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韓国国家人権委員会、「虞犯少年」規定の削除などを勧告

 韓国国家人権委員会が、少年法の虞犯ぐはん少年規定の削除などを法務部(法務省)長官に対して勧告しました。

★聯合ニュース:인권위, 우범소년 규정 폐지· 소년사법제도 개선 권고(人権委、虞犯少年規定の廃止と少年司法制度の改善を勧告)
https://www.yna.co.kr/view/AKR20210930044900004

 この記事によると、韓国少年法にいう「虞犯少年」とは、「集団で集まって不安感を醸成すること、正当な理由なく家出すること、酒を飲んで騒ぐことなどの事由があり、性格および環境に照らして刑罰法令に抵触する行為をするおそれのある10歳以上の少年」をいいます。保護者または学校・社会福祉施設・保護観察所の長などから通告があれば少年審判に付され、少年院などの施設に送致される可能性があります。

 この制度の実際の運用については、12月11日に配信された朝鮮日報の日本語記事〈罪がないのに少年院に入所する韓国の子どもたち〉(上)(下)で詳しく取り上げられています。

 韓国国家人権委員会は、「虞犯少年」について定めた少年法の規定の廃止を求めた国連・子どもの権利委員会の勧告(第5回・第6回統合定期報告書に関する2019年の総括所見、パラ47(e))なども踏まえ、次のように勧告しました(9月30日付プレスリリース〔韓国語〕、グーグル翻訳をもとに修正)。

○ 国家人権委員会(委員長=ソン・ドゥファン、以下「人権委」)は、法務部長官に対し、△ 「少年法」の虞犯少年関連規定の削除および少年福祉的次元での新たな解決策づくり、△少年刑事事件・少年保護事件において援助を受ける権利の強化、△少年と成人の分離収容原則を遵守するための関連規定および運用の整備、△少年法第18条で規定する一時措置に対する少年の異議申立て権を保障するための制度づくりなどを勧告した。
○ 少年司法制度は、発達過程にある児童の特殊性を考慮し、少年に対する処罰と統制だけに留まるのではなく、その権利を保障しながら犯罪などからの回復および社会復帰を支援するなど、その目的に合わせて運営されなければならない。
(中略)
○ とくに、人権委は、少年法第4条第1項第3号による虞犯少年規定が、成人とは異なり、明らかな犯罪でなくとも非行の可能性を理由に少年に保護処分を課しており、非差別原則に反するのみならずその事由も不明確であって法律留保原則および適法手続原則に違反する可能性があること、通告制度とあいまって誤用・濫用される可能性があることなどのさまざまな問題点が存在し、国連・子どもの権利委員会でも虞犯少年制度の廃止が勧告されたことがあるという点などを踏まえ、当該条項を削除して少年福祉的次元の代案を設けることが必要であると考えた。
○ 人権委は、今回の勧告を通じ、わが国の少年司法制度が少年保護の理念に合致する制度へと改善され、少年の権利を保障・尊重する制度に向けて進むことができるよう期待する。

 朝鮮日報の記事(下)によれば、法務部は「合理的な対策を検討中だ」と説明しているものの、現時点で関係する規定は変更されていないとのことです。

 なお、聯合ニュースの記事にも朝鮮日報の記事(下)にも、少年法に虞犯少年についての規定を設けている国はほかには日本しかないと人権委が述べた旨、記されています(プレスリリースには日本への言及はありません)。あながち間違いではないのかもしれませんが、他の国でも「地位犯罪」(status offences)の概念は存在しますので、正確とも言えません。なお国連・子どもの権利委員会は、「子ども司法制度における子どもの権利」についての一般的意見24号(2019年)で次のように述べ、地位犯罪の廃止を各国に促しています。

12.防止に対する組織的アプローチには、貧困、ホームレス状態または家族間暴力の結果であることが多い微罪(学校の欠席、家出、物乞いまたは住居侵入など)の非犯罪化を通じ、子ども司法制度への経路を閉ざすことも含まれる。性的搾取の被害を受けた子どもおよび同意に基づく性的行為を行なう青少年も犯罪者として扱われることがある。地位犯罪としても知られるこれらの行為は、成人が行なう場合には犯罪とみなされない。委員会は、締約国に対し、自国の法令から地位犯罪を削除するよう促す。

 子どもの権利委員会は、日本に対しても、「子どもが『罪を犯すおそれがある』旨の認定について再検討し、かつこのような子どもの拘禁を終了させること」を勧告しています(第4回・第5回統合定期報告書に関する2019年の総括所見、パラ45(e)(i))。韓国政府が今後どのような方策を打ち出すのか、注目されます。

【追記】(2022年5月15日)
 国家人権委員会の勧告に対する韓国政府(法務部)の対応が明らかになりました(4月26日)。

-韓国国家人権委員会:소년사법제도 개선 권고, 법무부 일부수용-「소년법」상 우범소년 규정 삭제 등은 불수용 입장 밝혀 -(少年司法制度改善の勧告、法務部が一部受け入れ-「少年法」上の虞犯少年規定の削除などは受け入れない立場を明らかに)
https://www.humanrights.go.kr/site/program/board/basicboard/view?currentpage=2&menuid=001004002001&pagesize=10&boardtypeid=24&boardid=7607886

 法務部の回答の趣旨は次のとおりです。

1)「虞犯少年」規定の削除については、このような少年を対象とする福祉体系が不十分なまま、代案なしに当該規定を削除すれば少年非行を放置する結果を招来する可能性があるため、「虞犯少年」規定の沿革、少年部送致の現状、少年保護主義の理念などを総合的に考慮し、社会的議論を通じて十分な検討を経た後に補完する必要がある。
2)少年刑事事件・少年保護事件において援助を受ける権利の強化については、国家人権委員会の勧告の趣旨を反映して少年刑事事件関連の内容を含む刑事公共弁護人制度の導入を推進しており、長期的に、少年刑事事件における必要的弁護人の選定対象者の範囲を拡大する。しかし少年保護事件については、現行の国選補助人制度でも十分な支援が可能である。
3)少年と成人の分離収容原則を遵守するための関連規定の整備については、少年を混合収容する場合は成人奉仕員の配置を必置とする規定を廃止する方向で指針を改正する。
4)少年法第18条で規定する一時措置に対する少年の異議申立て権を保障するための制度づくりについては、法務部としても国家人権委員会の勧告の趣旨に異論はなく、国会に対して関連法案を発議することを検討する。

 法務部による以上の回答を踏まえ、人権委は、4)については人権委の勧告が受け入れられ、2)についても勧告が一部受け入れられたと判断しました。

 一方、1)については、公聴会の推進などの原則論的立場を表明するのみで具体的な履行計画への言及がなく、人権委の勧告を受け入れていないとの判断です。同様に、3)についても、指針改正など具体的な計画が示されておらず、未決収容者の混合収容を認めた現行法の規定(刑の執行および収容者の処遇に関する法律第11条1項3号など)についても何ら立場を明らかにしていないとして、人権委の勧告を受け入れたとは認めがたいと判断しています。

 とくに「虞犯少年」規定の削除を明確にしなかった点については、法務部の「微温的」な立場に遺憾の意を表明し、あらためて同規定の問題点を指摘したうえで、さらに前向きな姿勢で少年司法制度改善に取り組むよう促しています。

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