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ユニセフ、平和的集会の自由に対する子どもの権利についての報告書を発表

 9月4日に開かれた国連・子どもの権利委員会第94会期の開会会合でユニセフ(国連児童基金)の代表が言及していましたが、ユニセフは、8月31日、「抗議の自由と安全:子どもが関わる集会の警備」Free and safe to protest: Policing assemblies involving children)と題する報告書を発表しました。

 この報告書は、とくに国連・子どもの権利条約の第15条で子どもに保障されている平和的集会の自由との関連で、警察をはじめとする法執行官による集会の警備のあり方を子どもの権利の視点から考察したものです。要旨(Executive Summary)の「はじめに」(p.v)から、報告書の問題意識がよく表れている箇所を訳出しておきます(太字は平野による)。

 子どもたちのRFPA〔平和的集会の自由に対する権利〕は、子どもたちの人格的発達のために、子どもたちが政治的・公的問題に参加するために、そして地域的・国内的・国際的変革を引き起こすために、重要である。子どもたちが人権促進を目的としてRFPAを行使するときは、1998年の国連・人権擁護者宣言で確認された具体的な法的保護を受ける権利を有する。多くの文脈において、子どもたちは人権の主体としてではなく大人の善意または悪意の客体であると考えられることが多い。子どもたちは、RFPAを行使(しようと)するときに非常なリスクを負う。子どもたちは、年齢および未成年者としての地位を理由として、特別な障壁に直面する。その尊厳および安全が、そして生命さえ、深刻な危険にさらされる可能性もある。子どもは、LEOs〔法執行官〕による対応を、小柄さ、大人よりも限られた人生経験および脳の発達段階のゆえに不均衡に強く感じる場合がある。子どもたちが他の潜在的な多重的・交差的形態の差別を経験している場合、障壁および権利侵害はその度を増す。大人が、子どもの安全または教育についての懸念から、しばしばCRC〔子どもの権利条約〕第3条(子どもの最善の利益)の狭い解釈に基づいて、子どもによるRFPAの行使を妨げる場合もある

 もちろん、検討の対象となるのは条約第15条だけではありません。p.8に掲載された図では、条約に掲げられた諸権利と第15条の関連性がよく描かれています(図に書かれているテキストは訳出しませんが、第3条との関連では、子どもの最善の利益が「子どもたちのRFPAを縮小する言い訳にはならない」ことも指摘されています)。

 報告書は、まず平和的集会の自由に対する権利全般に関わる原則を掲げ、それが子どもにも適用されることを確認しています(p.7)。その一般的原則とは次の4つです(さらに詳しくは、「平和的集会の権利(第 21 条)」に関する国連・自由権規約委員会の一般的意見37号〔2020年、日本弁護士連合会仮訳PDF〕も参照)。

● 制限の法律適合性、必要性および比例性
● 届出要件のアクセス可能性
● 自然発生的な/リーダーのいない集会の保護
● 「可視性・可聴性」
(sight and sound)原則(「参加者は、可能なかぎり、対象とする受け手が見聞きすることのできる範囲内の場所で集会を開けるようにされなければならない」という原則)

 そのうえで、子どもが関わる集会の警備の主要な原則として、次の4つを揚げています(pp.12-13;要約は平野による)。

● 知ること(knowledge)
⇒ 集会の警備にあたる法執行官は、集会の主催者やそこに参加するさまざまなグループについて、よく知っておかなければならない。そうすることで、警察によるどのような対応が攻撃的・挑発的と受け取られるかを自覚し、紛争を防止することにつながる。子どもたちが集会を組織する場合、法執行官は、大人の主催者でなければ集会に関する決定はできないと決めつけず、敬意をもって、辛抱強く丁寧な対応をするべきである。

● ファシリテーション(facilitation)
⇒ 集会警備の全般的目的は、公の秩序および他の人々の安全を守りつつ、平和的集会の自由に対する権利を保護・促進するところに置かれるべきである。主催者・参加者による目標の達成を容易にすることにより、暴力を回避できるのみならず、混乱の可能性を低減し、騒乱が起きたときに効果的に対応するために参加者の支持を得ることもできる。不穏な事態発生や暴力のリスクがある場合、制限が必要な理由を主催者・参加者にわかりやすく説明するととおに、参加者が目標を達成するための代替的なやり方を提案することが重要である。

● コミュニケーション(communication)
⇒ 集会のあらゆる段階を通じて、コミュニケーションが警備の全般的アプローチの基盤とされるべきである。法執行官と集会主催者・参加者の信頼関係を確立・維持することによって、紛争の発生を防止し、起きてしまった紛争を落ち着かせて平和的に解決することが可能になる。集会に立ち会うすべての法執行官は、警備の意図について、参加者やその場に居合わせた人々(子どもたちを含む)に説明できなければならない。したがって、子どもにやさしいコミュニケーションのスキルは、子どもの主催者との連絡担当者だけではなく、法執行官全員が身につけている必要のあるものである。

● 違いを見ること(differentiation)
⇒ 集会は多くの異なる集団から構成される場合がある。法執行官は、すべての子どもが同じような考え方をする単一の集団であると見なしたり、すべての子どもが潜在的に危険な存在であると考えたりするべきではない。大人か子どもかを問わず、暴力行為を行なう者と平和的集会を望む者を可能なかぎり峻別することが求められる。

 これらの原則を踏まえ、平和的集会に対する子どもの権利を尊重・保護・充足するために必要なさまざまな取り組みが、▼集会前(計画段階)、▼集会中、▼集会後の各段階について詳しく勧告されています。とくに集会中の対応については、▽監視(surveillance)と子どものプライバシー権、▽集会の抑制、解散命令および実力・火器の使用、▽子どもの逮捕・身柄拘束などの問題について詳しく取り上げられており、重要です。

国連・子どもの権利委員会、抗議デモに参加する子ども/抗議デモの影響を受ける子どもの権利を保護するようペルーに要求〉などの投稿でも取り上げたように、近年、集会やデモなどを通じて抗議の声をあげる子どもたちへの弾圧が複数の国で行なわれています。気候変動問題を含むさまざまなテーマについての子どもたちによる集会やデモは今後も増えていくと思われますが、このような行動を主導しまたはそこに参加する子どもたちの権利を守るために、いっそうの取り組みが必要です。

 なお、「人権擁護者としての子どもの保護およびエンパワーメント」に関する一般的討議を踏まえた国連・子どもの権利委員会の勧告(2018年)も参照。

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