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「パンデミック疲れ」軽減のためにとるべきアプローチ:WHOの提言


 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは、収束の見込みがなかなか立たない状況です。その要因のひとつに、WHO(世界保健機関)のいう「パンデミック疲れ」(pandemic fatigue)があるのも間違いないと思われます(日本では「コロナ疲れ」という表現が一般に用いられているようです)。

 WHOヨーロッパ地域事務局(コペンハーゲン)は、この問題への対応策を示すため、2020年10月に「パンデミック疲れ:COVID-19予防のための公衆の再活性化――パンデミック防止・対応支援のための政策枠組み」Pandemic fatigue: Reinvigorating the public to prevent COVID-19 - Policy framework for supporting pandemic prevention and management)を発表しました(同年11月改訂)。日本でも一部報道されましたが、詳しい内容を日本語で紹介する資料は見当たらないようなので、簡単に紹介しておきます。

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「パンデミック疲れ」とは、WHOによれば次のことを意味します(p.7)。
-人々の生活に生じた持続的かつ未解決の逆境に対する、自然で予想される反応。
-苦悩の感情(a feeling of distress)として表れ、地域によっては、身を守るための行動および情報検索に対する意欲の低下や、自己満足感・疎外感・絶望感として表れることもある。
-時間をかけて徐々に表れ、多くの感情、経験および物の見方ならびに文化的・社会的・構造的・法的環境に影響を受ける。

 こうした問題に対応するため、政策枠組みでは次のような提言が行なわれています(pp.4-5;太字は原文ママ、番号は平野が付したもの)。

【鍵となる4つの戦略】

1)人々を理解する。対象が明確で、それぞれに応じた有効な政策、介入策および広報を行なえるようにするためのエビデンスを収集・活用する。
2)人々がそれぞれの生活を送れるようにしつつ、リスクを低減させる。広範な制限措置は、長期的にはすべての人を対象として実行可能とは限らない。
3)解決策の一部として人々を巻き込む。あらゆるレベルで、意味のある形で個人およびコミュニティの関与を得るための手段を見つけ出す。
4)人々が経験している苦境と、パンデミックが人々の生活に及ぼしてきた甚大な影響を認知して、これらに対処する。

【5つの横断的原則】

1)透明性を保つ。そのために、制限措置およびその変更の理由を共有するとともに、科学および政府の限界を認める。
2)勧奨措置や制限措置をとるにあたり、可能なかぎり最大限の公正性を求めて努力する。
3)メッセージと行動が可能なかぎり一貫したものであるようにし、相互に矛盾する措置をとらないようにする。
4)専門家・広報担当者間でメッセージの混乱が生じないようにするための調整を図る。
5)見通しの立ちにくい状況下で見通しを持てるようにするための努力を行なう。そのために、たとえば制限措置およびその変更に関して客観的な基準を用いる。

【具体的対応の例】

1)地域の視点で考える(Think local)。市民社会グループに働きかけ、グループのメンバーや仲間たちの意欲を高められる創造的やり方を見つけ出すように依頼する。
2)あらゆる職場、学校、大学、ユースクラブなどで、利用者と話をする。勧奨されている行動をどのように実行したいと考えるか、尋ねる。矯正機関からどのような支援を必要としているかについても尋ねる。
3)リスクを低減させながら生活する方法についてのガイダンスを策定する。そのようなガイダンスの広報に関する創造的やり方を見つけ出すとともに、絶え間なく変更されることがないようにする。
4)今後行なわれる予定の、地域や世代を超えて人々が集まる全国的な祝賀行事のための安全な解決策を準備する。個人、職場、公共交通機関、小売部門、高齢者ホームなどを巻き込みながら、リスクを低減させるための方法について議論する。勧奨措置は明確な形で示す。
5)どのような措置が長期的には耐えられないものであるかを理解する。疫学的リスクを考慮に入れながら、そのような制限措置を修正し、またはその他の措置(経済的・社会的・心理的措置)とのバランスを図る。
6)行動に関する勧奨は、容易で費用のかからないものにする。そのための手段としては、高速で安価なインターネット接続、無償のマスク・手指消毒剤、アクセスしやすい手洗い場、社会的交流のための空間、テレワークのための機会などの提供が考えられる。
7)人々を非難したり、怖がらせたり、脅かしたりするのではなく、人々に訴えかけるようにする。誰もが貢献していることを認識する。
8)簡潔明瞭で、見通しを立てられるようにする。制限措置とリスク――およびそれらがどのように関連しあっているか――を広報する効果的方法として、簡潔でわかりやすいインフォグラフィックを活用する。
9)質的・量的な人口調査を定期的に実施する。その知見を真剣に受けとめ、対応の参考として活用する。
10)意欲の低下を経験している特定の集団の状況に応じた広報を行なう。メッセージや視覚資料は、サンプル集団でテストしてから正式な利用を開始する。

 政策枠組みには、欧州諸国でとられた参考例もいろいろと紹介されています。たとえばノルウェーでは、若者が経験している苦境を認知し、社会への貢献に感謝するメッセージ(鐙 麻樹さんによる日本語訳参照)を保健大臣が発表するとともに、大学の卒業式・入学式を安全に開催する方法について若者たちとの協議が行なわれました。これはどうやら功を奏したようで、人口調査によると、ノルウェーの若者は50歳以上の年齢層よりもCOVID-19関連の制限措置を遵守する傾向が高かったとのことです(p.24)。

 日本のCOVID-19対策を考えていくうえでも、いろいろと示唆に富む内容になっていると思います。

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