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日本は「子どもが幸せな国」を目指せるか――ユニセフの「幸福度」ランキングより

 ユニセフ(国連児童基金)・イノチェンティ研究所が、経済的に豊かな国々の子どもたちのウェルビーイング度(幸福度)を比較検討してランク付けした報告書『子どもを取り巻く諸世界のさまざまな影響:豊かな国々の子どものウェルビーイングを形づくるものの理解』(Worlds of Influence: Understanding What Shapes Child Well-being in Rich Countries)を発表しました(9月3日)。同研究所が刊行している「レポートカード」の第16弾です。

 報告書は、活動と人間関係から構成される「子どもの世界」、ネットワークと資源を表す「子ども周辺の世界」、政策と状況(経済的・社会的・環境的要因)からなる「世界一般」という観点から、いわゆる先進国――経済協力開発機構(OECD)または欧州連合(EU)の加盟国中38か国――の子どもたちの状況を分析したものです。worlds of には「多数の」「おびただしい」という意味もありますので、報告書の表題にはその意味も込めているのかもしれません。

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 報告書の概要はユニセフのプレスリリースを参照してください。報告書の原文もこちらから入手できます。

★ユニセフ(日本ユニセフ協会):ユニセフ報告書「レポートカード16」発表 先進国の子どもの幸福度をランキング
https://www.unicef.or.jp/news/2020/0196.html

 日本は、「身体的健康」は1位でしたが、「スキル」が27位、「精神的ウェルビーイング」が37位と振るわなかったため、総合ランキングでは20位に留まりました(すぐ後の21位に韓国が位置しています)。上位5か国はオランダ、デンマーク、ノルウェー、スイス、フィンランドでした。

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 さっそく次のように報じられています。

●NHK:子どもの幸福度 日本は先進国など38か国中20位 ユニセフ調査
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200903/k10012597841000.html

●朝日新聞:日本の子の幸福度 健康は1位、「精神」はワースト2位
https://www.asahi.com/articles/ASN926G7GN92UTFL001.html

●毎日新聞(共同):日本の子ども、幸福感は最低レベル ユニセフ調査、38カ国中37位 健康は1位
https://mainichi.jp/articles/20200903/k00/00m/040/017000c

 少子化対策には躍起になっても、あるいは“将来の”日本社会を担う子どもたちの育成についてはあれこれ議論しても、“いま、ここ”にいる子どもたちを大切にしてこなかったことの、自然な帰結なのだろうと思います。国連・子どもの権利条約を踏まえ、子ども施策のあり方を根本から考え直す必要があります。

 ユニセフは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響も視野に入れながら、次のような対応が必要だとしています(報告書p.4)。

子どもたちと相談する。子どもたちは物事を異なった視点から見ており、環境の未来、人間関係の大切さ、決定への参加に対する真剣な関心を表明している。
政策を関連づける。相互に補完・強化し合う、丁寧に統合化された政策は、子どものウェルビーイング向上の鍵である。
基盤の強化を図る。持続可能な開発目標は、現在、そして将来にわたって子どものウェルビーイングを確保するためのロードマップを提供してくれている。政府は、次の措置をとることを含め、これらの目標を達成するための努力を強化し、加速させるべきである。
1.貧困を削減するとともに、すべての子どもが必要な資源にアクセスできることを確保する。
2.すべての子どもを対象として、負担可能で質の高い乳幼児ケアへのアクセスを向上させる。
3.子ども・青少年のためのメンタルヘルスサービスを向上させる。
4.職場関連の家族にやさしい政策を実施・拡大する。
5.高止まりを続ける大気汚染の水準を低下させる。
6.予防可能な病気から子どもを守るための予防接種の努力を強化する。(注1)

 とるべき対応の筆頭に子どもたちとの相談(協議)が挙げられていることは、やはり重要です。子どもたちの意見をきちんと受けとめることは、精神的ウェルビーイングの向上にとって必要不可欠です。

 先日の記事で書いたように、韓国は「子どもが幸せな国」をビジョンとする第2次子ども政策基本計画(2020年~2024年)を策定し、「権利主体としての子どもの権利の実現」を目指していく姿勢を明らかにしました。日本はどうするのでしょうか。


(注1)1~6の内容と表現は、前掲プレスリリースの末尾で紹介されているものとは若干異なります。プレスリリースでは、「子どものいる家庭を支援するCOVID-19関連の政策を改善し、子どもの幸福度を支える予算が緊縮財政措置から守られるようにする」ことの必要性も指摘されています。

(注2)NHKの記事の末尾で触れられている前回の調査――ユニセフ イノチェンティ研究所・阿部彩・竹沢純子(2013)『イノチェンティレポートカード 11 先進国における子どもの幸福度―日本との比較 特別編集版』公益財団法人 日本ユニセフ協会(東京)――はPDFで入手できます。このときは日本は全体で6位という結果が出ていますが、調査方法や元にしているデータがかなり異なるため、経年比較には意味がないと思われます。

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【追記1】(9月6日)
 ユニセフのプレスリリースの冒頭に、日本の結果の概要が追記されています。なお、生活満足度は2018年のPISA(OECD生徒の学習到達度調査)の結果によるものです。

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【追記2】(9月8日)
 比較的詳しい紹介記事が出ていました。

●BuzzFeed Japan:子どもの精神的な幸福度、最下位はニュージーランド。日本は…
https://news.yahoo.co.jp/articles/d09a7f73c5bdf1b44be19aff4432adb6d89a56b0

【追記3】(9月10日)
 萩生田光一文相が9月8日の記者会見で今回の調査についてコメントしています。

記者)
 先週発表されましたユニセフによる国際子供の幸福度調査に関して伺いたいんですけれども。結果として、日本の子供たちは、身体的な健康は世界で一番だと。一方で、精神的な幸福度という意味で言うと、下から2番目の37番目、それからスキルという観点で言うと、学力は高いけれども、社会的なスキルはそれほど高くないというような結果が出ているんですけれども、子供たちが、精神的な幸福度がそれほど高くないというような調査結果というのはこれまで様々な国際調査で出ていると、こういう状態が続いているわけですけれども、この点に関して、大臣としてどのように認識されているのか、それから、これが改善していないということに関して、今後、どのようにお考えか、何か対策とか考えておられるのか、そのあたりを伺えないでしょうか。
大臣)
 先日、ユニセフの研究所が、先進国の子供の幸福度に関する調査レポートを公表しました。日本は「身体的健康」は38か国中1位ですが、「学力・社会的スキル」は27位、「精神的幸福度」は15歳~19歳の若者の人口当たりの自殺数の多さや、15歳時点での生活満足度の低さなどから、37位という評価でありました。こうした結果は、様々な見方もあるでしょうが、例えば、「精神的幸福度」の元になった数値を見れば、学校教育を含め、子供たちの成長を社会全体で支える取組を一層充実していくことが求められていると感じています。文科省としても、こうした調査結果を参考としつつ、今後の施策に生かしてまいりたいなと思います。何か対策があるのかということなんですけど、私も、この結果を見てちょっとびっくりしたんですけれど、しかし、割と日本の子供たちって自己肯定をしづらいような回答をする傾向というのは多くあって、これ、私の私見ですよ、入学時期が、ユニセフの、ユニセフが調べている学校とヨーロッパなんかと違うものですから、高校1年生か中学3年生かによっては、質問の時期によって、結構、思いって違うと思います。すなわち、高校1年生になっていればですね、これからの高校3年間というのは、目標だとか希望とかあると思うんですけど、15歳の質問時が中学3年生でということになると、受験を控えてですね、まして、コロナで学校行事がどんどん中止になる、修学旅行もなくなる、自分が頑張っていた部活も成果が表せない。幸せですかって言われたらやっぱり幸せじゃないと、こういう答えが返ってくるのも、今年はやむを得ないかなというふうに思います。しかしながら、ここで言い訳を言っていても仕方がないので、しっかり子供たちが、何に心をですね、言うならば、心配をして対応しているのか、こういったことを、ユニセフの調査だけじゃなくて、機会あるごとにきっちり汲み上げてですね、それに寄り添って、学校教育などを充実させていくことで、皆さんの不安を解消したり夢を実現する後押しをしていったりしたいなと思っています。

 生活満足度に関するデータは、2018年6~8月に高校1年生相当学年の生徒を対象として行なわれたPISA(OECD生徒の学習到達度調査)の結果を踏まえたものであり、荻生田文相の私見はそもそも前提が間違っていますが、対策をとる必要性については認識しているようですので、しっかりやってもらいたいと思います。なお、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は今回の結果には関係ありませんが、子どものウェルビーイングのいっそうの低下につながる可能性があるのは間違いありませんので、その視点も当然必要になります。

【追記4】(9月18日)
 日本に関するより詳しい解説とコメントが出ました。

★日本ユニセフ協会:ユニセフ報告書「レポートカード16」 先進国の子どもの幸福度をランキング 日本の子どもに関する結果
https://www.unicef.or.jp/report/20200902.html

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