見出し画像

欧州評議会「子どもの参加アセスメントツール」の効果測定指標

 前回の投稿に続いて、欧州評議会「子ども参加アセスメントツール」(2016年)を活用していくための資料『子ども参加アセスメントツールの効果測定:成果指標とデータ収集ガイダンス』Measuring impact of the Child Participation Assessment Tool: Outcome indicators and guidance for data collection)を紹介します。

 成果指標は6つのクラスターに分類されており、次の10項目から構成されています(アセスメントツールに掲げられた10の指標に逐一対応したものではありません)。


クラスター1:意見を聴かれる権利および意見表明の機会に対する権利についての認識

(1)意見を聴かれ、真剣に受けとめられる権利が自分にあることを知っている子どもの割合(%)
(2)意見を表明する自信があり、表明できると感じている子どもの割合(%)

クラスター2:自分にとって重要な個別の決定に影響力を行使する機会が子どもにある

(3)以下の場所・場面で、自分の生活に影響を与える個別の決定に影響力を行使できると考えている子どもの割合(%)
-家庭
-学校
-保健ケア
ースポーツ・社会活動
-その他(司法手続その他の手続を含む)

クラスター3:集団としての自分たちに影響を与える決定に参加して影響力を行使する機会が子どもにある

(4)以下の場所・場面で、自由な選択に基づいて社会的または政治的活動に参加したことのある子どもの割合(%)
-地方の子どもフォーラム/評議会
-広域行政圏または全国レベルの子ども議会
-学校評議会
-子ども主導の活動
-コミュニティのプロジェクト
-その他

(5)自分に影響を与える、たとえば以下のようなサービスおよび政策に影響力を行使できると感じている子どもの割合(%)
-教育
-保健ケア
-環境保健
-遊び・スポーツ
-安全・保護
-その他

クラスター4:子ども参加に対する大人の態度

(6)子ども参加に関する研修を受けた、以下を含む専門家の割合(%)
-教員
-医師・看護師
-ソーシャルワーカー
-弁護士・裁判官
-警察
-子どものケアに従事するスタッフ
-乳幼児期教育・ケアに従事するスタッフ
-出入国管理官
-その他

(7)以下を含む専門家に対し、自分のことを真剣に受け止めてくれる/尊重してくれるという信頼感を持っている子どもの割合(%)
-教員
-医師・看護師
-ソーシャルワーカー
-弁護士・裁判官
-警察
-子どものケアに従事するスタッフ
-乳幼児期教育・ケアに従事するスタッフ
-出入国管理官
-その他

クラスター5:安心して発言できると子どもが感じている

(8)傷つけられた/人権を侵害された/差別されたとき、どこにどのように通報すればいいか知っている子どもの割合(%、年齢・場面別)

(9)生活のなかで生じた問題について相談することができる、信頼できる大人が家族以外にいる子どもの割合(%)

クラスター6:子どもが自尊感情・自己価値感を有している

(10)以下の人たちに受け入れられ、大切にされていると感じる子どもの割合(%)
-家族
-友達
-コミュニティ

   *    *

 たとえばクラスター1(1)「意見を聴かれ、真剣に受けとめられる権利が自分にあることを知っている子どもの割合(%)」については、日韓で次のような調査結果があります。

● 日本:子どもの意見表明権の認知度について「聞いたことはあるが、内容は知らない」子どもは37.5%、「知らなかった」子どもが36.5%、「聞いたことがあり、内容も知っている」子どもは26.1%(内閣官房こども家庭庁設立準備室「こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する検討委員会」のためにNTTデータ経営研究所が実施した調査より)。

「こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する調査研究」報告書概要版(2023年3月)、p.27

● 韓国:子どもの参加権に関する認知度は子ども43%・大人33%に留まり、この権利が十分に守られていると答えたのも子ども46%・大人24.9%に留まっている(セーブ・ザ・チルドレン・コリアが2023年4月に実施した調査より)。

 上記の成果指標も参考にしながら、今後さらにきめ細かな調査を実施していくことが期待されます。

 一方、上記の成果指標では、子どもの参加権行使の前提条件を量的に測定することが目指されているのみで、種々の決定や政策立案の過程で子どもの意見表明・参加が実際にどのようなインパクトを与えたかについての質的側面は基本的に考慮されていません。「子どもの参加アセスメントツール」自体がそういう性質のものなのでやむを得ない面もありますが、これは今後の課題と言えるでしょう。

 国連・子どもの権利委員会は、日本の第2回報告書を審査した際、総括所見(2004年)で次のような勧告を行ないました。

28.委員会は、条約第12条にしたがい、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
 (a) 家庭、裁判所および行政機関、施設および学校ならびに政策立案において、子どもに影響を及ぼすあらゆる事柄に関して子どもの意見の尊重を促進しかつ子どもの参加の便宜を図ること。また、子どもがこの権利を知ることを確保すること。
 (b) 子どもに影響を及ぼすあらゆる事柄に関して意見を考慮されかつ参加する子どもの権利について、とくに親、教育者、政府の行政職員、司法関係者および社会一般に対し、教育的情報を提供すること。
 (c) 子どもの意見がどのぐらい考慮されているか、またそれが政策、プログラムおよび子どもたち自身にどのような影響をあたえているかについて定期的検討を行なうこと。
 (d) 学校、および子どもに教育、余暇その他の活動を提供しているその他の施設において、政策を決定する諸会議体、委員会その他のグループの会合に子どもが制度的に参加することを確保すること。

 とくに(c)の検討を進めていくための方法論や指標を開発していくことは、重要な取り組みになっていくと思います。

 なお、欧州評議会「子どもの参加アセスメントツール」関連の資料は、欧州評議会「18歳未満の子ども・若者の参加についての閣僚委員会勧告」の日本語訳を掲載したページの上部にリンクをまとめていますので、そちらもご参照ください。

noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。