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ENOC:代替的養護下にある子どもの権利の保護および促進に関する立場声明

 ヨーロッパの34か国に設けられた44機関が参加するENOC(子どもオンブズパーソン欧州ネットワーク)は、9月20日、ヘルシンキ(フィンランド)で開催された第28回総会で「代替的養護下にある子どもの権利の保護および促進」に関する立場声明Position Statement on "Protecting and Promoting the Rights of Children in Alternative Care"〔PDF〕)を採択しました。

 これは、ENOC加盟機関が活動している国々では、代替的養護下にある約150万人の子どもたちがもっとも脆弱で不可視化された集団である一方、その権利がいまなお著しく損なわれているという認識を踏まえたものです。ENOCは、2024年の年間テーマを「代替的養護における子どもの権利」として、フィンランド子どもオンブズマンを中心として集中的な取り組みを行なってきており(こちらのページを参照)、今回の立場声明もその一環としてまとめられました。

 タンペレ大学の研究者とフィンランド子どもオンブズマンによる統合報告書(Synthesis Report)〔PDF〕も作成されています。

 今回の立場声明で行なわれている勧告は、次の7つです。


 このうち、14および6に掲げられている具体的勧告を訳出しておきます。

1.子どもの権利に関する国際基準で要求されているとおり、代替的養護のもとにある子どもの、自己の発達しつつある能力にしたがって自由にその意見を表明しかつ考慮される権利と、代替的養護下における生活および生活条件に関連する意思決定に参加する権利を確保すること。

  • 代替的養護下で暮らしている子どもたちの間で、かつ、適切かつ継続的な研修プラグラムを通じ、この分野で働いている実務家の間で、子どもの権利一般およびとくに参加権に関する意識を高める。

  • 子どもたちに対し、自分の権利および参加権についての、年齢にふさわしく子どもにやさしい情報および資料を提供し、十分な情報に基づく意見を表明できるようにする。このような情報および資料を、絵本、ビデオおよび携帯アプリのようなさまざまなフォーマットで提供する。

  • 支援的かつインタラクティブな環境で自分の権利についての教育を子ども・若者に提供するための、定期的なワークショップや説明会を開催する。

  • 子どもとの信頼関係を築き、プロセス全体を通じて透明性を保障するとともに、子どもが十分に楽な気持ちで意見を共有し、かつプロセスおよび関連するすべての結果について理解できるようにする。

  • 意思決定プロセスにおいて子ども参加を標準的実践にするための手続および資源を確立する。

  • 養護プロセスのあらゆる段階(子ども個人に関する意思決定および制度設計を含む)で組織的に子どもたちの関与を得る。低年齢の子どもたち、障害のある子どもたちおよび特別なニーズを有する子どもたちの意味のある参加を確保するため、特別な体制が用意されるべきである。

  • 代替的養護下にある(またはあったことのある)子どもたちが自由に意見を表明し、経験を共有し、かつ養護の提供のあり方および質の向上に貢献することのできる、より常設型の参加のしくみおよび機関(評議会、フォーカスグループ、ユースクラブなど)を、国の支援を得て設置する。

  • 参加する権利および意見を聴かれる権利が法的に保障され、かつその実施が定期的なモニタリングの対象になることを確保する。

  • 参加の権利が認められなかった場合に、子どもに効果的な救済措置および司法へのアクセスを提供する。

2.それが子どもの最善の利益にかなう場合には、子どもを家族の養育のもとに留めまたは復帰させるための努力を支援すること。

(略)

3.利用可能で時宜を得た代替的養護の解決策を保障するとともに、もっとも適切な形態の代替的養護に関する詳細かつ慎重なアセスメントを提供すること。

(略)

4.良質な代替的養護を確保すること。

  • 子どもの権利を保護し、かつ、代替的養護を必要とするすべての子どもに、家庭型養護を優先させながら適切な代替的養護を提供する国の義務および責任を強化する。

  • 国連・子どもの権利条約および子どもの代替的養護に関する国連指針〔PDF〕ならびに関連の国内法で定められた質の(最低)基準を実施する。

  • 一貫した質の高い養護を確保するため、安全、健康、教育および情緒面での支援などの側面を網羅した、代替的養護現場に関する包括的な基準を策定しかつ実施する。若者が成長・成熟するにつれて養護および支援のニーズは変化する一方、基準は変わるべきではない。

  • 代替的養護に関して計画されている改革が、安定した持続可能な解決策を提供できる形で立案されるようにするため、エビデンスに基づく実践を活用し、長期的資金を確保し、かつモニタリングおよび評価のための強力な制度を確立する。

  • 養護下にある子どもたちのニーズの充足に対する包括的アプローチを確保するため、代替的養護の提供者、社会サービス機関およびコミュニティ組織間の連携ならびにこれらの機関等への投資を強化する。

  • 子どもたちが愛され、大切に育てられ、かつ十分なケアを受けていると感じることができ、その個人的ニーズが満たされる、暴力のない環境を確保する。これには子どもの搾取を認識・防止することも含まれる。

  • 代替的養護下の子どもたちの全般的発達および幸福を支えるため、これらの子どもたちの情緒的、身体的および心理的ウェルビーイングへの取り組みを継続的に優先させる。

  • とくに入所型養護における専門職員の離職防止を確保するため、金銭的手段を含むすべての必要な手段を提供する。

  • 里親養育者および入所施設のケアワーカーによる専門職としてのスキル強化を促進するため、十分な支援および継続的かつ職種横断的な研修の機会を提供する。

  • 村落部・都市部全域で公平なアクセスおよび基準が存在することを確保する。

  • 若者が報復または悪影響を恐れることなく自由に話をすることのできる、定期的な、独立した、かつ子ども中心のモニタリングおよび(または)査察を確保する(このような対応としては、養護の提供のあり方および質に関する、独立した子どもの権利機関による予告なしの訪問なども考えられる)。また、モニタリングプロセスで得られた知見についての、また個別の対応が必要な場合には当該対応についての、フォローアップを確保する。

5.子どもの、家族、その他の近しい人々および子どもの民族的・文化的・宗教的・言語的ルーツとの意味のある関係を維持すること。

(略)

6.代替的養護のもとにある子どもが自立生活およびコミュニティへの統合に向けて準備できるようにすることを体系的に目指すこと。

  • ケアリーバーである若者の状況のアセスメントおよび自立に向けた指導を通じ、これらの若者が職業および個人としての生活に関する計画を立てられるよう援助する。これらの若者のニーズと、関連サービス機関で利用できるリソースを考慮する。

  • 自分の関心に基づいた進学経路やキャリアパスの選択に関する子ども・若者向けの支援を強化する。成人期への移行に向けた準備を成年に達する1年前からようやく始めるのではなく、早期の持続的準備に優先的に取り組む。

  • 身体的または心理的問題があるケースで個別化された支援および適切な対応を行なうための健康アセスメントを実施することにより、養護の継続性と質を確保する。

  • 若くして親になったこと、障害、精神保健上の問題および保護・養育者がいない国外出身の未成年者の状況といった、具体的脆弱性を考慮する。リスク行動、性教育および依存を含む防止に焦点を当てる。

  • パートナー機関との効果的調整を確保し、サービスを組織し、かつ専門家を対象とする専門支援分野を提供することにより、自立に向けて若者を支援するために必要なツールを専門家および養護者に提供する。

  • 代替的養護から離れる若者に行政手続面での援助を提供するため、代替的養護のもとにある子どもの権利およびサービスへのアクセスについての専門モジュールを含む十分な研修を、専門家(とくに心理学者およびソーシャルワーカー)を対象として実施する。

  • 子どもの保護および代替的養護を離れる際の自分の権利および利用可能な援助(金銭的・心理社会的支援を含む)について子ども・若者に情報を提供するとともに、資源(住居、教育、職業訓練、奨学金など)へのアクセスの簡略化および促進を図ることにより、子ども・若者がこれらの権利および資源について十分に理解できるようにする。

  • 大人のボランティアとの意味のある関係を構築し、かつ支援および連帯のネットワークを広げるため、若者が代替的養護を離れた後の定期的フォローアップ(会合、電話、家庭訪問など)をともなう、地域メンタリングプログラムなどの情緒的・教育的・支援的つながりを促進しかつ発展させる。

  • 若者が、代替的養護を離れた後に状況が安定するのにともなって自分が受けている支援を調整しまたは停止することを、頓挫または変化を理由として必要になったときはふたたびアクセスできることを確保しつつできるようにする、復帰の権利(a right of return)を創設する。

  • 国およびすべての関係者は、代替的養護下にある(またはあった)子どもたちへのスティグマを防止しかつこれと闘うため、あらゆる適切な措置、行動および意識啓発キャンペーンなどを実行するべきである。

7.代替的養護の査察およびモニタリングを強化すること。

(略)

*           *

 このほか、ENOCが設置・支援しているENYA(若者アドバイザー欧州ネットワーク)もこのテーマについて別に勧告〔PDF〕をまとめていますので、あらためて紹介してしたいと思います。

 子どもの権利と代替的養護に関する2019年の国連事務総長報告書および国連総会決議、国連・子どもの権利委員会が2021年に開催した「子どもの権利と代替的養護」に関する一般的討議の勧告なども参照。


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平野裕二
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