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国連・子どもの権利委員会、レズビアン・カップルの子どもの庇護をめぐる対応についてフィンランドの条約違反を認定

 Facebookへの投稿(2月5日付)でお知らせしておいたとおり、国連・子どもの権利委員会は、オンラインで開催された第86会期(1月18日~2月4日)中に個人通報制度に基づく通報の審査を進め、フィンランド、デンマークおよびスペインを相手どった4件の通報について条約違反を認定しました。

 各事案の概要についてはおいおい紹介しますが、今回はフィンランドに対する決定(CRC/C/86/D/51/2018、決定:2021年2月4日付/正式文書発行:3月12日付)について取り上げます。ロシア出身のレズビアン・カップルの子どもの在留を認めなかったことについて、フィンランド移民局の対応に瑕疵があったと認定された事案です。

 本件通報の申立人は、2010年6月にロシア連邦で生まれた男の子(申立て当時8歳)です。生みの母およびそのパートナーである女性とともに2015年までロシアで暮らしていましたが、レズビアン・カップルに育てられていることが知られるようになるにつれて幼稚園でいやがらせやいじめを受けるようになり、5歳のときにフィンランドに移住しました。

 カップルは、性的指向による迫害・差別のおそれを理由としてフィンランドに庇護および人道的在留許可を申請しましたが、フィンランド当局はこれを棄却。やむをえず2017年8月にロシアに自主帰国しましたが、依然としてさらなる迫害・差別を受けるのではないかという継続的恐怖のなかで暮らしています。そこで、フィンランド当局が子どもの最善の利益を十分に考慮しなかったことなどを理由として、委員会への申立てを行なったものです。

 委員会は、条約第3条(子どもの最善の利益)、第19条(虐待等からの保護)および第22条(難民の子ども)に基づく申立人の主張について受理可能であると認め、関連NGOから提出された意見書(第三者介入)も参照しながら本案審査を実施しました。委員会の認定は、大要以下のとおりです。

● フィンランド移民局は、当事者である申立人の意見を考慮しないまま、決定において子どもの最善の利益に形式的・一般的に言及するのみで、申立人が置かれている具体的状況を十分に考慮しなかった。
● フィンランド当局は、ロシアに送還された場合に申立人が直面する、母親らの性的指向を理由とする深刻な権利侵害(暴力およびハラスメント等)の現実のリスクを適正に考慮せず、そのためノンルフールマンの義務(迫害等が行なわれるおそれのある国・地域への送還の禁止)の適用理由にあたる、申立人に対する回復不可能な危害の現実のリスクを認定しなかった。
● フィンランドによるこのような対応は、条約第3条、第19条および第22条に違反する。

 このような認定を踏まえ、委員会はフィンランドに対し、申立人に「十分な補償を含む効果的な賠償」(an effective reparation to the author, including adequate compensation)を行なうよう勧告するとともに、再発防止措置をとるよう促しました。申立人がまだフィンランドにいる場合には庇護棄却決定の再考を求めることになったのでしょうが、すでにロシアに帰国していることから、このような勧告になったと思われます。

 性的指向およびジェンダーアイデンティティに基づく暴力および差別からの保護に関する国連独立専門家を務めるビクトル・マドリガルーボルロス(Victor Madrigal-Borloz)氏も、Facebookでこの決定を高く評価しました。

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国連・子どもの権利委員会が行なった、性的指向に関する初めての決定を歓迎します。そこでは、レズビアン・カップルの子どもの庇護申請を棄却するにあたり、フィンランドが子どもの最善の利益を考慮しなかったと認定されました。
フィンランド当局は、子どもが過去に脅迫、いじめおよび差別を経験していたことを認識していながら、これらの経験は迫害に相当するものとは認められないと結論づけました。委員会は、フィンランドはロシア連邦に送還された場合に生じうる回復不可能な危害の現実のリスクから子どもを保護しなかったと指摘し、「申立人に対し、十分な補償を含む効果的な賠償」を行なうよう決定しました。

 個人通報制度に基づく国連・子どもの権利委員会の決定等については私のサイトを参照。処理が追いついていませんが、順次更新していきます。


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