見出し画像

入管収容問題に関する国連・移住労働者権利委員会の一般的意見5号――「差別の禁止」や「移住者の非犯罪化」の原則も強調

 かつて廃案に追いこまれた出入国管理及び難民認定法(入管法)改正案が骨格はそのままに再提出されるということで、いろいろあって先延ばしにしてきた国連・移住労働者権利委員会の一般的意見5号(入管収容)の日本語訳を作成・公開しました。

★移住労働者権利委員会・一般的意見5号(2021年):身体の自由および恣意的拘禁からの自由に対する移住者の権利ならびにこれらの権利と他の人権との関係
https://w.atwiki.jp/childrights/pages/338.html

 PDFも上記ページからダウンロードできるので、ご参照ください(訳者名の右にリンクを掲載しています)。

 一般的意見5号の構成は次のとおりです。入管収容に焦点を当てたものではありますが、差別の禁止の原則(パラ32~34)、移住者の非犯罪化の原則(パラ35~37)などの一般的原則についても述べられています。

I.はじめに
II.身体の自由に対する移住労働者およびその家族構成員の権利の保護に関する規制枠組み
 A.条約における身体の自由および安全に対する権利
 B.その他の国際法・地域法文書
 C.自由剥奪の定義
 D.移住労働者およびその家族構成員が対象とされる可能性のある自由剥奪の態様
 E.恣意的拘禁の禁止
  1.例外的な最後の手段としての収容
  2.非恣意性
III.身体の自由に対する権利の保護に関わる条約の規定を実施するための一般的措置
 A.管轄
 B.収容の実行要員
 C.条約の規定を実施するための措置をとる締約国の法的義務
VI.身体の自由に対する移住労働者およびその家族構成員の権利に関わる条約の基本原則
 A.差別の禁止の原則
 B.移住者の非犯罪化の原則
 C.入管収容の例外性の原則
 D.移住者である子どもの非収容原則
 E.脆弱な状況にある者の非拘禁原則
V.身体の自由に対する移住労働者およびその家族構成員の権利を保護する条約締約国の法的義務
 A.収容を行なう前に個別の事案ごとに収容代替措置を検討する義務
 B.収容期間
 C.司法にアクセスする権利
 D.司法上の保障
  1.収容の理由を告知される権利
  2.収容の司法審査
  3.領事機関による援助および保護
  4.無償の法的援助および通訳の援助
  5.出入国管理手続に関する決定を通知される権利
 E.拷問および残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは処罰の禁止
 F.奴隷化、隷属および強制労働または義務的労働の禁止
 G.プライバシーおよび家族生活に対する権利
 H.健康に対する権利
 I.財産権および身分証明・個人証明書類の保護義務
 J.収容環境
 K.収容場所における人権の監視
VI.監督および説明責任
VII.情報・データへのアクセスおよび指標
VIII.この一般的意見の普及および活用ならびに報告
IX.条約の批准または条約への加入および条約に付した留保

 日本は国連・移住労働者権利条約を批准していませんが、委員会も強調しているように恣意的拘禁の禁止は国際法上の強行規範であり、この一般的意見で述べられていることの多くは未批准国にも当てはまります。また、身体の自由および恣意的拘禁からの自由に対する権利は日本が批准している他の人権条約(自由権規約や拷問等禁止条約など)でも保障されている権利であることから、日本政府としても、この一般的意見をしっかり検討したうえで今後の対応を考える必要があります(この点につき、〈国連・移住労働者権利委員会、移住者の恣意的拘禁等に関する一般的意見草案を公表〉も参照)。

 さらにこの一般的意見は、日本も賛成した安全で秩序ある正規移住のためのグローバルコンパクト(2018年)の実施に関する指針を示すものとしても位置づけられています(パラ8)。なお、移住労働者権利委員会は現在、移住労働者権利条約と同グローバルコンパクトの収斂(convergence)に関する一般的意見6号も作成中です。

 今回の一般的意見に関連するnoteの記事は日本語訳を掲載したページでもリンクを貼っていますが、そのほか〈不審死について適正な調査を行なわないこと自体、生命権の侵害である――国連特別報告者〉や〈日本政府は拷問等禁止条約の選択議定書を速やかに批准せよ――話はそれからだ〉もご参照ください。

 今回再提出が目論まれている入管法改正案の問題点については多くの指摘がありますが、たとえば以下を参照。

-Dialogue for People(安田 菜津紀):入管法はどう変えられようとしているのか?その問題点は?
-論座(児玉晃一):問題が多すぎる。入管法改正案の再提出
-STOP長期収容市民ネットワーク加入団体:声明 難民を虐げ、在留資格のない人の命を危うくする法案は、もうやめてください――入管法改定案の再提出に反対します!
-東京弁護士会:入管法案の再提出に反対する会長声明
-関東弁護士連合会:入管法改定案の再提出に反対する理事長声明

【追記】(1月27日)
 STOP長期収容市民ネットワークに加入する7団体による署名も始まりました。

難民を虐げ、在留資格のない人の命を危うくする、 入管法改悪に反対します!


いいなと思ったら応援しよう!

平野裕二
noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。