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オーストリア:子どもの権利に関する憲法律(2011年)

 先日の投稿の末尾で紹介したオーストリアの「子どもの権利に関する憲法律」(2011年2月)を、ILO(国際労働機関)の法令データベースに掲載されている英訳をもとに翻訳してみました。


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オーストリア:子どもの権利に関する憲法律(2011年1月20日可決/2月15日公布)

第1条 1人ひとりの子どもは、そのウェルビーイング、最適な発達および自己実現ならびに世代間の公正に関わる利益の保護のために必要な保護およびケアに対する権利を有する。子どものウェルビーイングは、官民の機関がとる、子どもに影響を与えるすべての措置において、第一次的に考慮される。
第2条(1)1人ひとりの子どもは、双方の親との個人的関係および直接の接触を定期的に持つ権利を有する。ただし、このことが子どものウェルビーイングにとって有害である場合、この限りではない。
(2)すべての家族構成員、とくに子どもの成長および発達のための自然な環境である家庭環境から恒久的または一時的に切り離された1人ひとりの子どもは、国による特別な保護および支援に対する権利を有する。
第3条 児童労働は、これを禁ずる。法律で免除が定められている場合を除き、労働市場への参入に関する最低年齢は、義務教育終了年齢を下回ってはならない。
第4条 1人ひとりの子どもは、その子どもに影響を与えるすべての事柄について、その年齢および発達に相応するやり方で十分に関与し、かつその意見を考慮される権利を有する。
第5条(1)1人ひとりの子どもは、非暴力的な教育に対する権利を有する。体罰、精神的苦痛の付加、性的虐待および他のいかなる不当な取扱いも、これを禁ずる。1人ひとりの子どもは、商業的および性的搾取から保護される権利を有する。
(2)暴力または搾取の被害を受けた1人ひとりの子どもは、十分な補償およびリハビリテーションに対する権利を有する。さらなる詳細については適用される法律で定める。
第6条 障害のある1人ひとりの子どもは、その特別なニーズのために必要な水準の保護およびケアに対する権利を有する。この連邦憲法律の第7条第1項にしたがい、障害の有無を問わない子どもの平等な取扱いが、日常生活のあらゆる分野で保障される。
第7条 この連邦憲法律の第1条、第2条、第4条および第6条で保障されている権利に対するいかなる制限も、法律で定められたものであって、国の安全の維持、公共の平和および秩序、国の経済的安定、公共の秩序の保護および犯罪の防止、健康の保護または他の者の権利および自由の保護のために民主主義社会において必要な措置でなければ、認められない。
第8条 連邦政府は、この連邦憲法律の実施に責任を負う。
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 体罰や精神的苦痛の付加(第5条)については1989年の民法改正ですでに禁じられていたので、それを再確認した形になります。

 なお国連・子どもの権利委員会は、オーストリアの第3回・第4回統合定期報告書に関する総括所見(2012年10月)でこの憲法律の採択を歓迎する一方、条約で保護されているすべての権利(とくに子どもの社会的・文化的権利)が含まれているわけではないことに懸念を表明し、条約のすべての規定を盛りこんだ包括的な法的枠組みを発展させるよう勧告しました(パラ10・11)。

 子どもの権利基本法のような性格を持つ国内法で具体的に子どもの権利を列挙しようとするとこのように条約との乖離が生じやすくなりますので、注意する必要があります。スコットランドで進められている法改正は、このような弊害を避けるためのアプローチのひとつです。

 ちなみにこの法案は全会一致で第1段階を通過し(2021年1月19日)、第2段階に進むことになりました。それほど遠くない時期に採択される可能性が高いと思います。

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