カナダ・ケベック州裁判所、小説内の表現が児童ポルノであるとして訴追された作家に無罪判決
小説作品における性的虐待の描写が児童ポルノに該当するとして訴追されていたカナダ・ケベック州の作家と出版担当者に対し、ケベック州上級裁判所が無罪を言い渡しました(9月24日)。
事案の概要は次の記事に詳しくまとめられています。
★Gigazine:「父親が娘に性的暴行するシーン」を書いた小説家が「児童ポルノ製造容疑」で逮捕される
https://gigazine.net/news/20200107-author-charged-with-child-porn-novel/
カナダ刑法第163.1条は次のように定めています(太字は引用者=平野)。
ケベック州最高裁のマルク-アンドレ・ブロンシャール(Marc-Andre Blanchard)判事は、これらの規定の一部は範囲が広すぎ、権利および自由に関するカナダ憲章で保障された表現の自由等を侵害するので無効であるとして、被告人らを無罪とする判決を言い渡しました。
★ HuffPost Canada: Quebec Court Ruling Declares Part Of Canada's Child Pornography Law Invalid
https://www.huffingtonpost.ca/entry/quebec-court-child-pornography-law_ca_5f6fc200c5b6cdc24c1a09df
公判において、ケベック州側は「子どもとの性的行為を描くすべての表現物は有害である」などと主張して逮捕・訴追の正当性を主張したようですが、ブロンシャール判事は、ビデオ、写真、描画など「具体的現実をあからさまにする表現物」(material that exposes a tangible reality)と「文学的虚構」(literary fiction)とは区別しなければならないとしたうえで、未成年者との性的活動の「唱道」(advocate)または「勧奨」(advise;刑法の規定では counsel)という概念は、ポルノ的な文章を含む表現物を犯罪化する法律が憲法上の妥当性を認められる前提であると判示しました。
また、現行法の定義では、性暴力の被害者が自分の経験について公に発言することも違法となる可能性があるとも指摘しています(作者のゴッドバウト氏は、別の記事で、自分が目指したのは密室で起きている恐るべき行為を明るみに出して非難することだった、と述べています)。
記事からは、第163.1条(1)(c)の規定にいう「性的目的で」という文言がどのように解釈されたのかは明らかではありません。ケベック州当局による今回の逮捕・訴追や「子どもとの性的行為を描くすべての表現物は有害である」という公判での主張がそもそも刑法の規定の趣旨を逸脱しているような気もしますが、いずれにしても、少なくとも第163.1条(1)(c)の合憲性は、今回の判決では部分的または全面的に否定されたということになるようです。他方、犯罪に該当する未成年者との性的活動を唱道・勧奨する表現は、たとえ文章であっても引き続き犯罪とされる可能性があるでしょう。
詳しく検討していませんが、判決書(フランス語)は以下のURLから参照できます。なお、ケベック州側が上訴する可能性もあります。
https://www.canlii.org/fr/qc/qccs/doc/2020/2020qccs2967/2020qccs2967.html
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