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スコットランド(英国)の公共サービスオンブズマン、子どもからの苦情申立てに対応する際の原則と指針を発表

 1月に投稿した〈スコットランド(英国)政府、「子どもの人権アプローチ」に関するガイダンスを発表〉の末尾で、スコットランド公共サービスオンブズマン(SPSO)による子どもにやさしい苦情申立て手続モデルが4月に発表されるらしいと書きましたが、やや遅れて5月30日に発表されました。こちらのページにこれまでの経緯がまとめられており、関連資料もダウンロードできます。

 今回発表されたのは、「子どもにやさしい苦情の取扱いの原則」Child Friendly Complaints Handling Principles [PDF])と「子どもにやさしい苦情の取扱い手続ガイダンス」Child Friendly Complaints Handling Process Guidance [PDF])です。「原則」はスコットランド議会に提出され、承認待ちの段階にあります。

 この「原則」と「ガイダンス」は、さまざまな機関が設けている苦情申立て手続において子どもに関わる苦情が適切に扱われるようにするためのものです。

 子どもにやさしい苦情の取扱いの原則として以下の7つが挙げられていますので、それぞれの内容を紹介します(番号は参照の便宜のために平野が付したもの;太字は原文ママ)。なお、各原則について国連・子どもの権利条約(以下「条約」)の関連条文も紹介されていますが、省略します。


1.18歳未満のすべての子どものために(For Everyone Under 18)

● 苦情の取扱いとの関係上、子どもとは「18歳未満のすべての者」と定義される。
● いかなる子どもであれ、子どもに影響を与えるすべての苦情は、条約に掲げられた子どものすべての権利を満たすやり方で取り扱われる。
● これには、子どもが直接申し立てる苦情のほか、大人が――子どものために、または子どもに影響を与える事柄について――申し立てる苦情も含まれる。

2.子どもの最善の利益に焦点を当てる(Focused on Children's Best Interests)

● 当事者である子どもの最善の利益が、苦情の取扱い手続の核心に位置づけられる。すなわち、行なわれるすべての決定またはとられるすべての対応において、当事者である子どもの最善の利益が最優先事項として扱われるということである。

3.子どもを信頼し、包摂的である(Trusting and Inclusive)

● 自分自身で選択する子どもの能力が高まりつつあるという認識を踏まえ、子どもが対応できるものについては子どもの決定が信頼される。
● 苦情は、自己のすべての権利を実現できるよう子どもをエンパワーするようなやり方で取り扱われる。
● 苦情はまた、子どもに指導、支援および指示を提供する、子どもの親(または他の責任のある大人)の権利を尊重するようなやり方で取り扱われる。
● 子どもが、自分に苦情について親(または他の責任のある大人)に知ってほしくないと望む可能性もある。このような場合、大人が関わるかどうかは、子どもの意見、最善の利益、年齢および能力を他の関係者の権利を慎重に衡量して決定される。

4.子どもの声を中心に据える(Centred on Children's Voices)

● 子どもには、その子に影響を与えるすべての事柄について、その子が望むかぎりにおいて、その意見、気持ちおよび希望を表明する機会が与えられる。
● 子どもの声および意見が常に聴かれ、真剣に受けとめられる。子どもの意見にどのような効果があったかについて、本人と共有され、説明される。
● 子どもは希望するコミュニケーションのやり方を尋ねられ、可能なときは常に子どもの望むやり方で物事が進められる。
● 子どものコミュニケーション上のニーズは、子どもが安心でき、参加していると感じられるやり方で満たされる。
● 苦情が親(または他の責任のある大人)によって申し立てられた場合、当事者である子どもの、十分な情報に基づく同意が求められる。

5.思いやりがあり、支援的である(Kind and Supportive)

● 子どもは常に思いやりと理解をもって扱われ、苦情を申し立てたことを理由に異なる扱いを受けることはない。このことは、信頼感を醸成し、子どもが率直に意見表明できると感じられるよう援助するうえで、不可欠である。
● 子どもが、自分の考えや意見を自由かつ率直に安心して表明できると感じられるようにするため、あらゆる努力が払われる。
● 子どもは、可能なときは常に、苦情申立てまたは懸念の表明のために、本人が知っていて信頼している人による支援を受ける。
● 支援してくれる人が誰もいないと感じている子どもに対しては、独立アドボカシーへの紹介が提案される。

6.プライバシーと秘密が守られる(Private and Confidential)

● 子どもが話してくれたどんなことも、本人の許可がなければ他に伝えられることはない。ただし、子どもの保護に関わる問題が生じていたり、他の法律上の義務を果たすために伝えることが必要なときは、この限りではない。
● 苦情について子どもと話をする前に、どのような場合に子どもの許可を得ずに物事を他に伝えなければならなくなる可能性があるか、説明がされる。これには、危険な状況にあると示唆するようなことを子どもが言った場合にどのような対応がとられるかについての説明も含まれる。
● 子どもの苦情を他と共有しなければならない場合、または子どもの親(もしくは他の責任のある大人)が関わっている場合には、そのことを子どもに伝え、なぜそうする必要があるかについても説明する。
● 子どもの苦情を他と共有する場合、できるかぎり子どもを特定せずに行なう。
● 調査をすれば、子どもが誰なのか他の者にわかってしまう可能性がある場合、子ども本人と話し合って、調査の継続を望むかどうか、意見を求める。

7.権利について知る(Knowing about Rights)

● 子どもおよび親(または他の責任のある大人)に対し、条約に基づく子どもの権利についての情報と、それが何を意味するのか理解するための援助が提供される。

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「原則」とあわせて発表された「ガイダンス」では、子どもにやさしい苦情申立て手続のあり方についてさらに具体的に述べられていますが、機会があればあらためて紹介します。

 日本でも子どものためのさまざまな相談サービスが設けられていますが、条例に基づいて自治体で設置されている子どもの相談・救済機関を除けば、子どもの権利の視点に(十分に)根差したものは、まだまだほとんどないと思われます。あらゆる相談サービスが子どもの権利に根ざしたものとなるよう、こども家庭庁としても検証と指針の策定などを進めていくことが必要です。

 関連して、アイルランド子どもオンブズマン事務所の指針ユニセフ(国連児童基金)のツールキットについても紹介済みです。適時性の問題をはじめ、SPSOの「原則」では十分に触れられていない論点も取り上げられていますので、あわせてご参照ください。

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