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欧州評議会議員会議、「オンラインの暴力からの子どもの保護」に関する決議を採択

 欧州評議会の諮問・監督機関である議員会議(Parliamentary Assembly)が、4月19日、「オンラインの暴力からの子どもの保護」に関する決議 2547 (2024) を採択しました。

- Parliamentary Assembly of the Council of Europe: PACE urges new laws to protect children online
https://pace.coe.int/en/news/9442/pace-urges-new-laws-to-protect-children-online

 オンラインの性的搾取・虐待をはじめとするさまざまな暴力が深刻化しつつあることに鑑み、これらの暴力から子どもを保護するための措置をとるよう、欧州評議会加盟国に対して求める内容です。その際、「いかなる措置または政策の策定および実施においても子どもの最善の利益が優越しなければならないこと」(パラ3)、「インターネットから利益を得る子どもたちの機会を損なうことなくオンラインの危害にさらされることを少なくするための、統合的でバランスのとれたアプローチを適用すること」(パラ4)の必要性が強調されています。

 欧州評議会加盟国だけではなく、日本を含むオブザーバー国などに対しても、ランサローテ条約性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する欧州評議会条約やブダペスト条約サイバー犯罪条約への加入が促されています。日本はブダペスト条約には加盟済みですが、ランサローテ条約への加入も、イスタンブール条約(女性に対する暴力およびドメスティック・バイオレンスの防止およびこれとの闘いに関する欧州評議会条約)への加入とあわせて検討していく必要があるでしょう。

 以下、決議全文を訳出しておきます(太字は平野による)。

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1.議員会議は、とくにインターネットで増大しつつある危険および新たな形態のオンライン暴力に鑑み、デジタル環境で子どもたちを保護する緊急の必要があることを強調する。

2.子どもたちは、ときには幼いころから、さまざまな形態のオンライン暴力にますますさらされるようになっている。その身体的・心理的影響はしばしば破壊的なものとなる。とくにCOVID-19パンデミックおよびロックダウンの際にインターネットおよびデジタルツールの使用が増えたことにより、子どもたちは年齢にふさわしくないコンテンツや行動に過剰にさらされるようになってきた。スマートフォンがオンラインにおける人格的発達のための新たな回路を開いたことは間違いないものの、それは暴力の潜在的な源でもある。

3.安全な環境づくりおよび危害のリスクの最小化が、オンラインで子どもたちを保護するために不可欠である。子どもたちの保護と子どもたちの表現の自由および他の競合し合う権利とを調和させることの難しさに留意し、議員会議は、いかなる措置または政策の策定および実施においても子どもの最善の利益が優越しなければならないことをあらためて繰り返す。

4.したがって、議員会議は、インターネットから利益を得る子どもたちの機会を損なうことなくオンラインの危害にさらされることを少なくするための、統合的でバランスのとれたアプローチを適用することにより、デジタル環境で子どもたちを保護する包括的な法的枠組みを確立するよう、加盟国に訴える。議員会議はとくに、子どもたちを保護するために次の措置をとるよう加盟国に求めるものである。

  • 4.1 最低基準のひとつとして、ウェブサイト(とくに、子ども向けではなく、かつオフラインの世界でも同様の義務を生じさせるような製品やコンテンツを提供するサイト)に対して効果的な年齢確認義務を課すこと。

  • 4.2 オンラインでの子どもの搾取、虐待、暴力およびポルノへの曝露を発見するための知識や支援を欠いていることの多い親および養育者の関与を促しかつその意識啓発を図るとともに、市民社会および家族団体の支援を得て、この問題に対処できるよう親および養育者のエンパワーメントを進めること。

  • 4.3 幼い子どもがとくに暴力、性的コンテンツまたはポルノ的コンテンツに対して脆弱であること、および、幼い子どもが有する特有の身体的、心理的および社会的ニーズならびに刺激のニーズとの関連でデジタルツールの利益は限定的であることに鑑み、デジタル環境に時期尚早にさらされることから幼い子どもたちを保護するための具体的措置をとること。

  • 4.4 子どもの性的虐待表現物を防止しかつ加害者を処罰するため、性的搾取または虐待の対象とされた子どもおよびその所在を特定するための措置を加速させることを目的とした適正なサイバーセキュリティ措置によって補完されるハッシュデータベース(hash databases)を設置するとともに、そのようなコンテンツを削除しまたはそのようなコンテンツへのアクセスを制限し、加害者を逮捕し、かつ、被害を受けた子どもに必要な心理的支援およびリハビリテーションのためのケアを提供すること。

  • 4.5 とくに同世代の子ども同士のやりとりおよび親の関与を促進するため、学校を基盤とする教育プログラムおよび屋外活動を実施すること。

  • 4.6 そのようなプログラムにおいて、子ども・若者に対し、アサーティブネス、共感、問題解決、感情マネジメントおよび援助希求に関するトレーニングを提供すること。

  • 4.7 オンラインの交際相手探しおよび関係について詳細に取り上げ、かつ、性的関係における暴力の描写および同性愛嫌悪的ないじめへの対抗ならびに子どもの過剰な性的対象化(oversexualisation)との闘いについての意識啓発を目的とする、包括的セクシュアリティ教育を実施すること。

  • 4.8 有害なディープフェイク(ポルノ的な性質のものを含む)に関する広報・意識啓発キャンペーンを展開し、ディープフェイクを禁止し、かつデジタルプラットフォームからディープフェイクが削除されるようにすること。

5.議員会議は、各国が、次のことを目的として、テクノロジー産業の関係者と緊密に協働するよう勧告する。

  • 5.1 政策および規制枠組みの策定を向上させるとともに、テクノロジー産業によるその適合化および実施を促進すること。

  • 5.2 子どものユーザーを保護するため、テクノロジー産業の関係者の説明責任および対応責任(accountability and responsibility)を強化すること。そのための手段には、子どもに対する犯罪の加害者の特定および刑事手続に必要とされる証拠の収集を容易にするための技術的支援および装備の観点から法執行機関に援助を提供するよう、これらの関係者に要求することが含まれる。

  • 5.3 デジタル環境におけるネットいじめ、ハラスメントおよびヘイト・暴力の扇動に対処する政策(容認できない行動に関する明確な情報、通報のしくみ、および、そのような行為によって影響を受けた子どもへの支援の重要性を含む)を策定・実施すること。

  • 5.4 オンラインの暴力から保護される子どもの権利を考慮しつつ、子どもが対象として意図されまたは子どもが利用する製品およびサービスの特性および機能についての指導的原則として、設計に、標準的選択肢として(by default)安全およびプライバシーを統合すること。

6.性的搾取および性的保護からの子どもの保護に関する直近の欧州デー(2023年11月18日)のテーマにのっとり、議員会議は、実生活の体験に基づいて効果的政策を発展させるためには、子ども時代の性暴力の被害者およびサバイバーから学ぶことが重要であると確信する。委員会は、オンライン暴力の防止、オンライン暴力からの保護およびオンライン暴力との闘いを目的とする措置および政策を作成するにあたり、加盟国が、あらゆる必要な警戒措置をとりながら、子ども時代のオンライン暴力の被害者の声に耳を傾けるよう勧告する。

7.議員会議は、オンライン暴力からの子どもの保護における国際協力および国境を越えた協力の重要性に留意し、世界中のできるだけ多くの国々に対し、すでに存在する関連の条約および効果的機構に加盟するよう求める。これとの関連で、議員会議は次のことを求める。

  • 7.1 オブザーバー国、および、議会が議員会議のオブザーバー資格または民主主義のためのパートナー資格を享受している国が、性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する欧州評議会条約(CETS No. 201、ランサローテ条約)に加入すること。

  • 7.2 欧州評議会の加盟国およびオブザーバー国ならびに議会が議員会議のオブザーバー資格または民主主義のためのパートナー資格を享受している国であってサイバー犯罪条約(ETS No. 185、ブダペスト条約)にまだ加入していない国が、同条約に加入すること。

  • 7.3 インターポールと、子どもの性的虐待事件に関する情報交換のために同機関が設けている「国際子どもの性的搾取データベース」にまだ参加していない欧州評議会加盟国が、同機関および同データベースに参加すること。

8.議員会議は、情報通信技術(ICTs)によって容易にされる性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に焦点を当て、かつ子どもの性的自撮り画像・動画が提起する課題について取り上げた、ランサローテ条約の実施に関する第2次モニタリングラウンド(2017~2022年)についての活動〔平野注/こちらの記事を参照〕について、性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する条約締約国委員会(ランサローテ委員会)を称賛する。議員会議は、ランサローテ条約の締約国に対し、子どもにとっての新たなリスク(性的またはポルノ的性質のディープフェイクに関連するものを含む)を考慮しながら、子どもと新興テクノロジー(とくに人工知能およびバーチャル世界)についての活動をさらに徹底的に遂行するよう、慫慂する。

9.議員会議は、「暴力的ポルノ」(オンラインで入手可能なポルノを含む)の問題について、子どもがこのようなコンテンツにさらされる具体的問題を考慮しながら、さらに検討していく所存である。

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