欧州評議会・ランサローテ委員会、子どもに対する性犯罪の公訴時効や性的同意年齢について議論するセミナーを開催(5月31日)
1)TBS:「同意なしの性行為は処罰対象」刑法改正案が衆議院通過 「強制・準強制性交罪」から「不同意性交罪」に変更
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/512196
2)NHK:強制性交罪を「不同意性交罪」に変更など刑法改正案が衆院可決
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230530/k10014082701000.html
昨日(5月30日)、上記の刑法等改正案(刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案)が衆議院を通過しました。全会一致とのことなので、参議院でも可決されて成立するのは間違いないと思われます。なお、NHKの記事で触れられている、「撮影罪」等について規定している法案は、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案」です。
性的同意年齢については、法制審議会の試案の段階では「13歳以上16歳未満の者に対し、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、当該13歳以上16歳未満の者の対処能力が不十分であることに乗じて性交等をしたとき」(太字は平野による)のみ処罰の対象にするという不適切な要件が付されていましたが、これは削除されました(法案176条3項・177条3項)。5歳という年齢差が妥当かどうかについては依然として疑問の余地がありますが*、この点については、「中学生と、18歳や19歳の成人の場合は一律に許容されるわけではない」という趣旨の文言が附帯決議に盛りこまれたようです(5月24日付のNHK配信記事による)。
性的同意年齢の設定および同年代の若者同士の場合の適用除外の規定(恋人条項〔sweetheart clause〕/年齢近接を理由とする適用除外〔close-in-age exemption〕条項/ロミオとジュリエット〔Romeo and Juliet〕条項)、そして子どもを対象とする性犯罪の場合の公訴時効の定めについては、ヨーロッパ諸国でもさまざまなアプローチがとられています。ちょうど、この点について議論するセミナーが5月31日にストラスブール(フランス)で開催されることになっており(ライブストリーミングもあります)、欧州諸国を対象としたアンケート調査の結果も公表されていますので、お知らせします。
-Public seminar of the Lanzarote Committee: Statutes of limitation in respect of sexual offences against children & Approaches to the legal age for sexual activities
https://www.coe.int/en/web/children/lanzarote-capacity-building-event-2023
このセミナーは、欧州評議会・ランサローテ条約(性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する条約、2007年)の履行状況を監督するために設けられているランサローテ委員会が主催するものです。2部構成で、それぞれ次のテーマについて掘り下げることになっています。
■ 子どもに対する性犯罪についての公訴時効
子どもに対する性犯罪については公訴時効を(全面的にまたは重大な犯罪に限って)撤廃した国が多いようですが、依然として公訴時効を維持している国もあります(ただし、全体的としては公訴時効を延長する傾向が観察できるようです)。セミナーでは、各国のアプローチを検討しつつ、公訴時効のあり方について議論される予定です。
■ 性的活動に関する法定年齢へのアプローチ
欧州諸国の性的同意年齢は14歳から18歳までさまざまであり、「ロミオとジュリエット」条項の扱いも各国で異なっています。セミナーでは、最近の法改正の動向も含め、各国の現状が概観される予定です。「同意」(または同意の欠如)の概念を精確に定義することが可能か、またそうするべきかについても議論するとのことです。
セミナーは丸1日(午前9時半~午後6時/中央ヨーロッパ時間)かけて行なわれ、私はちょっと視聴することができませんが、プレゼンテーションの内容はセミナー終了後に前掲ページに掲載されるようですので、また確認してみたいと思います。
なお、ランサローテ条約18条1項bで「子どもとの信頼関係、子どもに対する権威または影響力を有すると認められている立場(家庭内におけるものを含む)が濫用される」場合の性的活動の犯罪化が義務づけられていることとの関連で、立憲民主党が5月26日に「地位利用第三者児童虐待防止法案」(児童虐待の防止等に関する法律の一部を改正する法律案)を衆議院に提出したことも付記しておきます。刑法における監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の新設(2017年)、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律の制定(2021年)によっても取りこぼされてきた課題であり、速やかに検討していく必要があると思います。
noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。