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OECD、「子どものエンパワーメント」と教育・ウェルビーイングに関する報告書を発表――エンパワーメントに不可欠な「子どもの権利」保障
OECD(経済協力開発機構)より、「子どものエンパワーメントが現在意味するものは何か――教育およびウェルビーイングにとっての含意」(What Does Child Empowerment Mean Today? - Implications for Education and Well-being)と題する報告書が発表されました(5月15日)。
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以下の2冊に続く、OECD教育研究革新(Educational Research and Innovation)センター「21世紀の子どもプロジェクト」の報告書第3弾という位置づけになるようです。
『感情的ウェルビーイング――21世紀デジタルエイジの子どもたちのために』(2019年10月、邦訳=西村美由起訳・明石書店・2022年)
『教育のデジタルエイジ――子どもの健康とウェルビーイングのために』(2020年10月、邦訳=西村美由起訳・明石書店・2021年)
発表当日の5月15日には報告書のローンチングのためのウェビナーが開催され、OECDのマティアス・コーマン事務総長とアンドレアス・シュライヒャー教育スキル局長が報告書のプレゼンテーションを行なったので、私も視聴しました(追記:ウェビナーの動画とシュライヒャー局長のプレゼンテーションスライドが公開されています)。
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報告書の構成は次のとおりです。
まえがき
要旨
1.はじめに
2.今日の市民
3.COVID-19と子どものウェルビーイング
4.子どものメディアエンゲージメント
5.デジタル不平等と子どものエンパワーメント
6.子どものエンパワーメントに関する視点
7.すべての子どもがエンパワーされる未来に向けて
「子どものエンパワーメント」とは
「子どものエンパワーメント」が何を意味するかについて、報告書ではまとまった定義が見当たりませんが、前述のウェビナーでは、
「エンパワーされた子どもとは、自分たちにとって重要で関連性のある問題について行動する機会と能力を持ち、間違いを犯すことで学ぶことのできる、民主主義への主要な貢献者たる存在である」(Empowered children have the opportunity and ability to act on issues important and relevant to them, can learn by making mistakes, and are key contributors to democracy)
という記述的説明が作業定義として提示されるとともに、関連する要素として▽公平性(equity)、▽年齢・成熟度、▽大人の役割、▽選択・意欲、▽重要性・関連性、▽子どもの権利の6つが挙げられていました(追記:シュライヒャー局長によるプレゼンテーションの3枚目のスライド参照)。
この説明は「7.すべての子どもがエンパワーされる未来に向けて」で提示されているもので、そこでは、
「……子どもは大人へと成長中の存在というだけではなく、この社会構造の一員であり、われわれの共有された未来を形成する一助となることができる存在なのである」(Children are not just adults in the making, they are part of the fabric of society and are able to help shape our shared future)
という言葉が続いています。
また、「はじめに」では、子どものエンパワーメントとは次の点に関する認識をともなうものだとしています。
子どもの行為主体性(agency)と、権利の保有者および(客体ではなく)主体としての子ども
子どもには、自分の人生で意味を構築していくプロセスと、自分にとって重要であるのみならず関連性もある問題に関して行動するプロセスに関与していく資格があること
自己の学びとウェルビーイングについて子どもいっそうの責任を負っていけるように支えるとともに、それでも子どもが子どもでいられるようにし、かつリスクをとったり間違いを犯したりしながら学べるようにする、教育制度などの主体の役割
子どものエンパワーメントと参加は、子どもの年齢、能力および参加意欲によって左右されるものであり、これらを踏まえて調整されるべきであること
社会的背景、ジェンダー、年齢等の要素にかかわりなく、すべての子どもがエンパワーされかつ行為主体性を発揮する機会を持てるようにするための、公平性と包摂の重要性
「7.すべての子どもがエンパワーされる未来に向けて」では、先に引用した説明に続けて次のようにも書かれており、あわせて読むことによって、イメージを掴みやすくなるのではないかと思います。
子どものエンパワーメントとは、単なる流行り言葉ではない。それは――きわめて当然のことながら――教育制度の中核そのものに位置しているのである。学校は、子どもたちが、自分にとって重要であって関連性もある問題について行動を起こし、現代社会の生産的構成員になるために必要なスキルとマインドセットを持てるようにするうえで申し分のない立場にある。しかし、その責任を教育だけに負ってもらうことは期待できない。子どもたち自身に、自分自身のエンパワーメントについて、また大人の考えるあるべきやり方で行為主体性を行使することについて、単独で責任を負うよう求めるべきでもない。子どもたちは参加する権利を有しており、参加しないことを選ぶ権利も有している。子ども時代は、リスクをとることによって、また自由に間違いを犯せる空間を持つことによって学ぶ時期である。そうする自由は、エンパワーメントのひとつの相をなしている。
同じ章の表7.1では、子どものエンパワーメントを支えるための要素として次のものが提示されています。大人の果たす役割は、報告書全体を通じて強調されていることです。これらの要素の条件として、▽公平性、▽身体的・情緒的ウェルビーイング、▽子どもの権利の実現、▽研究基盤の発展が挙げられている点も重要です。
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大人は……
● 子どもが真に参加できるようにするための空間をどのようにアクセシブルで、安全でオープンなものとするかについて、権限の多くを保持している。
● 適切なスキル、知識、能力およびマインドセットを持っていなければならない(たとえば、子どもの視点を大切にすることに関して)。
● 子どもが機会を手にできるよう激励・支援・奨励する際に自分が果たすことのできる役割を過小評価するべきではない。
諸機関は……
● 子どもをよりよく支援するため、部門横断的に連携できる。
● 子どものエンパワーメントが業務外活動ではなく業務の一環となるよう、意味のあるインセンティブを設定する。
● すべての子どもが学びと関連性のある体験への参加の機会を掴めるように支援するため、学校内および学校間でアプローチの調整と一貫性の確保を図る。
機会は……
● さまざまな背景、好みおよび視点を有する子どもの参加を促進するため、関連性があり、年齢にふさわしいものでなければならない。
● 政策・実務がより子どもの欲求およびニーズに適合したものとなるようにするため、子どもの生きた経験をそこに持ちこむことができる。
● 子どもを、自分自身の人生について決定する力のある、能力のある主体として捉えるために必要である。
「今日の市民」としての子ども観
子どものエンパワーメントを進めていくためには、現在の社会に適合した子ども観を共有することが必要です。この点につき、「2.今日の市民」の章(Citizens of today - Reflection tool の項)では以下のことが挙げられています。
● 今日の子どもは、能力のある社会的主体(competent social actors)および権利の保有者として認識されている。
子どもを行為主体(agent)として認識することは、「保護および条件整備(provision)を超えて社会的・経済的・文化的・政治的側面も包含する、幅広い範囲の権利に対する子どもの享有資格」を認めることでもあるとの指摘とともに、OECD諸国では子どもの権利を擁護するために「オンブズマン事務所の設置および子どもの権利影響評価の遂行」を含むさまざまなしくみが設けられていることへの言及もあります。下のほうに「政府には何ができるか?」(What can governments do?)という囲みがあり、その冒頭で次のように述べられていることも、あわせて紹介しておきます。
□ 子どもの権利を認知・擁護するプロセスを実施することが不可欠である。オンブズマン事務所など、子ども・若者の権利の保護および促進の任を負う公的機関を設置することは、そのための効果的方法となり得る。また、子どもの権利影響評価のような評価手法は、広く採用されて効果的に実行されれば、政策・実務においてこれらの権利が養護され、かつ子どものニーズおよび利益が支えられることを確保する一助となり得る。CRIAs〔子どもの権利影響評価〕のようなしくみがもっと広く採用されるためには、子どもの権利を「任意の」(optional)なものとみなす姿勢からの、明白な脱却が必要である。
● 意思決定への子ども参加は、多くの国で政策的に高い位置づけを与えられている。
● 参加プロセスから排除される可能性がより高い集団の子どもも存在し、そのことによってこれらの子どもの権利がさらに阻害されるおそれが生じる。
このような子どもの例として、教育から排除されている子ども、特別な教育ニーズがある子どもまたは社会経済階層の低い子どもなどが挙げられています。次の点は前述のウェビナーでも強調されていました。
教育現場では、生徒会(student councils)のような参加アプローチをとる際、社会経済階層の高い、より人気のある生徒の参加に偏ってしまう可能性もある。年齢、ジェンダーおよび特別な教育ニーズのような要因は、生徒会に参加し、かつ生徒会によって適切に代表される生徒の可能性に影響を及ぼす。あらゆる背景の生徒の参加を奨励し、そのために創造的かつ有用なやり方で支援を提供することが、鍵である。
● 教員および学校幹部が生徒を援助するための支援が必要である。
● カリキュラムに公民教育・シティズンシップ教育(デジタルシティズンシップ教育を含む)を統合することは、子どものエンパワーメントにつながり得る。
報告書ではOECD諸国における生徒参加の事例も挙げられていますが、これについてはまたあらためて紹介します。(追記:紹介しました)
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