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社会的養護を受けている子どものウェルビーイング――1万人の子どもたちの声

 社会的養護下にある子ども・若者およびケアリーバーを支援する英国の子どもアドボカシー団体 Coram Voice(コーラムボイス)は、10月7日、社会的養護下にある子どものウェルビーイングに関する報告書『10,000人の声:ウェルビーイングに関する養護下の子どもたちの意見』10,000 Voices: the views of children in care on their well-being)を発表しました。

★ Coram Voice: 10,000 children and young people in care share views on their wellbeing in largest survey of its kind
https://coramvoice.org.uk/latest/10000-children-and-young-people-in-care-share-views-on-their-wellbeing-in-largest-survey-of-its-kind/

 報告書の概要を解説する動画も作成されています(11月9日掲載)。

 この報告書は、Coram Voiceが2013年からオクスフォード大学リースセンター(Rees Centre)と共同で行なってきた調査研究事業「ブライトスポッツ」(Bright Spots)プログラムの一環として、2016~2021年にかけて約1万人の子ども・若者(4~18歳)から得られた回答を踏まえたものです。bright spot とは「輝点」「光点」を意味する言葉で、“養護下にある子どもにとっての大事なこと”という意味合いがこめられているようです。

「ブライトスポッツ」プログラムでは、養護下にある子ども・若者にとってのウェルビーイングを(1)「昨日はハッピーだった」、(2)「全体として生活に満足している」、(3)「自分がやっていることには価値がある」、(4)「未来について前向きである」という4つの観点からとらえ、(a)関係(Relationships)、(b)レジリエンス(Resilience)、(c)権利(Rights)、(d)回復(Recovery)の4分野について30以上の指標を設けています(報告書サマリー〔PDF〕、p.3より)。

 冒頭で紹介したリリースによると、生活がよりよくなっていると感じている養護下の子ども・若者は83%にのぼっています。いま暮らしている場所で安心できると感じる割合、学校が好きである割合、いっしょに暮している大人が自分の教育に関心を持っていると感じている割合も、一般の子ども・若者よりは高いという結果が出ました。

 他方、若者(11~18歳)の年代になると「生活満足度が低い」と感じている割合が一般の若者よりも高くなり、ティーンエイジャー(13~18歳)では6人に1人が全般的ウェルビーイング度の低さを感じています。女子のほうが男子よりもウェルビーイング度が低く、また入所施設や「その他の場所」(ほとんどは支援付居住施設)で暮らしている若者は里親(親族里親を含む)に養育されている若者よりもウェルビーイング度の低さを報告する割合が高まっていました。

 また、養護下にある子ども(8~10歳)のうち、いじめのために学校に行くのが怖いと回答した子どもは29%にのぼり、同世代の子ども(17%)よりも高い率を示しています。若者(11~18歳)の8人に1人は、養護を受けていることについて、大人からいやな思いになることをされたことがあると報告しています。子ども・若者(8~18歳)の10人に6人が、自分の気持ちや行動に関する悩みがあると回答しました。

 養護下にある子どもたちのほとんどは、自分の養護に関してソーシャルワーカーが行なう決定に(少なくとも時々は)参加できていると感じているものの、参加の機会が「ほとんど」または「まったく」ないと感じている子どもも7人に1人近くいます。低年齢の子ども(4~7歳)に限れば、5人に1人(年長の子どもの2倍)は自分の担当ソーシャルワーカーが誰なのかをわかっておらず、半数近くは、自分がなぜ養護下にあるのかについて十分な説明を受けていないと感じていました。

 養護下にあるすべての子ども・若者にとって大事なこととして挙げられたのは、よい友達がいることと、信頼できる支援的関係を持てることです。自分がいま暮らしている場所で安心できることも、あらゆる年齢層を通じて大事なことに挙げられていました。

 このような調査結果を踏まえ、報告書では次の5項目の勧告が行なわれています。

1.養護下にある子どもたちの意見に耳を傾ける――すべての地方当局は、養護下にある子どもたちが、自分にとって大事な分野で、自分の生活についてどのように感じているかを把握するためのしくみを整備するべきである。
2.子どもの権利と協働――地方当局は、自分たちの生活の向上につながると子どもたちが言う問題に対処するため、子どもたちと協働しながらサービス改善に取り組むべきである。
3.生活をよくする――サービス機関は、子ども・若者が自分たちにとって大事だと言う分野に対処するためのしくみを整備するべきである。
4.信頼を構築する――養護制度は、信頼できる関係をその根幹に位置づけなければならない。
5.違いを認識する――専門家は、養護下にあるさまざまな集団の子ども(とくに女子および入所施設や「その他の場所」で暮らしている子ども)が抱えているウェルビーイング関連の悩みに留意するべきである。アイデンティティがウェルビーイングにどのように影響しうるかについても認識しておかなければならない。

 関連して、次の文献も参照。

-Baker C, Briheim-Crookall L, Selwyn J. The wellbeing of children in care and care leavers - learning from the Bright Spots Programme: Strategic Briefing (2022)
https://www.researchinpractice.org.uk/children/publications/2022/september/the-wellbeing-of-children-in-care-and-care-leavers-learning-from-the-bright-spots-programme-strategic-briefing-2022/

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