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ノルウェー新教育法、児童生徒の最善の利益/参加権に加えて「学校民主主義」の推進なども規定

ノルウェー政府、新教育法の立法提案を議会に提出:子どもの最善の利益原則や参加権についても規定〉(2023年6月6日投稿)に追記しておいたとおり、ノルウェーでは新たな教育法が6月に可決されました。来年(2024年)8月に施行される予定で、現在、教育省が施行のために必要な規則等の作成に取り組んでいます。

 その投稿にも書いておいたとおり、新たな教育法では、▼子どもの最善の利益原則を教育法にも明示した点、▼子どもの参加権、子どもの意見の尊重の原則および15歳以上の子どもの自己決定権(主として進学に関わるもの)について規定した点などが、とくに注目されるところです。

 新教育法は全8部・30章からなる包括的な法律ですが、とりあえず、上記の規定が置かれている第4部(初等学校教育および子ども・若者のための中等教育の共通規則)第10章の条文を日本語訳しました。日本若者協議会「学校内民主主義の制度化を考える検討会議」に関わっているので、そこで紹介するためにとりいそぎ訳したものですが、現行法(1998年教育法)には含まれていない「学校民主主義」についての規定が新設されている点も含め、日本の学校のあり方を考えていくうえでおおいに参考になりそうだとあらためて感じます。

 以下、日本語訳です。なお、私はノルウェー語は読めませんので、Google翻訳による英訳に基づいて翻訳しました。

第10章:児童生徒のための最善、参加、学校民主主義、親の協力、校則および参加義務

第10-1条 児童生徒のための最善
 児童生徒に関する行動および決定においては、児童生徒にとって何が最善かが基本的考慮事項とされなければならない。
第10-2条 児童生徒の参加権
 児童生徒は、自己に適用されるすべての事柄についてこの法律にしたがって参加する権利を有し、かつ自由に自己の意見を表明する権利を有する。児童生徒の意見は聴かれなければならず、その意見は年齢および成熟度にしたがって重視されなければならない。
第10-3条 親との協力
 学校は、児童生徒の教育に関して親と協力しなければならない。
 大臣〔教育相〕は、学校と親の協力に関する規則を発布することができる。
第10-4条 学校民主主義
 学校は、学校の活動(学校環境、教育の質の発展および校則の制定に関する取り組みを含む)の計画、実施および評価に児童生徒および親が参加できることを確保しなければならない。児童生徒は、法律上の守秘義務の対象とされている事案の処理に参加してはならない。
 学校は、すべての児童生徒が自らを表現できるようにするための体制を整え、かつ、学校民主主義への児童生徒の参加を奨励しなければならない。学校はまた、学校民主主義に関する取り組みに関して児童生徒の援助も行なわなければならない。
第10-5条 学校民主主義の運営
 各初等学校および中等学校は、学校で児童生徒によって選ばれる児童生徒評議会を設けなければならない。児童生徒は、異なるやり方による自己組織化も選択できる。各初等学校は、学校で親によって選ばれる活動委員会を設けなければならない。親は、他のやり方による自己組織化も選択できる。自治体・郡の評議会は、学校に他のどのような利用者機関を設けるかについて決定されることを確保しなければならない。
 初等学校における機関には児童および親の代表が参加していなければならず、中等学校における機関には生徒の代表が参加していなければならない。継続教育の生徒代表は、自治体法第13-4条にしたがい、被用者と同様に郡評議会に出席しかつ発言する権利を有する。
第10-6条 児童生徒の参加義務および自治体・郡評議会のフォローアップ義務
 児童生徒は、授業に積極的に参加し、かつ校則にしたがわなければならない。自治体・郡評議会は、授業を欠席する児童生徒のフォローアップが行なわれることを確保しなければならない。
 児童生徒は、学校外での課題(宿題)をするよう求められる場合がある。児童生徒が休息および自由時間に対する権利を持てることを確保するため、配慮がなされなければならない。
第10-7条 校則
 自治体・郡評議会は、秩序および振舞いに関する規則(校則)を含む、学校民主主義の運営および児童生徒の権利義務に関する規則を発布することができる。
 自治体・郡評議会は、当該校則において、児童生徒が校則に違反した場合にどのような措置をとることができるかおよびそのような事案にどのように対処するかを定めることができる。
第10-8条 児童生徒および親への情報
 自治体・郡評議会は、児童生徒および親に対し、必要とする情報(教育、児童生徒個人、学校環境および校則ならびに児童生徒が他に有している権利および義務に関する情報を含む)を提供しなければならない。自治体・郡評議会はまた、児童生徒および親に対し、サーミ語による教育に対する権利についての情報も提供しなければならない。
第10-9条 基礎教育に関する親委員会(FUG)の委員の選出(略)

 このほか、15歳以上の子どもに教育関連の自己決定権を認める規定が新設されたのも新教育法の特徴のひとつに位置づけられますが、その規定の内容は次のとおりです。

第24-5条 15歳に達した者の自己決定権
 15歳に達した者は、授業(個別に調整された授業への同意を含む)、ライフスタイルを理由とする授業活動からの免除の通知および継続教育への進学申請に関連する問題について、自分自身の立場をとるものとする。

 あわせて、第12章(児童生徒のための学校環境)の条文見出しも紹介しておきます。この問題に関する規定の多くは1998年教育法(第9章)の規定を引き継いだもので、大きな変更は見られません(学校環境に関する取り組みへの児童生徒の参加について規定した第9A-8条が削除されているようですが、上記のとおり児童生徒の参加に関する一般的規定が置かれたためかもしれません)。いずれにせよ、「健康、包摂、ウェルビーイングおよび学習を促進する、安全かつ良好な学校環境」に対するすべての児童生徒の権利を認めたうえで(第12-2条)、
「学校は、いじめ、暴力、差別、ハラスメント等の、人を傷つける(offensive)振舞いを容認してはならない。学校は、すべての児童生徒が安全かつ良好な学校環境を享受することを確保するため、継続的取り組みを行なわなければならない」(第12-3条)
 と規定し、このような権利の侵害(学校職員によるものを含む)が生じた場合の対応を詳しく定めている点は、学校における人権侵害事案に総合的に対応しようとする姿勢が希薄な日本にとっても参考になると思われます。

第12章 児童生徒のための学校環境
 第12-1条 本章の適用範囲
 第12-2条 安全かつ良好な学校環境に対する権利
 第12-3条 ゼロトレランスおよび防止の取り組み
 第12-4条 安全かつ良好な学校環境を確保する義務(活動の義務および記録の義務)
 第12-5条 学校で働く者が児童生徒を傷つけた場合のより厳格な報告義務
 第12-6条 個別事案において安全かつ良好な学校環境を確保する義務の、国家行政官(state administrator)による執行
 第12-7条 物理的環境
 第12-8条 義務的過料
 第12-9条 学校環境に関する規則の違反に関する刑事責任
 第12-10条 心理社会的学校環境についての賠償事案における立証責任

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