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ノルウェー政府、新教育法の立法提案を議会に提出:子どもの最善の利益原則や参加権についても規定

 ノルウェー政府は、3月24日、1998年教育法(英訳)に代わる新たな教育法の立法提案(ノルウェー語)を議会に提出しました。

【追記】(2023年7月23日) 新教育法は6月9日に議会によって可決され、成立しました(9月25日追記:当初「7月7日」と書いていましたが、あらためて調べてみると6月9日に成立したようです)。2024年8月から施行される予定です。/(9月26日追記)一部条文を日本語訳しました

-Kunnskapsministeren har lagt frem forslag til ny opplaringslov(教育相、新教育法の提案を提出)
https://www.regjeringen.no/no/aktuelt/kunnskapsministeren-har-lagt-frem-forslag-til-ny-opplaringslov/id2968067/

 上記のプレスリリースによれば、今回の立法提案には次のように多くの新たな要素が盛りこまれています。Google翻訳によるプレスリリースの英訳を踏まえ、要旨を紹介します(番号は参照の便宜のため平野が付したもの;番号以外の太字は原文ママ)。

1)より多くの人が後期中等教育を修了し、職業生活のための資格を得られるようにする。
2)フォローアップサービスの対象者を拡大し、高校中退者・離職者のためのフォローアップを24歳(現行21歳)まで行なうようにする。
3)成人向けの職業訓練に対する権利を拡大する。
4)児童生徒に関わる行動および決定においては児童生徒の最善の利益を基本的考慮事項としなければならない旨、規定する。
5)児童生徒には自己に関わるすべての事柄について法律にしたがって参加する権利があることと、児童生徒の意見が聴かれ、かつ重視されなければならないことを規定する。また、15歳以降の児童生徒の自己決定権について明確にする。
6)個人のニーズ等に合わせた授業の適合のあり方について定める。
7)ホームエデュケーションについて、自治体の監督義務および保護者の報告義務を定める。
8)学校が宿題を出せる旨、明確にする。ただし、宿題を出す際には、児童生徒に休息および自由時間に対する権利があることを考慮しなければならない。自治体として宿題を出さない方針を定めることもできるが、個々の学校に宿題を出す義務を課すことはできない。
9)先住民族であるサーミの権利(サーミ語による教育を含む)を維持・強化する。
10)自治体が採用していない書き言葉(ニーノシュクまたはブークモール)で授業を受ける権利を、希望する児童生徒が一定数いる場合には自治体の方針にかかわらず保障する。
11)宗教的伝道の禁止をすべての授業に拡大する。
12)学校環境に関する規則はおおむね維持するが、その運用について若干の修正を加える(教員が児童生徒に違反行為を行なった旨の申立てに明らかに根拠がない場合の校長の報告義務の免除、申立てを受けた教員に対する弁明権の保障など)。
13)学校で雇用される者についての犯歴経歴証明書に関する規則を強化する。

 8)に挙げられている宿題の問題については、かつて〈ノルウェーの小学生、市議会に「宿題のないまち」の実現を要求〉という話題を取り上げました(2021年11月10日投稿)。当時、教育相は改正教育法で宿題について言及するかどうかは白紙だとコメントしていましたが、けっきょく、自治体による裁量の余地を残す形で、宿題を出せることを明確にすることになったようです。

 日本の状況との関連では、とくに、4)子どもの最善の利益原則を教育法にも明示しようとしている点、5)子どもの参加権、子どもの意見の尊重の原則および15歳以上の子どもの自己決定権(主として進学に関わるもの)について規定しようとしている点が注目されます。

 日本の中央教育審議会が3月8日にとりまとめた「次期教育振興基本計画について(答申)」(中教審第241号)でも、目標2〈豊かな心の育成〉との関連で子どもの権利利益の擁護子どもの最善の利益の実現が基本施策に位置づけられ、目標6〈主体的に社会の形成に参画する態度の育成・規範意識の醸成〉との関連で
「子供たちに関わるルール等の制定や見直しの過程に子供自身が関与することは身近な課題を自分たちで解決する経験となるなど、教育的な意義があることから、学校や教育委員会等の先導的な取組事例について周知するとともに、子供の主体性を育む取組を進める」
 として子どもの意見表明(意見表明「権」ではない)にも言及されていますが、学校に子どもの権利の視点を根づかせていくためにも、学校教育法の改正に向けた検討を続けていくことが必要でしょう(note〈次期教育振興基本計画の策定に向けたパブリックコメント〉も参照)。


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