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子どものための相談(苦情申立て)サービスはどうあるべきか:アイルランド子どもオンブズマン事務所の指針

 昨日の投稿で紹介したように、アイルランド子どもオンブズマン事務所(OCO)は「現場の(local)苦情申立て手続を認識・尊重」するという方針をとり、OCOへの申立てを行なう前に既存の苦情申立て手続を活用するよう推奨しています。

 OCOのサイトに設けられた苦情申立てに関する解説ページでも、〈OCOに申立てをする前に〉の項で、▽サービス機関の担当者や管理者への相談、▽当該機関に設けられた正式な苦情申立て手続の利用を呼びかけたうえで、
「あなたがあるサービス機関について苦情を申し立てようとしているとき、私たちに連絡する前にそのサービス機関に是正の機会を与えることは大切です。私たちの経験では、申立てへの対応は現場でこそ最善の形で、そして速やかに行なうことができます。これは現場での解決と呼ばれており、私たちが奨励していることです」
 と強調しています(このあと、「ただし、それでもあなたが満足しない場合、私たちに連絡すべき時かもしれません」という言葉が続きます)。

 けれども、各機関に適切な苦情申立て手続が設けられていなければ、「現場での解決」は有名無実になります。そこでOCOは、2018年、子どもに対応する機関向けに「子ども中心の申立ての取扱いに関する手引き」A Guide to Child-Centred Complaints Handling)を発表しました。

 ガイドの〈はじめに〉(p.2)では次のように書かれています(原文は太字)。

 子ども中心であるためには、子どもに影響を与える申立てに対応する際、子どもの権利を考えることが不可欠です。そのためには、申立てへの対応プロセスを全体を通じて子どもの最善の利益を適切に考慮すること、そして子どもの意見を正当に顧慮することが必要になります。とりわけ、申立てへの対応に対する子ども中心アプローチにおいては、公正な申立て手続がしっかりと遵守されつつ、申立ての当事者である子ども(たち)に一貫して焦点が当てられることになるでしょう。これには、提起された問題、提案されるプロセスの結果およびフォローアップのための行動が子どもにどのような影響を及ぼすかという観点も含まれます。

 ここで強調されている「子ども中心アプローチ」の核となる原則として挙げられているのは、次の7つです。それぞれについて概要を紹介します(太字は基本的に原文を踏まえたものですが、一部原文とは異なるところがあります)。

1.開かれた姿勢とアクセスしやすさ

 子どものニーズを考慮し、そのニーズを満たすためのアプローチにおいて、開かれた、柔軟な姿勢を保つこと。そのためには次のような対応が求められる。

・提供しているサービスについてのフィードバック(称賛・コメント・懸念・不服)を積極的に奨励すること。
・すべての人を対象とする、無償の苦情申立て処理サービスを提供すること。
申し立てから学ぶ(申立ての取扱いに対して開かれたアプローチをとり、申立てを学びのおよびサービス改善の機会として認識する)こと。
・申立てを行なうための、非公式・公式の選択肢を提供すること。
・苦情申立てプロセスに関する広報資料の作成に子どもたちの関与を得ること。資料がわかりやすいものになるようにすること。
・子どもやその代理人が有している異なるニーズまたは追加的ニーズへの対応に関して、柔軟な対応をとること(情報提供、申立て方法、支援の提供、面会の持ち方などに関する工夫)。

2.子どもの最善の利益

 当事者である子ども(たち)にとって何が正解かを考慮する、よく考えられたプロセスを活用しながら申立てにアプローチし、その解決を図ること。そのためには次のような対応が求められる。

● プロセスの各段階で、また申立てに関連するすべての行動および決定において、子どもの最善の利益を第一次的に考慮すること。
● 子どもに対するいかなる害または苦痛も生じないようにすることに対して傾注すること。
● 他の関連の行政機関・サービス機関の関与を適宜得ることにより、何が子どもの最善の利益かについての検討に対して多職種協働アプローチをとること。
● 子どもに代わって申立てを行なった大人との関係がどのようなものであるかに関わらず、当事者である子どもにとって最善の結果を確保することに焦点を当てる問題解決アプローチをとること。
● 複数の子どもの最善の利益を考慮しなければならない申立ての場合、それぞれの子どもの最善の利益を個別に評価して注意深いバランスをとるよう努めること。
● 申立て処理プロセスの各段階で当事者の子どもの最善の利益をどのように検討・評価したか、書面で明確に明らかにすること。

 ここではさらに、子どもの最善の利益について検討する際の考慮事項として、▽子どもの意見、▽子どもの個人的状況およびアイデンティティ、▽子どもの脆弱性、▽関連する他の子どもの権利が挙げられている。これは、国連・子どもの権利委員会の一般的意見14号(自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利、2013年)、パラ52を踏まえたものである。

3.子どもの参加

 子どもによってまたは子どもに代わって行なわれた申立てが当事者である子どものインプットを得ながら扱われるようにするため、あらゆる努力を払うこと。そのためには次のような対応が求められる。

● 子どもに意見を形成する力がある場合、当事者である子どもの意見を求めること。子どもの年齢および成熟度にしたがい、その意見を正当に重視すること。
● すべての子どもに意見を聴かれる権利がある一方で、いかなる子どもにも意見表明の義務はないことを忘れないようにすること。子どもの参加は任意でなければならない
● 子どもには自分自身の意見を形成する力があり、意見表明の機会を与えられることは一般的には子どもの最善の利益に合致するという立場から出発すること。
● 申立てで提起されている問題や提案されているフォローアップの行動についての子どもの意見表明を促進すること。自分が知っていることについて子どもが話せるよう、支援すること(問題のすべてについて子どもが包括的知識を持っている必要はないのを忘れないようにする)。重要性・関連性があると感じる問題を子どもが提起できるような支援も行なうこと。
● 子どもの自由な意見表明を妨げる可能性のある障壁(たとえば力の不均衡、申立てを行なったことによる悪影響への恐れ、権威のある人や申立てシステムへの不信感など)に配慮すること。とくに次のような対応をとること。
 -申立て処理プロセスでどのように意見を聴かれたいかについて子どもと相談すること。
 -子どもが効果的に、安心できるやり方で参加することを支えるアプローチや手法を活用すること。
● 子どもが希望する場合、支援者(たとえば親/保護者、信頼できる専門家、きょうだい、友達など)の関与を得る機会を常に子どもに与えること。

 ここでは、子どもの意見をどの程度「正当に重視」するかを評価する際に考慮すべき要素として、2007年の手引きに掲げられた内容が再掲されている。

4.透明性と意思疎通

 申立てを行ないたいと考えた場合に利用可能な選択肢および苦情申立てプロセスそのものについて、子どもとその代理人が理解できるようにすること。そのためには次のような対応が求められる。

● 苦情申立ての取扱いに関するポリシーと手続を定めるとともに、申立てを行なえることを子どもとその代理人に告知すること。
● 次のことについて、子どもとその代理人にアクセスしやすい情報を提供することによって最初から明確にしておくこと。
 -対応できるのはどのようなタイプの申立てか
 -申立てを行なえるのはだれか
 -申立てはどのように行なうか
 -申立て処理プロセスの主な特徴:関与する専門家とその役割/プロセスの諸段階/申立てに適用される他のポリシー(たとえば子どもの保護に関するポリシー)/情報の記録・利用・共有の方法(秘密保持の制限を含む)/子どもおよびその代理人とどのようにやりとりするか など
● 当該機関で扱えない問題が提起されている場合に、子どもまたはその代理人がどこに苦情を申し立てることができるかについてのガイダンスを提供すること。
● 苦情申立て処理プロセスに関する質問を奨励・支援し、問い合わせに対して適時に回答すること。
● すべての申立てについて、受け付けた旨を速やかにかつ書面で知らせること。
● 明確かつアクセスしやすいアップデートを常に提供すること(関連の支援サービス、申立ての受理後にとられた行動、申立てに関連する会合、申立てをめぐる進捗状況、申立人の意見の考慮状況、申立ての結果の理由など)。
● 苦情申立て処理プロセスに関与するすべての専門家を、優れたコミュニケーションおよびラポール構築のスキルを身につけられるように支援する

5.適時性

 時間の影響を考慮し、子どもに影響を与えるすべての意思決定において、遅延が子どもに及ぼす可能性のある悪影響が認識されるようにすること。そのためには次のような対応が求められる。

● 子どもによってまたは子どもに代わって行なわれた申立ては優先的に取り扱い、早期の解決を目指し、子どもに影響を及ぼす申立て処理プロセスは可能なかぎり短期間で完了させること。
● 子どもの時間感覚を考慮しながら、申立て処理プロセスの各段階について合理的な時間枠を設定すること。
● 遅れが生じた場合、新たな時間枠を設定するとともに、子どもおよび他の当事者に速やかに通知して遅れの理由を説明すること。
● 安全や福祉に関わる懸念には緊急に対応すること。

6.公正性

 子どもには、自ら行なった申立ておよび自分に代わって行なわれた申立ての解決において、公正な手続に対する権利があることを認識すること。そのためには次のような対応が求められる。

● 専門家が一方に肩入れしないようにしながら、すべての申立てを公正かつ公平なやり方で取り扱うこと。必要かつ適切なときは、申立てに関する調査に際し、当該サービス機関から独立した者の関与を得ること。
● 申立てに関して十分な調査を行なうこと。そのために、すべての関連情報を検討し、関係当事者全員の意見を聴取・検討し、提起された懸念が当事者である子ども(たち)の権利に及ぼす影響を評価すること。
● 申立て処理プロセスへの参加に対する包摂的かつ公正なアプローチを促進するため、申立て当事者との面会・面接は個別に実施すること。
● 独立した不服申立て手続が存在するようにすること。子どもやその代理人が申立て処理プロセスの結果について不満である場合、当該手続の存在と連絡方法の詳細を伝え、不服申立てが行なえるようにすること。

7.モニタリングと検証

 質の保証に対してコミットすること。そのためには次のような対応が求められる。

● 子どもに影響を及ぼすすべての苦情申立てについて、正確、完全かつ最新の記録を維持すること。
● 提供しているサービスおよび苦情申立て処理プロセスを改善するための取り組みの参考になり得る問題や傾向を明らかにするため、子どもに影響を及ぼす苦情申立てのモニタリングと検証を行なうこと。
● 苦情申立てに関するポリシーと手続を定期的に(たとえば毎年)見直すこと。見直しの一環として、過去に申立てを行なったことのある子どもからのフィードバックや、より幅広いサービス利用者の意見およびアイデアを求め、検討すること。

子ども中心アプローチをとることのメリット

 以上の7つの原則に基づく子ども中心アプローチをとることのメリットについて、手引きでは次の7つが挙げられています(要旨)。

(a)正当性:子ども中心アプローチは子どもの権利に関する国際法で求められているものであり、これにしたがうことで正当性が担保される。
(b)包摂性:苦情申立て処理プロセスにアクセス・参加する際に子どもが直面する特有の障壁を解消することにつながる。
(c)子どもの最善の利益:子どもの権利、最善の利益およびニーズを全面的に考慮することにより、子どもにとって最善の結果を確保することに焦点を当てた意思決定の支えとなる。
(d)エンパワーメント:子どもを権利の保有者および生活の主体として認め、その発達しつつある能力を尊重し、プロセスへの参加を支援することにより、子どものエンパワーメントにつながる。
(e)保証(Affirmation):子どもによる懸念の提起が歓迎されること、子どもが敬意をもって扱われること、子どもの意見が聴かれ、考慮されることを保証することにつながる。
(f)アカウンタビリティ(説明責任):子どもとその代理人に対する意思決定権者のアカウンタビリティが促進される。
(g)質の向上:子どもの権利の実施における問題点の特定を支援し、子どもの最善の利益にのっとって対処・改善されなければならない分野を明らかにすることにつながる。

 熊本市(熊本県)では、4月1日から「こどもホットライン」を設置して(とくに学校現場における)子どもの権利侵害についての相談の受付を開始するとともに、「こどもの権利サポートセンター開設準備室」を開設してしくみの整備に取り組んでいこうとしています(熊本市長による3月16日の定例記者会見参照;個人的には、今後の検討を経て子どもの権利オンブズパーソンのような機関の設置に踏み切ってもらいたいと考えています)。今後も各地で相談体制の拡大・強化が模索されていくでしょうが、アイルランド子どもオンブズマン事務所が提示した上記の指針も参考にしながら、子どもの権利を基盤とする子ども中心アプローチにのっとった取り組みを進めていってほしいと思います。

 なお、ユニセフ(国連児童基金)も、国内人権機関向けの「子どもにやさしい実務の支援ツール」シリーズの一環として「子どもにやさしい苦情申立てのしくみ」Child-Friendly Complaint Mechanisms〔PDF〕)と題する資料を発表しています。これについても近日中に概要を紹介する予定なので、あわせてご参照ください(追記紹介しました)。

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