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子どもに「忘れられる権利」の保障を――韓国「子ども・青少年個人情報保護基本計画」

 少し前にFacebookでとりいそぎ紹介しておきましたが、7月11日、韓国で「子ども・青少年個人情報保護基本計画」が発表されました。とくに、子どもに「忘れられる権利」――本人が子ども時代にSNS等で行なった投稿、保護者がSNSに投稿した子ども時代の写真、友人が同意なしに投稿した画像・動画などの削除を要求する権利――を認める方針が打ち出されしたことに、注目が集まっています。

1)KBS World:SNSの写真 削除できる法整備へ
http://world.kbs.co.kr/service/news_view.htm?lang=j&Seq_Code=82749

2)Korea JoongAng Daily(韓国中央日報): Laws try to help kids with their sharing of info online
https://koreajoongangdaily.joins.com/2022/07/11/national/socialAffairs/Korea-personal-information-protection/20220711181402414.html

 計画をとりまとめた韓国・個人情報保護委員会のチェ・ヨンジン副委員長によるブリーフィングが全体像をよく示しているので、その要旨を紹介します。

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(1)子ども・青少年中心の個人情報保護原則・体系を確立する
 現行の個人情報保護法制では、14歳未満の子どもの個人情報処理については法定代理人の同意を要求しているものの。14歳以上の青少年は成人と同様に扱われており、大人に比べて個人情報に関する権利行使が未熟な青少年への配慮が足りないため、子ども・青少年の特性を反映した個人情報保護法制を2024年までに整備する。子ども・青少年の個人情報自己決定権の尊重、子ども・青少年の最善の利益の考慮、積極的な権利実現支援などの基本原則を確立するとともに、保護対象を現行の14歳未満から18歳未満の青少年にまで拡大し、年齢ごとに異なる保護内容を規定して権利保護の死角を解消する。

(2)個人情報に関わる子ども・青少年の権利を強化し、子ども・青少年が自分の権利を理解・行使できるように支援する
 まず、子ども・青少年の「忘れられる権利」を制度化する。子どものころからオンラインで長期間蓄積された個人情報は成人後も継続的に影響を及ぼす可能性があることから、子ども・青少年期に本人または第三者(親や友人など)がオンラインにアップした個人情報について、一定の要件の下で削除を要請する権利を2024年までに法制化する。試行的に、本人が行なった投稿の削除を支援する事業を来年(2023年)から開始する。
 現行の法定代理人同意制度も改善し、法定代理人が不在のため個人情報の収集・利用について同意が得ることが難しい子どもについては、学校、自治体、児童福祉施設などの実質的保護者が代わって同意できるようにする。
 さらに、子ども・青少年が自分の権利をきちんと知って行使できるように支援する。子どもにもわかりやすい言葉遣い・文章による「子ども向け個人情報処理方針」モデル案を普及するとともに、14歳未満の子どもの個人情報を収集する場合、「子ども向け個人情報処理方針」の公開を義務化する。
 また、個人情報が実際にどのように利用・提供されているかを子ども・青少年にわかりやすく紹介するとともに、個人情報権が侵害されたときに容易・迅速に救済を得られるよう支援する。

(3)個人情報に関わる自己決定権を子ども・青少年がきちんと行使できる力量を身につけられるよう、教育と意識向上にも努力していく
 学校教育現場で行われる個人情報教育を内実化するため、2022年に改訂された教育課程と連携し、実科「情報」科目を中心として個人情報関連の教育を拡大する。ゲーム、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)などを活用して子ども・青少年の興味を惹きつけられる年齢別教育コンテンツも開発し、自発的な教育参加を誘導していく。子ども・青少年が直接体験して参加できる多様な活動を通じ、個人情報保護に対する意識も高めていく。
 親への依存度が高い子ども時代の特性を考慮し、親を対象とする教育も拡大していく。とくに、親がSNSなどに子どもの写真や動画を投稿する「シェアレンティング」によって子どもの個人情報が侵害されたり犯罪リスクにさらされたりする可能性について周知し、警戒心を高めるとともに、子どもの年齢に応じた教育方法などもあわせて知らせていく。

(4)官民協力を基盤として安全な利用環境を構築していく
 子ども・青少年による個人情報の提供がもっとも多く行なわれるゲーム・SNS・教育学習の3大分野を中心として、自主規制による保護を拡大していく。韓国ゲーム政策自主規制機構と協力し、ゲームチャット空間で個人情報を入力しようとしたら自動的に遮断されるようにするほか、SNSではより安全なデフォルト設定(全体公開の制限など)を推奨していく。子ども・青少年の個人情報の収集・利用が活発に行なわれている教育現場でも、その特性に合った保護措置がとれるよう、さまざまな事例集などを発行・配布する。
 個人情報処理事業者だけではなく、カメラ・マイクなどを通じて子どもの個人情報を収集してオンラインで転送することが可能になるデジタル機器やおもちゃなどを製造する事業者に対しても、企画・設計段階から個人情報の保護を中心に設計する「プライバシー・バイ・デザイン」原則を反映させるよう推奨していく。
 安全なオンライン利用環境の構築にも注力する。14歳未満の子どもを対象とする商業ターゲティング広告目的の個人情報の収集・利用を制限するとともに、インターネット上で行なわれる不法取引目的の投稿を迅速に検知・削除することを通じて子ども・青少年による不法取り器を防止する。法律違反行為に対しては厳正な調査と処分を行なう。
 さらに、官民が参加する「子ども・青少年個人情報保護協議会」を設置し、一貫性をもって基本計画を推進していく。
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「忘れられる権利」の行使をどのように支援していくかについては、聯合ニュースが配信したインフォグラフィックによくまとまっています。

https://www.yna.co.kr/view/GYH20220711001200044

 詳細は省略しますが、(1)削除申請の受付 →(2)投稿の把握および削除支援の可否の決定 →(3)削除またはアクセス排除の支援 →(4)モニタリングおよび措置結果通知という手順が構想されているようです。

 5月末には、世界で利用されているリモート学習アプリ/サイトの9割近くが生徒のデータを不適切な形で収集していたという調査結果がヒューマン・ライツ・ウォッチによって発表されましたが、そのような状況を是正していくうえでも、韓国の包括的取り組みは参考になると思われます。なお、「教育現場における子どものデータ保護」に関する欧州評議会のガイドライン(個人データの自動処理に係る個人の保護に関する条約諮問委員会、2020年)なども参照。

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