スコットランド政府が推奨する「子どもの権利予算」
スコットランド政府(英国)が今年(2024年)1月8日に発表した「子どもの人権アプローチ」に関するガイダンス(Taking a children's human rights approach: guidance)についての投稿で、次のように書きました。
今回はこの点についてもう少し詳しい内容を紹介します。
「予算配分」と題された節(4.2.2 Budget allocation)は、「子どもの権利予算」(child rights budgeting)について、
「子どもの権利予算とは、予算上の意思決定および資源配分の優先順位に関する判断に際して子どもの権利を尊重する実践が採用されるプロセスである」(Child rights budgeting is a process where child’s rights respecting practice is adopted for budgetary decision making and resource prioritisation)
と説明しています。
さらに、「人権基準および人権法上の義務に配慮し、かつこれらの基準および義務を反映させるようなやり方で公共予算を策定し、執行しかつ分析するプロセス」としての「人権予算」(human rights budgeting)の概念に言及したうえで、次のように述べています。
さらに、「子どもの権利予算の中核的原則は、差別の禁止、参加、アカウンタビリティおよび透明性である」とされ、予算情報の透明性は「情報を求め、受けかつ伝える」子ども・若者の権利(子どもの権利条約13条)との関連で捉えるべきであることも指摘しています。
子どもの権利のための予算策定の際に考慮すべき事項として最初に例示されているのは、次の8つです。
予算全般はどのように編成されており、その際、子どもの権利の擁護にとって不可欠なサービスおよびプログラムのために十分な資源が存在することは確保されているか。
予算内の配分において、子どものさまざまな集団間に存在する権利の享受面でのギャップを縮めることが(どのように)優先されているか。
予算サイクルのさまざまな段階で採用されている手続と、意味のある参加、差別の禁止およびアカウンタビリティのような人権原則との整合性がどのようにとられているか。
利用可能な資源が、どの程度、無駄の削減および予算支出全体におけるベストバリュー義務の実施の確保といった「ベストバリュー」原則に基づいて適用されているか。
予算配分支出が、子どもの経済的・社会的・文化的権利とどの程度関連しており、子どもの権利を充足するために他のサービス領域で支出節減のための振替えの可能性に関する慎重な考慮がどの程度行なわれているか。
子どもの権利に関わるアウトカムが(どのように)測定され、財源の配分と(どのように)関連づけられ、かつ財源の配分によって(どのように)達成されているか。
子どもを対象とするサービスから成人向けのサービスへの移行にあたって子どもが適切な支援を受けられるようにする移行期サービスのために、十分な資源が用意されているか。
予算上の意思決定プロセスに、子どもがどのように意味のある形で関与しているか。
その後、予算計画・予算承認・予算執行・予算監査の各段階で考慮すべき事柄が、国連・子どもの権利委員会の一般的意見19号(2016年)、とくに「V.公共予算における子どもの権利の実施」(パラ64以下)も踏まえながら、提示されています。以下、簡単に紹介します。
予算計画(Budget planning)
ここでは、脆弱な状況に置かれている子どもたちのための資源配分にとくに注意を払いながら、次のような対応が促されています。
子どもたちの状況に関する情報が、さまざまな集団の子どもたちについて考慮し、かつ差別の禁止の原則を実施することを可能にするようなやり方で細分化されていることを確保する。
公的機関領域での子どもたちの状況に関するユーザーフレンドリーな情報とデータを、公務員、市民社会および子どもたちに対し、時宜を得たやり方で利用可能とする。
可能なときは、過去の資源創出・配分・支出が子どもたちに与えた影響についての内部監査、事後評価および研究を実施することを通じ、予算決定が子ども・若者に与えたこれまでの影響および今後与え得る影響を調査する。
評価段階では、子ども・若者および子ども・若者の支援またはケアに従事している人々の意見を考慮するべきである。
予算承認(Budget approval)
この段階で考慮すべき事柄として挙げられているのは次の3点です。
公的機関領域の子どもたちの状況に関する理解しやすい情報に、どの程度十分にアクセスできるか。
予算提案を受け取り、提案についての検討や討議に子どもたちを包摂し、かつ必要な場合に修正を行なうための十分な時間が確保されているか。
たとえば関連のステークホルダー(市民社会組織、子どもアドボケイトおよび子どもたち自身を含む)の参加との関連で、予算編成を通じて手続上の原則がどの程度整備されているか。
予算執行(Budget execution)
ここでは、透明かつ効率的な予算執行の重要性とともに、効率性を確保しようとするあまり、子どもの権利を増進させるために調達される財やサービスの利用可能性または質が損なわれるべきではないことが指摘されています。また、予算支出過程全体を通じて内部報告を実施するとともに、年度中予算報告書(in-year budget reports)を公開することも推奨されています。
予算監査(Budget oversight)
予算執行が子どもの権利の実現にどのような肯定的・否定的影響を与えたかについての包括的評価を、市民社会や子ども・若者と緊密に協力しながら実施することなどが推奨されています。意味のある参加を促進するためには、年度末時点での予算情報を適時に公開することも必要になります。こうした評価の結果は、次年度の予算編成の評価(計画)段階で活用することが可能です。
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以上に掲げられた内容はまだまだ一般的なものに留まっており、スコットランドの民間団体が昨年発表した『スコットランドにおける子どもの権利予算――法的義務の充足のための勧告』に比べれば、子どもの権利の視点が十分に貫かれているとは評価できません。ただ、政府としてこのような指針を打ち出したことには意味があり、日本での議論・実践でも参考にできるのではないかと思います。
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