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欧州諸国での子ども参加の現状と課題

 欧州連合(EU)の政策執行機関・欧州委員会(European Commission)の呼びかけを受けて5つの子どもの権利団体が実施した子ども参加に関する調査の報告書『私たちのヨーロッパ、私たちの権利、私たちの未来』(Our Europe. Our Rights. Our Future)について、先日 Facebook で紹介しました。概要はユニセフ(国連児童基金)のプレスリリースに掲載されています。

-ユニセフ(日本ユニセフ協会訳):子どもの意見を政策立案に 欧州の子ども・若者調査 5人に1人が将来に不安
ーUNICEF: Children speak up about the rights and the future they want

 これとは別に、やはり欧州委員会の委嘱を受けて Eurochild と RAND Europe が実施した調査の最終報告書『EUの政治的・民主的生活への子ども参加に関する研究』(Study on child participation in EU political and democratic life)も発表されました(2月22日)。

★ Eurochild: How can we improve child participation in EU policymaking?
https://www.eurochild.org/news/how-can-we-improve-child-participation-in-eu-policymaking/

 約330ページからなる報告書全文は、要約版とあわせてEUのサイトからダウンロードできます。

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 今回の調査では、国際社会・欧州レベルでの子ども参加に加え、国レベル(28か国)・地域レベル(10か国)での子ども参加について検討が行なわれています。フォーカスグループ・コンサルテーションを通じ、10か国から224人の子ども・若者も調査に参加しました。

 以下、Eurochild のプレスリリースと報告書の要約版を参照しつつ、調査結果の概要を紹介します。

 国・地方レベルでもっともよく見られた子ども参加のしくみは、子ども(若者)評議会、子ども(若者)議会および子どもオンブズパーソン事務所(またはそれに類する機関)でした。子ども(若者)評議会は27か国で、子ども(若者)議会は13か国で設置されています(これらのしくみのリストは Children's participation structures and mechanisms 〔PDF〕としてまとめられています)。

 しかし、これらのしくみは1990年代から2000年代にかけて設けられた大人主導のもので、子どもたちがアイデアを提案するうえでは役に立っているものの、子どもたちの声が実際に影響を与えたかどうかの検証は十分に行なわれていません。政府が子ども・若者に関する意思決定を行なう際に当事者と協議しなければならないと法律で定められている国はベルギー、ルクセンブルク、スロベニア、スペイン(カタルーニャ)、英国(スコットランド)などわずかにすぎず、ほとんどの国では、子どもたちの意見は勧告以上のものではないと考えられています。

 参加する子どもを男女別に見るとおおむね平等が達成されていますが、年齢で見ると12歳以上の子どもが圧倒的であり、低年齢の子どもの参加をどのように保障するかが課題として浮かび上がりました。また、不利な立場に置かれた子どもを国レベルの評議会等に含めなければならないという規則を設けている国も4か国にすぎず、このような子どもたちの参加をどのように保障していくかも課題となっています。

 その他、子ども参加を妨げる障壁としては次のようなものが特定されました。

● 子どもおよびその参加の力に関する社会的見方・態度
● 言語能力
● 参加に関する情報の利用可能性・アクセス可能性
● 子ども参加が法的に承認されていないこと
● 子どもたちへのフィードバックが欠けていること

 こうした障壁を取り除くため、▼子ども・大人を対象とする情報および訓練の提供、▼参加のための安全な空間づくり(デジタルツール/プラットフォームを含む)、▼政府の決定に子どもたちが参加できるようにするための国内法・計画の策定、▼子ども主導のイニシアティブの支援など、いっそうの取り組みが必要であることが指摘されています。

 報告書には多数の事例も紹介されており、参考になりそうです。機会があれば、また取り上げたいと思います。なお、欧州評議会「18歳未満の子ども・若者の参加についての加盟国に対する閣僚委員会勧告CM/Rec(2012)2」なども参照。

【追記1】(2022年12月20日)
 こども家庭庁設立準備室(内閣官房)の委嘱を受けて株式会社NTTデータ経営研究所がまとめた「こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する調査研究-【諸外国の取組収集】調査対象国以外の動向 報告書」PDF)に、『EUの政治的・民主的生活への子ども参加に関する研究』の内容がより詳しく紹介されています(pp.6-11)。あわせてご参照ください。「こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する検討委員会」第3回会合(2022年12月16日)のページに掲載されているものです。

【追記2】(2023年3月22日)
 EU加盟国ではないスイスの状況について、次の記事も参照。スイスでは、8~14歳の子どもが参加できる子ども議会が約10カ所で開催されているとのことです。

-Swillinfo:子どもも政治に参加 ルツェルン子ども議会
https://www.swissinfo.ch/jpn/politics/スイス-政治-参加-ルツェルン-子ども議会-政治家-青年-議員-子供-小学生-48378200

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