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オーストラリア国家人権委員会、「子どもの権利影響評価」(CRIA)に関する報告書とツールを発表

国際的動向を踏まえたよりよい「こども大綱」に向けて:「子どもの権利影響評価」をめぐる議論と取り組みなど〉で「子どもの権利影響評価」(Child Rights Impact Assessment: CRIA)についても触れましたが、オーストラリア国家人権委員会は、10月25日、CRIAの活用を促す報告書を発表しました。

-National Children's Commissioner urges governments to monitor child rights
https://humanrights.gov.au/about/news/media-releases/national-childrens-commissioner-urges-governments-monitor-child-rights

 国家人権委員会がユニセフ(国連児童基金)・オーストラリアとともに作成した報告書「子どもたちを守る:子どもの権利影響評価ツール」(Safeguarding Children: A child rights impact assessment tool)は、こちらのページからダウンロードできます。

 CRIAの標準テンプレートだけ独立させたファイル(PDF)も作成されています。

 標準テンプレートでは、CRIAのプロセスを7つのステージに分けて、各ステージごとに記載すべき内容/検討すべき問題が列挙されています。以下、その概要を紹介します。


ステージ1:スクリーニング

1.対応しようとしている問題と、当該政策/立法の全般的目的を記述する。

2.チェックリストを用いて、子どもの権利が当該政策/立法によって増進されまたは制限される可能性があるかどうか明らかにする。

(前略)
 子どもの権利に対する直接の影響とは、子どもの生活に明白な影響を及ぼす政策/立法をいう。たとえば――
・ 子どもと家族による学校および乳幼児期教育へのアクセスのあり方が当該政策/立法によって変わる(たとえばCOVID-19を理由として学校を閉鎖する)場合、教育への権利に影響が生じる。
・ 当該政策/立法がコミュニティやレクリエーション空間の再開発につながる(たとえば公園をなくして商業用事務所空間を設ける)場合、休息・余暇への権利に影響が生じる。
・ 当該政策/立法が子どもに関連する個人情報の収集につながる場合、プライバシーへの権利が関わってくる可能性が高い。

 子どもの権利に対する間接的影響は、当該政策/立法が主として子ども以外の者に影響を及ぼすものであっても、結果として子どもも影響を受ける場合に生じる。たとえば――
・ 当該政策/立法によって親の子育て能力に影響が生じる場合(たとえば義務的量刑制)、結果として子どものウェルビーイングに影響が及ぶので、子どもの最善の利益が考慮されなければならない。
・ 当該政策/立法によって社会的・経済的給付への親のアクセスに影響が生じる場合、親が基本的な生活必需品のための費用を負担することができない結果、子どもの権利の多くに影響が及ぶ可能性がある。

 他の権利にも影響が生じる場合、子どもの権利条約を参照のこと。

3.チェックリストに照らし、当該政策/立法の影響を受ける可能性がより高い特定の集団の子ども(その家族・養育者を含む)は存在するか?

・アボリジナルおよびトレス海峡諸島民の子ども
・文化的・言語的に多様な子ども
・障害のある子ども
・LGBTIQA+である子ども
・ホームレス状態を経験している子ども
・子ども保護制度の適用を受けている子ども
・少年司法制度の適用を受けている子ども
・難民または庇護希望者の背景を有している子ども
・大都市以外の地域(regional area)または遠隔地に住んでいる子ども
・社会経済的に低層の世帯に住んでいる子ども
・該当なし

4.スクリーニングの知見に基づき、全面的な影響評価が必要とされるか?
 ⇒ イエスならステージ2へ進む。ノーなら(その理由を簡単に説明したうえで)ここで終了する。

ステージ2:情報源の特定

5.当該政策/立法が及ぼしうる影響の評価を行なうために、どのようなタイプの情報が入手可能か?

6.この評価にとって有益となるであろう情報のうち、どのようなタイプのものが見当たらないか?

7.関与してもらう必要のある関係者は誰か?

8.子どもたちの意見や経験が意思決定の参考にされることを確保するため、子どもたちは政策/立法の立案プロセスにどのように関与したか? これには、影響を受ける可能性がより高い集団の子どもたちも含まれているか?

ステージ3:生じる可能性がある影響の特定

9.当該政策/立法が子どもの権利に及ぼす肯定的な影響はどのようなものか?

10.当該政策/立法が子どもの権利に及ぼす否定的な影響はどのようなものか?

11.当該政策/立法が異なる集団の子どもたちに及ぼす影響はどのようなものか?

ステージ4:影響および緩和要因の分析

12.当該政策/立法には、子どもの権利への否定的な影響を緩和しまたは子どもの権利への肯定的な影響を増進させるための、どのような措置または保障が含まれているか?

13.当該政策/立法には、より悪影響を受ける可能性がある特定の集団の子どもたちへの影響に対処するための具体的措置または保障が含まれているか? 含まれている場合、説明する。

ステージ5:結果と勧告

14.この評価によって、提案されている政策/立法が子どもの最善の利益にかなったものである理由がどのように明らかにされたか、要約して記述する。

15.子どもの権利に否定的影響が出ないようにするため、当該政策/立法をさらに修正しなければならない点はあるか?

ステージ6:CRIAの公表

16.評価の完全版または要旨を公表する必要があるか? 必要ない場合、なぜか?

17.チャイルドフレンドリー版は作成されるか? 作成されない場合、なぜか?

ステージ7:モニタリングと検証

18.この評価の主要な知見および勧告のモニタリングのために割り当てられた資源について記述する。または、資源が割り当てられなかった理由を説明する

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今後5年程度を見据えたこども施策の基本的な方針と重要事項等~こども大綱の策定に向けて~(中間整理)」でも
「各種施策を企画立案・実施するに当たりこどもや若者の権利に与える影響を事前又は事後に評価する取組の在り方について調査研究等を進める」
 とされていますので、オーストラリアのこうした取り組みも参考になるでしょう。このような評価が国・自治体レベルで組織的に実施されるようになれば、子どもの権利を十分に踏まえない的外れな施策によって子どもや親・養育者に悪影響が生じることも少なくなると思います。

 このほか、〈子どもの権利影響評価への子ども参加:スコットランド子ども・若者コミッショナーのガイド〉や〈ウェールズ政府(英国)、子どもの権利アプローチを実践するための政府関係者向けマニュアルを作成〉も参照。


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