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ウクライナ:家族と離れ離れになった子どもの権利を守るために

 ロシアによるウクライナ侵略が続くなか、子どもを含む民間人の被害が増え続けています。

 OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)の3月17日付発表資料によれば、ロシア軍がウクライナ攻撃を開始した2月24日午前4時から3月16日24時(現地時間)までに記録された民間人死傷者は2,032人(死亡780人/負傷1,252人)です。そのうち子どもの死者は58人、負傷者は68人にのぼります。

 これはあくまでもOHCHRが集約した結果であり、OHCHRも認めているとおり、実際にはさらに多い可能性があります。ウクライナ検察当局は、3月17日午前9時の時点で全国で108人の子どもが死亡し、120人以上が負傷したと発表しています(OHCHRの発表資料より)。

 ウクライナから他国に避難する人々も増加の一途をたどっており、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の集約によれば3月16日の時点で約317万人に達しました。その半数近くが子どもであるとされ、ユニセフ(国連児童基金)の発表(3月15日付)によれば1分あたり55人、すなわち1秒あたりほぼ1人のペースでウクライナの子どもたちが難民になっているとされます。

 そのなかには、家族と離れ離れになり、とりわけ脆弱な状態に置かれた子どもたちも少なからず存在しており、ユニセフとUNHCRは3月7日付の共同声明で、▽このような子どもの入国を認めること、▽入国後、直ちに身元確認と登録を行なうこと、▽このような子どもの安全を確保したうえで、家族との再会が子どもにとって最善の利益となる場合には可能なかぎりそのためのあらゆる努力を行なうことなどを関係国・機関に対して求めました。

 ユニセフは、公的機関と援助関係者に向けて、〈ウクライナ内外の子どもの避難民・難民を保護するための指針〉Guidance for protecting displaced and refugee children in and outside of Ukraine)を発表しています(3月10日付)。そこで指摘されているチェックポイントは次の10項目です。 

1.ウクライナの戦争で避難を余儀なくされた子どもたちは、どのようなリスクに直面しているか?
2.これらの子どもたちのなかに、保護者に付き添われていない子どもはいるか?
3.施設養護を受けている子どもたちはどうなっているか?
4.人身取引のリスクは?
5.ボランティアや善意の支援者(Good Samaritans)はどのように子どもを人身取引から守れるか?
6.ウクライナ国内の諸機関および養護施設は、子どもを安全な場所に移動させるために何をすべきか?
7.保護者に付き添われていない子どもを保護するために近隣諸国は何をすべきか?
8.養子縁組については?
9.「ブルー・ドット」とは何か?(注/これについては日本ユニセフ協会の動画〈【ウクライナ緊急募金】国境地帯に子どもと家族を保護する支援拠点“ブルードット”を設置〉などを参照)
10.子どもの避難民およびその家族を保護するために、ユニセフは何をしている?

 ENOC(子どもオンブズパーソン欧州ネットワーク)も、3月16日、欧州議会の副議長兼子どもの権利コーディネーターであるエヴァ・コパチ(Ewa Kopacz)氏と連名で公開書簡を発表し、EU(欧州連合)の政策執行機関である欧州委員会およびEU加盟国に対し、このような子どもを保護するためにとくに次のような措置をとるよう求めました(ENOCの対応については〈ウクライナの子どもたち:欧州の子どもオンブズパーソン/コミッショナーの声明〉も参照)。

● ウクライナ当局および国際機関・NGOと協力し、保護者に付き添われていない子ども、保護・養育者と離れ離れになった子どもおよびウクライナで施設養護を受けていた子どもがEUに入域してきた場合に義務的なスクリーニング、登録およびモニタリングを行なうためのシステムを直ちに設置すること。
● このような子どもの安全と保護を確保する目的とするケアの提供を監督するため、受入れ国の社会的保護・子どもの保護サービスをモニタリングするためのシステムの対象に、このような子どもを直ちに含めること。

 欧州の子ども関係団体で構成されるネットワーク組織 Eurochild も、3月18日付の声明「ヨーロッパは、第2次世界大戦以降は例のなかった規模の子どもの保護緊急事態を経験している」と述べ、EUとして加盟国の子どもの保護担当機関間の調整と協力を緊急に強化することなどを促しています。あわせて発表された「家族のケアを奪われたウクライナの子どもたちの権利を擁護するための主要な勧告」PDF)には、このような子どもの権利を保障するためにとるべき措置がより具体的に掲げられています。

 日本にやってくるウクライナ避難民・難民のなかにはこのような子どもはあまりいないと思われますが、このような場合の支援のあり方について知っておくことは重要でしょう。

 なお、欧州委員会は3月10日付でウクライナの子どもたちの保護を求める声明を発表しています。ロシアに侵略の即時停止を要求する断固とした姿勢が印象的なので、末尾のみ訳出しておきます。

 私たちはロシアに対し、戦争にさえルールがあること、そしてこれらのルールは任意のものではないことを想起するよう求める。民間人を標的とするのをやめよ。民用インフラを標的とするのをやめよ。学校や子どものケアのための施設への爆撃をやめよ。子どもたちは、この戦争の代価を命で払わされるべきではない。国際人道法は維持されなければならず、子どもの普遍的権利は尊重・保護されなければならない。
(中略)
 この不必要な戦争がもたらす破壊的影響は、今後長年にわたって私たちを悩ませるだろう。私たちが目にしているのは、生命の喪失だけではなく、未来の喪失でもある。私たちはロシアに、すぐにこの戦争をやめて、これ以上子どもたちが死ななくてもいいようにすることを促す。世界は見ており、歴史は忘れないだろう。

Statement by the European Commission calling for the protection of children in Ukraine

 このほか、とくに女性と子どもに対する性暴力(人身取引を含む)について、3人の国連人権専門家(人身取引に関する特別報告者/女性に対する暴力に関する特別報告者/紛争下の性暴力に関する国連事務総長特別代表)が3月16日付で声明を発表しています。

Ukraine: Armed conflict and displacement heightens risks of all forms of sexual violence including trafficking in persons, say UN experts(ウクライナ:武力紛争と避難により、人身取引を含むあらゆる形態の性暴力のリスクが高まっていると国連専門家)

 さらに、国連・人種差別撤廃委員会が3月17日付でウクライナの武力紛争から逃れてくる人々への人種差別に関する声明(2022年声明第1号)を発表し、避難民・難民への対応にあたって人種、皮膚の色、世系または国民的もしくは民族的出身による差別が行なわれないようにすることなどを求めたことも付記しておきます。

国連・子どもの権利委員会、ロシアによるウクライナ侵略の即時停止と子どもたちの権利の保護を要求〉も参照。


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