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EU、人身取引への対応に関する改訂指令を採択

 EU(欧州連合)の欧州議会は、4月23日、「人身取引の防止およびこれとの闘いならびに人身取引被害者の保護」に関する改訂指令を採択しました。2011年の指令を改訂し、適用対象を拡大するとともに、子どもを含む被害者の保護をさらに強化したものです。

★ European Parliament: Trafficking in human beings: MEPs adopt more extensive law to protect victims
https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20240419IPR20580/trafficking-in-human-beings-meps-adopt-more-extensive-law-to-protect-victims

 EU理事会による採択(5月27日)を経て法制化のプロセスは終了したので、欧州連合官報への掲載後に発効する予定です(原文は、上記リリースページにある Text of the agreement のリンクから参照できます)。

 上記のリリースによれば、改訂指令の主な特徴は次のとおりです(太字は平野による)。

  • 労働搾取・性的搾取目的の人身取引のみならず、強制婚、違法な養子縁組および代理出産の搾取(exploitation of surrogacy)もEUレベルで犯罪化する。

  • 国際保護も必要とする人身取引被害者が適切な支援および保護を受けられ、かつ庇護に対するこのような被害者の権利が尊重されるようにするため、人身取引対策当局・庇護当局間の調整を増進させる。

  • 搾取の原因となる需要を減少させるため、人身取引被害者が提供するサービスを、被害者が搾取されていることを承知していながら利用する行為を、犯罪とする。

  • 人身取引で有罪とされた企業への罰則を導入する(たとえば入札プロセスや公的援助・補助金の給付対象から除外する)。

  • 被害者が強要されて行なった犯罪行為について検察官が不起訴を選択できること、捜査への協力の有無にかかわらず被害者が支援を受けられることを確保する。

  • もっとも脆弱な状況に置かれている集団にとくに焦点を当てながら、シェルターおよび安全な居住場所へのアクセスを含む支援を被害者に提供する。

  • 障害のある人の権利を保障するとともに、保護・養育者のいない子どもに適切な支援(後見人または代理人の選任を含む)を提供する。

  • 刑の言渡しに際し、同意を得ずに性的な画像・動画を拡散する行為を裁判官が加重事由として考慮することを認める。

 欧州レベルで子どもの権利保障の促進に取り組んでいるNGO Eurochild も、他の市民社会組織とともに、今回の改訂指令を歓迎しています。

- Eurochild: The revised EU Anti-Trafficking Directive strengthen measures to protect child victims
https://www.eurochild.org/news/the-revised-eu-anti-trafficking-directive-strengthen-measures-to-protect-child-victims/

今回の指令で重要な点は、加盟国間の国境を越えた協力および統一的アプローチを強調しながら、被害者の早期発見のための、透明で調和化された付託機構を設けるとしたところです。加えて、指令では、特定・通報・法的手続の全体を通じて子どもに配慮した(child-sensitive)アプローチを確保しながら、被害者に専門家による援助および支援を提供することが優先的課題に位置づけられています。被害者支援には、適切かつ安全な居住場所、物的援助、必要な治療および教育の提供が含まれます。子どもの最善の利益にのっとり、加盟国は、必要な場合に後見人または代理人を選任することを求められます。指令では、意識啓発キャンペーンおよび教育プログラムや子どもに配慮したやり方で子どもに接するための専門家向けの研修を含む、防止戦略も導入されています。また、搾取に該当する行為に違法な養子縁組が付け加えられました。(太字は原文ママ)

 さらに、改訂指令で子どもの施設措置/収容に関して次のように述べられていることも評価されています。

「入所施設および閉鎖施設に措置された子どもは、人身取引の被害をとくに受けやすい集団のひとつである。これらの子どもは、このような施設に措置されるとき、措置されている間および措置終了後に、人身取引被害者となり得る」(前文パラ(7))
「子どもの場合、加盟国は、子どもの保護のための国内保護制度が、人身取引(入所施設または閉鎖施設にいる子どもの人身取引を含む)を防止するための具体的計画を策定することを確保するよう、奨励される」(前文パラ〈33〉)
「人身取引からの保護を目的として子どもの自由を制限するいかなる措置も、当該子ども個人を保護するという目的のためにどうしても必要であり、比例的でありかつ合理的なものであるべきである」(前文パラ〈24))

 日本が今回の改訂指令に直接拘束されることはありませんが、今後の取り組みの強化にあたって参考にしていくことが必要です。

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