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ユニセフ、デジタルゲームと子どものウェルビーイングに関する報告書を発表

 ユニセフ(国連児童基金)・イノチェンティ研究所は、4月30日、「子どものためのテクノロジーにおける責任あるイノベーション:デジタルテクノロジーと遊びと子どものウェルビーイング」Responsible Innovation in Technology for Children: Digital technology, play and child well-being)と題する報告書を発表しました。

 Child in the City のサイトに掲載された記事のタイトル〈ビデオゲームは子どもたちにとってよいものでありうる――ただし、正しくデザインされている場合に限る〉Video games can be good for children - but only if designed right)がよく言い表しているように、ビデオゲームは、しかるべき配慮がなされていれば、子どもたちのウェルビーイングをおおいに促進し得るという調査結果を報告するものです。

 ユニセフ・イノチェンティ研究所のリリースには次のように書いてあります。

 調査の結果、注目すべきことがわかりました――実際のところ、デジタルゲームは子どもたちのウェルビーイングに寄与し得るのです。これらのゲームは、子どもたちがコントロール感を経験し、選択の自由を手にし、統御感や達成感を体験することを可能にし得るのです。デジタルゲームには、子どもたちが感情を経験・制御することを支えるとともに、他の人たちとつながっていると感じ、このような社会的つながりをうまく維持していくことの一助となる可能性があります。子どもたちは、さまざまな可能性を想像し、自分なりの考えで行動し、何かをつくり上げ、自分と他者ののさまざまな面を探求・構築・表現することができます。いずれも、デジタルゲームの力を借りて。
 ただし、子どもたちを支え、そのウェルビーイングに寄与するためには、ゲームが子どもたちのウェルビーイングを念頭に置いてデザインされていなければなりません。

 この報告書は、ユニセフレゴグループ(本社・デンマーク)が複数の研究機関と協力しながら実施している「子どものためのテクノロジーにおける責任あるイノベーション」(RITEC)プロジェクトの一環として作成されたものです。2022年4月に発表されたフェーズ1報告書に続く、第2弾の報告となります。なお、同プロジェクトの資金はレゴファウンデーションが拠出しています。

 今回の調査は、米国、チリ、南アフリカ、オーストラリア、キプロス、英国の子どもたち(6~13歳)約370人の参加を得て実施されました。予備的検討を踏まえ、子どものウェルビーイングの向上につながる可能性があるものとして分析の対象とされたゲームとしては、たとえば次のようなものが挙げられています(報告書p.12)。

 フェーズ1報告書の段階で、デジタルゲームが寄与し得る子どもの主観的ウェルビーイングの諸側面として次の8つが特定されており(報告書p.65)、今回の報告書でもこの枠組みに沿った分析が行なわれています。

■ 自律性(Autonomy):子どもたちが、デジタル遊びにどのように従事するかを自由に選択し、遊びながら主体感(feeling of agency)、選択感、自由の感覚を体験できる。
■ 能力(Competence):デジタル遊びの体験が、自己効力・能力・スキルに関する子どもたちの自己認識に肯定的に寄与し、統御感を促進する。
■ 感情(Emotions):デジタル遊びの体験が、子どもたちがさまざまな感情を経験・認識することを可能にし、その制御方法を学ぶ機会を提供する。
■ 関係(Relationships):デジタル遊びの体験が、他者との社会的つながりや帰属感を促進する。
■ 創造性(Creativity):デジタル遊びの体験が、好奇心をもって、想像力を駆使しながら構築・創案・実験に取り組むことを子どもたちに奨励する。
■ アイデンティティ(Identities):デジタル遊びの体験が、自分と他者のさまざまな面を探求・構築・表現する機会を子どもたちに提供する。
■ 多様性・公平性・包摂(Diversity, equity and inclusion):デジタル遊びの体験が、多様な子どもたちおよび子ども時代を代表するようにデザインされており、できるかぎり多くのさまざまな子どもたちが有するアクセスのニーズを満たす。
■ 安全(Safety and security):子どもたちが、デジタル遊びに取り組んでいる間、安心感を持ち、安全に保たれる。

 調査の結果、デジタルゲームを通じてウェルビーイングがもっとも高まったのは、「他の生活局面ではそれほど充足されていないニーズをデジタル遊びの際に満たすことのできた子どもたち」でした。報告書は次のように述べています(p.60)。

……このことは、自律の感覚を欠いており、社会的関係についての満足度が低い子どもたちについて、とりわけ当てはまる。この意味で、デジタルゲームは、このような子どもたちが自律性を表現し、新たな社会的つながりを形成し、ゲーム以外では手に入れられない帰属感を経験する、もうひとつの潜在的回路を提供するものである。……

 RITECプロジェクトの主眼は「子どもの権利とウェルビーイングを支えるうえでデジタルテクノロジーが提供し得る利点を理解・最適化する」ユニセフ・イノチェンティ研究所のリリースより)ところにあり、今回の報告書でも、こうした利点を活かすための視点をデジタルゲーム開発者に提示して今後のデザインに反映するよう促すことが重視されています。したがって、多様なデジタルゲームが子どもたち(のウェルビーイング)に及ぼす影響を網羅的に検討したものではありませんが、多くの子どもがデジタルゲームに親しむなか、こうした視点から子どもとゲームについて考えていくのも有用かと思います。

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