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ユニセフ、「豊かさの中の子どもの貧困」に関する報告書を発表:日本は総合順位で39か国中8位に

 取り上げるのが遅くなりましたが、ユニセフ(国連児童基金)は、2023年12月6日、レポートカード18「豊かさの中の子どもの貧困」(Child Poverty in the Midst of Wealth)を発表しました(これまでのレポートカードについては日本ユニセフ協会のサイトを参照)。

★ユニセフ/日本ユニセフ協会:ユニセフ「レポートカード18」 豊かさの中の子どもの貧困 日本39カ国中8位 改善には偏り
https://www.unicef.or.jp/news/2023/0208.html

ユニセフ・イノチェンティ研究所の「レポートカード18:豊かさの中の子どもの貧困(原題:Child Poverty in the Midst of Wealth)」は、OECDおよびEU加盟国の子どものウェルビーイングを調査する報告書シリーズの最新刊です。これらの国々の子どもの貧困について最新の状況を比較し、各国政府の子どものいる家庭に対する所得支援政策等について分析しています。それによると、2014年から2021年にかけて、貧困の中で暮らす子どもの数は40カ国全体で約8%減少したものの、2021年末時点で依然として6,900万人を超えています。この期間にフランス、アイスランド、ノルウェー、スイス、英国では子どもの貧困が大幅に増加した一方、ラトビア、リトアニア、ポーランド、スロベニアでは大きく低下。日本は、2019~21年の子どもの貧困率と、2012~14年からの貧困率の改善度に基づく総合順位で39カ国中8位でした。

https://www.unicef.or.jp/jcu-cms/media-contents/2023/12/20231204_RC18_leaguetable.pdf

 日本の状況と課題については阿部 彩さん(東京都立大学教授/子ども・若者貧困研究センター長)による解説が別途掲載されていますので、そちらをご覧ください。阿部さんは、日本でこの間とられてきた子どもの貧困対策を一定程度評価しつつ、「子どものある世帯全体の経済状況が改善される中、そのような、労働市場の波にのることができていない世帯が取り残されていること」を指摘するとともに、「現金給付とサービス給付の両輪が必要」であることを強調しています。

 ユニセフによる今回の報告は、他の国々でも反響を呼んでいます。たとえば、総合順位で39か国中37位と低迷した英国では、スコットランド、ウェールズおよび北アイルランドの子どもコミッショナーが共同で声明(12月6日付)を発表し、
「私たちは、子どもたちがお腹を空かせ、寒い思いをし、学ぶことができない状況に置かれていることを、単なる人生の現実として受け入れることはできません。英国政府および自治政府は、英国の取り組みが不十分であることに関するユニセフの警告を受けとめ、子どもの貧困に直ちに対処するために緊急の行動をとらなければなりません」
 と強調しています。

 また、総合順位が39か国中19位だったニュージーランドでは、子ども・若者委員会で主任子どもコミッショナーを務めるクレア・アクマド(Claire Achmad)博士が、「政府が近年行なってきた協調のとれた努力によって子どもの貧困率が改善されてきたのは心強いことです」と評価し、取り組みを継続する必要性を訴えています(こちらのページを参照)。

 今回の調査結果を踏まえ、ユニセフは次の提言を行なっています(日本ユニセフ協会のリリースより)。

1.世帯の所得を補うための児童手当や家族手当など、子どものための社会的保護を拡大する。〔平野注/この点については〈ILO/ユニセフ、子どもの社会的保護に関する報告書を発表〉なども参照〕
2.すべての子どもたちが、保育や無償の教育など、ウェルビーイングに欠かせない質の高い基本的サービスを利用できるようにする。
3.保護者の仕事と育児の両立を支援するために、適切な賃金の雇用機会や、有給の育児休業などの家族にやさしい政策を整える。〔平野注/この点については、ユニセフ・イノチェンティ研究所が2019年に発表した報告書『世界でもっとも豊かな国々は家族にやさしいか? OECDとEUにおける政策』なども参照〕
4.特に困難な状況の家庭やひとり親家庭のニーズに対応する措置を用意し、社会的保護、主要なサービス、適切な仕事へのアクセスを促進し、不平等を是正する。

 ユニセフはさらに、これらの取り組みの基本をなすべき重要な原則として次の3つを挙げています(こちらのページより;報告書p.49も参照)。日本でも、これらの提言と原則を踏まえてさらなる取り組みを続けていくことが必要です。

a)子どもの貧困削減への支持を構築する。

効果的な子どもの貧困削減政策のためには、政府として、優先課題の中心に子どもの貧困削減を位置づけることが要求される。政府はまた、市民社会、コミュニティの指導者、雇用主、労働組合および非政府組織を含むその他の主体の、そして貧困下で暮らしている子どもおよび大人の関与を得ることを通じて子どもの貧困削減への幅広い支持を構築するうえでも、重要な主動的役割を果たさなければならない。

b)よりよいデータを生成する。

国際比較分析を通じて他国から学べるかどうかは、質の高い比較可能なデータが利用できるか否かにかかっている。しかし、このようなデータにはいまなお欠落している部分が少なくない。さらに、子どもの貧困の深度――貧困ギャップ――に関するデータが不足している。これらの欠点により、子どもの所得貧困を意味のある形でモニタリングすることが妨げられている。

c)貧困に関する議論に子どもたちの関与を得る。

私たちはいまなお、子どもたち自身が貧困についてどう思っているかについて、驚くほど知らない。子どもたちにきいてみると、その意見や考えは大人のそれとは違っていることがしばしばある。自分たちの政策に影響を与える政策分野に子どもたちが関与するようになる機会は、国連・子どもの権利条約で裏付けられたものである。子どもたちがそのような形で関与し、力のある政治的主体になり得ることは、環境に関する議論で認識されるようになってきた。子どもの貧困に関する議論にもっと積極的に関与していく機会を子どもたちが持てるようにするべき時期は、とっくに過ぎている。

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