日本学術会議の会員任命拒否問題と国際人権法における「学問の自由」
日本学術会議から会員候補として推薦された研究者105人のうち6人が菅義偉首相によって任命を拒否されたことが、学問の自由および独立を侵害するものであるなどとして大きな波紋を呼んでいます。任命拒否の撤回を求めるネット署名への賛同者はすでに12万人を超えました。
署名の趣旨説明でも述べられているように、また行政法の専門家などからも多くの指摘がなされているように、今回の任命拒否は違法の疑いがきわめて強く、政府から独立した機関に対する恣意的介入であって許されないと考えます。板垣雄三・東大名誉教授(歴史学)が朝日新聞のインタビューで指摘するように、日本の対外イメージをさらに貶めることにもつながりかねません。
このようなことがまかり通るなら、“そもそも日本に独立の公的機関というものが存在し得るのか”という疑問を国際的に抱かれることにもつながるでしょう。日本政府には独立機関の自律性を尊重する意思がなく、尊重する素振りさえ示す気がないということが白日のもとにさらされれば、さまざまな方面に悪影響が及ぶ可能性があります。
国際人権法における学問の自由
ヒューマンライツ・ナウの声明〈日本学術会議の会員任命拒否は国際人権法違反であり許されない〉でも指摘されているとおり、国連・社会権規約委員会は、学問の自由および高等教育機関の自治を、規約第13条に基づく権利(教育に対する権利)を保障するために不可欠な要素のひとつと位置づけています(一般的意見13号、パラ38~49)。
ユネスコ(国連教育科学文化機関)が1997年に採択した「高等教育教員の地位に関する勧告」でも、高等教育機関の自律性の重要性が強調されています(とくにパラ17~21)。
これらの見解は、日本学術会議のような学術機関に対しても当然適用されると言えるでしょう。もちろんこれらの機関にも公的な説明責任が課されますが、だからと言って時の政権による恣意的な介入が許されるわけではありません。
また、Facebookでとりいそぎ紹介しておきましたが、意見および表現の自由に対する権利の促進および保護に関する国連特別報告者を7月末まで務めたデビッド・ケイ氏*は、今次国連総会(第75会期)に「学問の自由」に焦点を当てた報告書を提出しました(A/75/261、2020年7月28日付)。
同報告書では、法的枠組みに関する章のなかに〈B.組織的保護および自律〉(Institutional protection and autonomy)という節が設けられており(pp.6-7)、たとえば次のような指摘が行なわれています。
また、学問の自由に対する制限は (a) 法律適合性(legality)、(b) 正当性(legitimacy)、(c) 必要性および比例性(necessity and proportionality)の基準を満たすものでなければならないことを確認したうえで、
〈学術機関の幹部・教員の選出、任命および解雇への外部による介入は、けっきょくのところ、しばしば学問的でも〔自由権規約〕第10条を踏まえたものでもない理由に基づく、学問の自由に対する制限を構成する〉(パラ39)
とも指摘しています。
そして、各国に対して次のような勧告を行なっています。
菅政権は、このような見解も踏まえ、いまからでも任命拒否を撤回するべきです。
ちなみに、今回の問題とは関係ありませんが、日本について報告書で次のように書かれていることも紹介しておきます。
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