi.com/articles/ASP4244DZP2MULFA048.html

2)危篤の母に名を呼ばれても…無国籍の僕は会いに行けない
https://www.asahi.com/articles/ASP4244P0P1KULFA001.html

3)婚前出産タブーの国から来た留学生 予期せぬ妊娠の末に
https://www.asahi.com/articles/ASP4544KRP3KULFA035.html

4)「僕はフィリピン人だったんだ」国籍取得、母を探す職員
https://www.asahi.com/articles/ASP454J2YP38UUPI004.html


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