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「地平線を超えて:子どもの権利新時代」――欧州評議会ハイレベル会議

 先日の投稿で紹介したとおり、4月7~8日にローマ(イタリア)で開催された欧州評議会のハイレベル会議「地平線を超えて:子どもの権利新時代」(Beyond the horizon: a new era for the rights of the child)で、第4次「子どもの権利戦略」(2022~2027年、ローマ戦略)が正式に発表されました。

★ Council of Europe - Children's rights in crisis and emergency situations: a new Council of Europe priority for 2022-2027
https://www.coe.int/en/web/portal/-/children-s-rights-in-crisis-and-emergency-situations-a-new-council-of-europe-priority-for-2022-2027

 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)パンデミックやロシアによるウクライナ侵略といった情勢を踏まえ、やはり、「危機および緊急事態における子どもの権利」が新たな重点目標として追加されたことの意味に高い関心が集まったようです。会議の前日(4月6日)には欧州評議会加盟国による「ロシア連邦の侵略がウクライナの子どもたちにもたらす影響についての宣言」(Declaration on the consequences of the aggression of the Russian Federation for the children in Ukraine、PDF)が発表されましたが、そこでも末尾で第4次「子どもの権利戦略」の重要性が強調されています。

 以前の投稿で紹介したとおり、第4次戦略は10か国の子ども220人の声を踏まえて策定されたものですが、今回の会議にも子どもたちの代表が参加し、その意見や提言が他の参加者に感銘を与えていました。

 戦略策定に向けた子どもたちとの協議の詳細は60ページに及ぶ報告書(Report on child consultations informing the elaboration of the Council of Europe Strategy for the Rights of the Child 2022-2027、PDF)にまとめられ、3月に公表されています。

 なお、会議の模様はオンラインでも中継され、こちらのアーカイブ動画で見ることが可能です。

 以下、欧州評議会人権コミッショナーのドゥニャ・ミヤトビッチ(Dunia Mijatović)氏(ボスニアヘルツェゴビナ出身)が会議で行なった発言の抄訳を掲載しておきます(太字は平野による)。子どもの権利に対する包括的なアプローチ、そして子ども参加の重要性があらためて強調されている点に注目していただければと思います。

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(前略)

「地平線を超えて:子どもの権利新時代」という題が選ばれたときには、ヨーロッパが残酷な戦争の時代にふたたび突入して、子どもたちが殺され、負傷し、飢え、避難を余儀なくされ、誘拐され――そして根本的トラウマを負うようになってしまうことなど、もちろん予見されてはいませんでした。

 長い時を経て、ヨーロッパにはふたたび「戦渦の子どもたち」が生まれています。最悪の事態に苦しみ、それを目撃する子どもたちです――まさに、私自身の経験から、私は戦争が最悪の事態であることを承知しています。旧ユーゴスラビアの多くの都市の子どもたちは、想像を絶するほど苦しみ、深い傷を負って育ちました。ウクライナで何が起きているかを知っている私たちは全員、トラウマを負った数百万人の子どもたちのニーズに対処する態勢を直ちに整えなければなりません。このような子どもたちは、本日ここにいるすべての人の、そしてそれ以外の人々の、調整のとれた関与を必要としています――そしてこれは、ヨーロッパですでに生じている子どものメンタルヘルス危機に積み重なる形で生じた事態なのです。ウクライナの子どもたちのために、一歩一歩しくみが整備されるのを待っていることはできません。いま行動しなければならないのです。私はウクライナと国境を接するいくつかの国での視察から戻ったばかりですが、これらの国々で私は、チームのメンバーとともに、戦争から最初に逃れてきた人々と会いました。その多くは子どもたちです。そして、すでに深いトラウマが生じていました。

 けれどもここで、本日発表された、子どもの権利に関する欧州評議会の新しい戦略について触れることにしましょう。私はこの戦略を歓迎します。国際的な人権基準と人権法上の義務にしっかりと根差したものだからです。人権はおとなのためのもので、子どもの権利は子どものためのものだという態度を目にすることがいまだに多すぎますので、このことは大切です。子どもたちは人権の全面的な保有者であり、それに加えて子どもとして特別な保護と権利を享有しているのだということを、私たちは常に覚えておかなければなりません。

 子どもたちが、背景、地位または個人的特質にかかわらずすべての子どもたちが、諸権利への平等なアクセスを享受するために必要な保護と支援を得られるようにするためには、子どもの権利に対する包括的アプローチが必要です。この戦略は、とりわけ脆弱な状況に置かれている子どもたちのニーズに焦点を当てつつ、子どもたちにとって現在存在する諸課題の相互依存性を見失う縦割り型のアプローチを回避することに成功しています。こうした諸課題は、子どもの貧困と周縁化の高まり、長年にわたる教育・保健制度の不十分さ、障害のある子どもに対する注意の欠如をはじめ、多数存在します。

 大切な点として、私は、この戦略が子どもたち自身との――このことは非常に重要です――、そして子どもたちの代表との協議に基づいて作成されたことを称賛します。国連・子どもの権利条約の第12条、自分たちに影響を与えるすべての事柄について自由に意見を表明し、その意見を正当に重視される子どもたちの権利の重要性は、いくら強調しても足りません。私たちは子どもたちに対して上から目線の(patronising)アプローチをとることが多すぎますが、これは変わらなければなりません。

 議論の論点が戦争やパンデミックの影響であれ、経済復興計画であれ、食料品やエネルギーの価格上昇であれ、あるいは精神保健制度であれ、子どもたちはこうした問題の影響を受けています。それどころか、しばしば不均衡な影響を受けているのです。すなわち、子どもたちに、意見を聴かれ、関連の意思決定プロセスに実際の影響力を行使する効果的な機会が付与されなければならないということです。以前指摘したとおり、いまこそ、子ども参加に対する記号的アプローチを脱し、開かれた包摂的な協議、アジェンダ設定や優先課題の特定における緊密な連携、そして投票年齢の引き下げも含む手段よる子どもの効果的な民主的参加の促進を通じて、子どもたちに体系的に発言権を付与するべき時です。私は、人権コミッショナーとして、この問題を引き続きフォローしていきます。

 私は、自分に委ねられている幅広い人権関係の任務にのっとり、私が見出した欠点に対して加盟国の注意を喚起しながら、6つの優先課題すべてに関連する継続的モニタリングの活動を通じて、この欧州評議会戦略の実施を支援していきます。加盟国に対しては、子どもと若者の権利に優先的に取り組むよう、引き続き求めていきます。このことは、子どもと若者が自分たちの権利を今日行使・享受するために必要不可欠なことであるからであり、将来の社会への投資であるからです。

 ご清聴に感謝し、この2日間がみなさんにとって生産的で有意義なものとなることを願っております。
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