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国内人権機関は子どもの相談(苦情申立て)にどのように対応すべきか:ユニセフのツールキット

 前回の投稿〈子どものための相談(苦情申立て)サービスはどうあるべきか:アイルランド子どもオンブズマン事務所の指針〉の末尾で紹介しておいたように、ユニセフ(国連児童基金)は「子どもにやさしい苦情申立てのしくみ」Child-Friendly Complaint Mechanisms〔PDF〕)と題する資料を発表しています(アイルランド子どもオンブズマン事務所の指針も参照されています)。

 これは、ユニセフ欧州・中央アジア事務所(UNICEF-ECARO)が2018年後半に発行した、国内人権機関(NHRI)向けの「子どもにやさしい実務の支援ツール」シリーズの一環として作成されたものです。一連のシリーズをまとめて掲載したページがなぜか Consortium for Street Children のサイトぐらいしか見当たらないのですが、シリーズの構成は次のようになっています(以下のリンク先いずれもPDF)。

1)「ツールキットと子どもの権利アプローチのプレゼンテーション」Presentation of the Tool Kit and Child Rights Approach
2)「子どものための、子どもとともに取り組む促進およびアウトリーチ活動」Promotion and Outreach With and For Children
3)「NHRIsの活動への子ども参加」Children's Participation in the Work of NHRIs
4)「子どもにやさしい苦情申立てのしくみ」Child-Friendly Complaint Mechanisms

 1)~3)には発行時期が「2018年9月」と明記してありますが、4)には発行時期が記載されていません。他の資料の参考文献一覧では「2019年」とされているものがありますが、一連の資料のURLには「2019-02」という数字が入っており、発行が2018年9月、サイトでの公開が2019年2月ということなのでしょう。

全般的原則

「子どもにやさしい苦情申立てのしくみ」に関するこのツールキットでは、まず全般的原則(Overarching Principles)として次の6つが挙げられています(pp.10-12;解説文は要旨)。

1)参照枠組みとしての子どもの権利条約
 国内人権機関が設ける苦情申立てのしくみは、子どもの権利条約を主たる枠組みとし、プロセスおよび結果の双方に関して権利を基盤とするものでなければならない。申立ての取扱いにおける国内実務・国内法の解釈に際しては、条約に掲げられた子どもの権利を踏まえなければならないのが原則である。

2)子どもの尊厳の尊重
 プロセス全体を通じて子どもの尊厳が尊重されなければならない。これには、▽他のすべての人と同じ敬意をもって子どもを扱うこと、▽表明された意見を損なうことなく子どもの声を真剣にとらえること、▽必要な情報および質問への回答を提供することなどが含まれる。子どもの申立てがつまらない、些細なまたは的外れなもののように思える場合でも、敬意をもって対応しなければならない。

3)子どもの最善の利益
 プロセスのすべての段階で、子どもの最善の利益原則が検討・考慮されたかどうか考えなければならない。子どもにとって最善の選択肢に関してジレンマが生じる複雑な事案では、次のことがとくに重要である。
 -子どもの意見を聴く。
 -意思決定の際、関連性に応じて複数の関係者(さまざまな職種の専門家および対象の子どもに関わっている人々)との協議が行なわれるようにする。子ども本人の視点を含むさまざまな視点を取得することは、問題の諸相を検討してバランスのとれた結果を見出す最善の方法である。
 -子どもの特性や環境に関わるさまざまな要因を検討する。
 -決定が子どもの発達に及ぼす長期的な影響を評価・予想する。

4)子ども参加
 苦情申立てのしくみへの子ども参加とは、個別の申立てを取り扱う際、申立ての案件およびその扱い方の両方について子どもの意見を聴くことを意味する。子どもは、いつ、どのように、どこで意見を聴かれたいかについて発言権を持つとともに、意見を表明しないことも認められるべきである。子ども参加はまた、しくみの設計、モニタリングおよび検証にも及ぶものであり、よりアクセスしやすい効果的なしくみにするため、さまざまな側面に関する子どもたちの意見を集めなければならない。国内人権機関は、このようなプロセスへの安全かつ効果的な子ども参加を確保するため、次のような多くの措置をとることができる。
 -コミュニケーションに関するニーズは、子どもの年齢、発達段階および個々の状況(言語、ジェンダー、障害)に応じて対応しなければならない。そのためには、(とくに低年齢の子どもを対象として)カードや画像を活用すること、法的概念を簡単な言葉に言い換えること、手話を使うこと、通訳者を用意することなどが必要になる場合もある。
 -力の差を最小限に抑えなければならない。これには、とくに、形式的なやり方を避けること、子どもの目線で座ること、しぐさ、声の調子および使われる言葉に注意を払うことなどが含まれる。
 -大人は子どもの声に積極的に耳を傾け、尊厳をもって子どもを扱わなければならない。子どもが言っていることに綿密な注意を払わなければならない。子どもが適切に理解していることを確かめるために別の言い方でも表現し、フォローアップの質問を行なうべきである。専門家は、若者に対し、質問や心配なことがないかどうか、必ず尋ねることが求められる。子どもの状況や意見を矮小化したり些細なこととして扱ったりするべきではない。
 -プロセスに加え、子どもとやりとりする大人の役割と職務に関しても、説明しなければならない。子どもに対しては、自分の意見が誰と共有され、どのように活用されるのかについて知らせる必要がある。秘密保持とそれが制限される可能性についての明確な情報も提供されなければならない。
 -直接子どもと接する専門家は、すべての年齢・発達段階の子どもおよびとくに脆弱な状況にある子どもとのコミュニケーションに関する訓練を受けているべきである。定期的な再研修も求められる。

5)差別の禁止と、もっとも脆弱な状況に置かれた子どもたちへの注意
 差別の禁止の原則を支持するため、苦情申立てのしくみはすべての子ども(とくに、このようなしくみをもっとも必要としている、もっとも脆弱な状況に置かれた子ども)にとって、平等にアクセス可能なものでなければならない。国内人権機関として、すでに社会に存在しており、一部の集団の子どもによる権利の享受を妨げている偏見を再生産しないよう、配慮することが重要である。

6)保護
 苦情申立ておよびそれをきっかけとする調査によってリスクがもたらされ、子どもの保護に関わる懸念が生じる場合もある。子どもの保護は、国内人権機関にとって恒久的かつ優先的な関心事項とされるべきである。国内人権機関は、そのすべての活動において子どもをリスクにさらさないよう配慮し、子どもの保護を確保するために必要な措置をとるよう求められる。この原則は、子どもの最善の利益とも密接に関係するものである。プライバシー、秘密保持、そして検察官への付託が必要となる可能性が十全に考慮されなければならない。保護に関わる重大な懸念が関わる事案では、国内人権機関は、子ども保護機関など他の主体による対応が必要になるかもしれないことを認識するべきである。

子どもにやさしい苦情申立ての実際的要素

 ツールキットで続いて検討されているのは、子どもにやさしい苦情申立ての実際的要素です(pp.13-17)。そこでは、1)アクセスしやすさ、2)応答性(Responsiveness)、3)適時性、4)公正性、5)子どものための情報、6)プライバシーと秘密保持について取り上げられています。

 それ以降の章では、▽子どもにやさしい苦情申立てのためのしくみの設置・強化、▽課題への対応、▽しくみのモニタリングの評価などが扱われていますが、ここでは省略します。以下、実際的要素として掲げられている6つの要素のポイントを有料エリアで紹介しておきます。

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