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イングランド(英国)子どもコミッショナーの1年

 イングランド(英国)で子どもコミッショナーを務めるレイチェル・デ・スーザ(Dame Rachel de Souza)さんは、3月1日、就任から1年の活動を振り返る報告書を発表しました。

★ One year as Children’s Commissioner: March 2021-March 2022
https://www.childrenscommissioner.gov.uk/report/1-year-as-childrens-commissioner/

 デ・スーザさんは、「着任して真っ先にやりたかったのは、子どもたちの声に耳を傾けることでした」(When I started the first thing I wanted to do was listen to children)と大書したうえで(p.2)、イングランド全域の子ども55万7,077人から回答があった大規模調査「ザ・ビッグ・アスク」(The Big Ask)のことを詳しく述べています。

 同調査の結果をまとめた報告書『ザ・ビッグ・アスク:ザ・ビッグ・アンサー』についてはすでに概要を紹介したので繰り返しませんが、今回の報告書では、「ザ・ビッグ・アスク」を踏まえた提言や勧告の結果、政府による2021年歳出見直し(2021 Spending Review)で子ども・若者関連の投資が増額されたという成果が報告されています(p.9)。

● 子ども・子育て支援の地域拠点「ファミリー・ハブ」(Family Hubs)、「スタート・フォー・ライフ」乳幼児期プログラム(Start for Life Early Years Programme)および「サポーティング・ファミリーズ」(Supporting Families)プログラムに5億ポンド(約772億円)の投資が行なわれることになった。ウィル・キンス(Will Quince)子ども・家族担当大臣は、政府の「ファミリー・ハブ」支援計画を発表するにあたり、子どもたちがどれほど家族生活を大事に思っているかに関する「ザ・ビッグ・アスク」の調査結果にとくに言及している(平野注:2021年11月2日の演説原稿を参照)。

●「ザ・ビッグ・アンサー」で教育復興にあらためて焦点を当てるよう求めたところ、2024/25年度までに新たに47億ポンド(約7,250億円)のキャッチアップ支援予算(新型コロナ禍のため学習機会が失われたことによる遅れ等を取り戻すためのもの)が学校に配分されることになった。

● 子どもたちが遊ぶ機会および諸活動に参加する機会への投資の増額を求めたところ、政府は「若者保障」(Youth Guarantee)に5億6千万ポンド(約864億円)を配分すると表明した。この資金により300か所のユースサービスが新設・改装されるほか、「休暇活動基金」(Holiday Activities Fund)の期間延長、コミュニティのスポーツ施設や公園への投資拡大が進められる。

● チルドレンホーム(入所施設)の増設予算2億5,900万ポンド(約400億円)をはじめ、子どもの社会的養護への投資が拡大されることになった。これに加え、養護下の子どもを受け入れている規制外施設の改革継続のために1億400万ポンド(約160億円)が投入される予定。(平野注:この点については〈イングランド子どもコミッショナー、子どもの社会的養護改革についての報告書を発表〉も参照)

 コミッショナーの調査と提言が子ども予算の増額にも大きな影響を及ぼしていることがわかります。

 英国では現在、特別な教育ニーズ/障害への対応、学校教育、保健・ケア、子どもの社会的養護など各分野で改革が進められていますが、デ・スーザさんは、
「これらの改革についてばらばらに考えるのではなく、より幅広いシステムの一部として捉え、子ども・若者のために達成したいと考える主要な成果を明らかにするためにこの機会を活用することがきわめて重要です。これらの改革はいずれも、子どもと家族の支援をあり方を変化させつつあります――私は、子どもたちの声とニーズがこれらの改革の中心に位置づけられるようにするために、政府への横断的働きかけを続けていきます」
 と述べています(前文)。

 子どもたちの声やニーズがないがしろにされないようにするため、やはりこのような独立機関が日本にも必要だと感じます。


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