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ドイツ連立与党が子どもの権利保障のための基本法改正で合意――先行きは不透明

 ドイツで、憲法(基本法)を改正して子どもの権利に関する具体的規定を盛りこむべきではないかという議論が行なわれていることを、以前Facebookで紹介しました(2017年4月5日同9月21日の投稿)。子どもの権利条約採択30周年(2019年)にあたってドイツが提出した「誓約」(Facebookへの以前の投稿も参照)でも、「基本法に子どもの基本的権利を明示的に編入するための努力を継続する」ことが表明されていました。

 報道によると、連立政権を構成する社会民主党(SPD)とCDU/CSU(ドイツキリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟)は、1月12日夜に開かれた作業部会で、基本法改正案の文言についてようやく合意したとのことです。

★The Courier - Compromise on children's rights in the Basic Law meets with criticism | Free press
https://www.mccourier.com/compromise-on-childrens-rights-in-the-basic-law-meets-with-criticism-free-press/

 CDU/CSUは国が家族に介入しすぎることへの懸念から基本法改正に慎重な姿勢を保ってきていましたが、婚姻・家族・親子関係等について定めた基本法第6条に以下の規定を追加することで連立与党内の合意が成立したようです。

 子どもの憲法上の権利(責任ある個人へと発達する権利を含む)は、尊重されかつ保護されなければならない。子どもの最善の利益が適切なやり方で考慮されなければならない。法律の前において公正に聴聞される子どもの憲法上の権利が確保されなければならない。親の第一次的責任には、依然として影響は生じない。

 The constitutional rights of children, including their right to develop as responsible individuals must be respected and protected. Children's best interests must be taken into account in an appropriate manner. The constitutional entitlement of children to a fair hearing in front of the law must be ensured. The primary responsibility of parents shall remain unaffected.

追記(1月28日):1月21日付で発表されたドイツ政府のリリース(英語)では条文案の文言が報道とは若干異なっていますので、条文案の英訳を差し替え、日本語訳もそれに合わせて修正しました。

 一方、自由民主党(FDP)は家族への国家介入へのおそれからこのような改正には依然として慎重であり、 ドイツのための選択肢(AfD)は基本法の改正を拒否しているとされます。また、緑の党・左翼党や子どもの権利団体などは、こうした動きを原則として歓迎しつつ、改正案は不十分であって、子どもの真正な参加権を規定するべきだなどと指摘しているとのことです。

 基本法改正には連邦議会と連邦参議院でそれぞれ3分の2以上の賛成票が必要であり、これが獲得できるかどうかは現時点では何とも言えません。それでも、憲法で子どもの権利を明示的に規定することについて政権与党がこのような合意に達したというのは、大きな出来事と評価できるのではないかと思います(なお、日本でも同様に憲法を改正すべきかどうかはまた別の問題です)。

 なお、ドイツにおけるこれまでの議論については荒川麻里〈ドイツにおける「子どもの権利憲法条項化案」棄却の論理(教育制度研究紀要7号、pp.95-108、2012年)に詳細にまとめられているので、ご参照ください。

 同論文で紹介されているオーストリアの「子どもの権利に関する憲法律」(2011年2月)については、ILO(国際労働機関)の法令データベースに英訳が掲載されています。そのうち内容を紹介するかもしれません。(追記:翻訳しました。)


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