第5回児童労働撤廃世界会議(南アフリカ)に初めて子どもたちが参加――しかし依然として及び腰なILO
5月15~20日、南アフリカのダーバンで「第5回児童労働撤廃世界会議」が開催されました。オスロ(ノルウェー/1997年)、ハーグ(オランダ/2010年)、ブラジリア(ブラジル/2013年)、ブエノスアイレス(アルゼンチン/2017年)に続くものです。
★ILO(国際労働機関):第5回児童労働撤廃世界会議 「児童労働に終止符を」 南アから呼びかけ
https://www.ilo.org/tokyo/information/pr/WCMS_845861/lang--ja/index.htm
(リリース原文はこちらを参照)
会議の結果採択された「ダーバンからの行動要請」(Durban Call to Action)では、とくに次の6つの分野における迅速な対応が呼びかけられています(前掲リリースによる)。
1)最悪の形態の児童労働の撲滅を優先的に進めるため、複数のステークホルダーによる児童労働撤廃の取り組みを加速させ、成人と就労年齢以上の若者のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を実現させる
2)農業における児童労働を撲滅する
3)最悪の形態の児童労働、強制労働、現代の奴隷制、人身売買を含む児童労働を予防し、撲滅する。最悪の形態の児童労働から逃れた人々〔平野注/適切な訳ではないと思われます。後述〕の意見を尊重し、データに基づいた政策やプログラムを通じて保護を強化する
4)子どもたちが教育を受ける権利を享受できるようにする。無償で質の高い、公平で、包摂的(インクルーシブ)な義務教育・訓練を誰もが利用できるようにする
5)誰もが社会的保護を利用できるようにする
6)児童労働と強制労働をなくすために資金を調達し、国際協力を拡大する
一連の世界会議の歴史上初めて子どもの代表が参加したことも、注目すべき点です(昨年の投稿〈国連・子どもの権利委員会とILOが「児童労働反対週間」にあたり共同声明を発表〉の末尾でも指摘したとおり、ILOは働く子どもたち自身の意見を聴くことについて一貫して消極的な姿勢を示してきており、おそらくはそのために、一連の世界会議への子どもの参加を認めてきませんでした)。
5月19日には「子どもフォーラム」も開催されました。その様子はアーカイブ動画で見ることができます(国連・子どもの権利委員会の大谷美紀子委員長もオンラインで参加しています)。
参加した子どものひとりで、ネルソン・マンデラ子ども議会の副議長を務めるマリー-アン・プレトリアス(Mary-Ann Pretorius)さんを紹介する記事もアップされています。
国連・子どもの権利委員会も、「とくに、自己に影響を与えるすべての事柄について効果的に参加しかつ意見を表明する子どもたちの権利を尊重することへのコミットメントに留意」しつつ、「行動要請」を歓迎しました。
もっとも、「行動要請」ではこの点について明確なコミットメントが打ち出されているわけではなく、前文で
「自分自身の意見をまとめる子どもたちの能力と、自己に影響を与えるすべての事柄について効果的に参加しかつ自由に意見を表明する子どもたちの権利を尊重し、」
と述べられているだけです。子ども参加を組織的・継続的に進めていこうとする姿勢はうかがえません。
また、前掲6分野の3)では「最悪の形態の児童労働から逃れた人々の意見を尊重し、データに基づいた政策やプログラムを通じて保護を強化する」と述べられていますが、「最悪の形態の児童労働から逃れた人々の意見を尊重し」の原文は survivor-informed であり、「サバイバーの経験や意見を参考にした(政策やプログラム)」などと解するのが妥当でしょう。さらに、ここでいう「サバイバー」が(最悪の形態の児童労働に限らず)あらゆる児童労働の元当事者を指していることは文言上明らかで、現に働いている当事者である子どもを注意深く排除しようとしているのではないかという印象も受けます。
国連・子どもの権利委員会とILOの共同声明について取り上げた前掲記事では、子ども労働組合の組織化・活動を支援してきたインドの団体 CWC(The Concerned for Working Children)の主催イベントでとりまとめられた、働く子どもたち自身の要請文についても紹介しました。
今年も、「働く子ども国際運動」(International Movements of Working Children)を構成する当事者団体による共同声明が4月29日付で発表されています。そこではILO等の方針が次のように批判されています(太字は平野による)。
今回の児童労働撤廃世界会議を踏まえて出された5月16日付の共同声明もほぼ同じ内容ですが、「そこで、直近の要求として……」以下の部分が次のような文言に修正されています。
現に働いている子どもたちの声に積極的に耳を傾け、それぞれの状況に応じた現実的かつ包括的な対応を進める方向への転換を図ることが、あらためて求められていると思います。
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