英国の子ども・若者コミッショナー、「生活費危機」への対応を英国政府・自治政府に要請
スコットランド、ウェールズおよび北アイルランド(いずれも英国)の子ども・若者コミッショナーが、ウクライナ紛争などを背景として高まっている「生活費危機」(cost-of-living crisis)への対応を求める共同声明を発表しました(9月30日付)。
1)北アイルランド子ども・若者コミッショナー:"Poverty is the most significant human rights issue facing children across the UK" - Children’s Commissioners
https://www.niccy.org/news/poverty-is-the-most-significant-human-rights-issue-facing-children-across-the-uk-childrens-commissioners/
2)スコットランド子ども・若者コミッショナー:Statement: Scotland, Wales and Northern Ireland Commissioners call on Governments to address cost-of-living
https://www.cypcs.org.uk/news-and-stories/statement-scotland-wales-and-northern-ireland-commissioners-call-on-governments-to-address-cost-of-living/
短いものなので全訳しておきます。
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ウェールズ、スコットランドおよび北アイルランドを担当する子どもコミッショナーとして、各ネーション(地域)で子どもたちの権利を促進・保護するのが私たちの仕事です。
貧困は、自らの権利を経験する子どもたちの力に破壊的な影響を及ぼします。私たちは、すでに英国全体で390万人の子どもたちが貧困下で暮らしているときに到来した現在の生活費危機を深く憂慮しています。貧困は、英国全体の子どもたちが直面しているもっとも重大な人権問題です。貧困は子どもの生活のあらゆる側面を深刻にむしばみ、生命および発達、十分な生活水準、心身の健康、教育、そして社会化および社会参加に対する人権に影響を及ぼします。
子どもたちからは貧困のために子ども時代が奪われている気がするという声が出ていますが、これはどうしようもないことではありません。子どもたちがお腹をすかせること、寒さに凍えること、学べないこと、社会の当たり前の一員として活動できないことを、私たちは受け入れられません。このような状況は、すでにその権利がもっとも危機にさらされている子どもたちに不均衡な影響を及ぼしつつあります。
貧困下での生活は、子どもたちが子ども時代を経験することにのみ影響するものではありません。それはまた、子どもたちが大人として手に入れることのできるライフチャンスもしばしば低減させ、貧困の絶え間ない世代間連鎖を助長し、社会的結束を阻害するのです。
英国政府と各自治政府は、子どもたちの権利を確保するために利用可能な資源を最大限に用いるという〔子どもの権利条約4条の〕義務の履行を怠っています。すべての政府は、今後数か月にわたって今回の危機をどのようにモニターして対応するかについて、子どもの権利を基盤とするアプローチをとらなければなりません。子どもたちに、そして自己の権利にアクセスしてそれを経験する子どもたちの力に今回の危機が及ぼす影響を緩和するため、意識的かつ焦点化された対応がとられなければなりません。
私たちは、英国政府と各自治政府に対し、緊急に以下の措置をとるよう求めます。
● 子ども手当(child payments)を通じて貧困家庭の所得増進を図るとともに、支援を受ける資格がある人々の捕捉率(take up)を高めること。
● 社会保障制度を改革し、支援基準を見直し、懲罰的な給付上限額を廃止すること。
● 家庭の負担、とくに教育関連および公的機関への債務関連の負担を削減すること。
● 脆弱な状況に置かれている家庭に焦点化した支援介入を行なうとともに、質が高く過度な金銭的負担のない保育に家庭がアクセスできるようにすること。
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なお、これら3つの子ども・若者コミッショナーはこの1週間前(9月23日)にも共同声明を発表し、英国政府が提出した小型補正予算案について、「すぐにおよび冬の数か月間を通じてもっとも貧しい子どもたちとその家族の役に立つ措置がほとんどない」と懸念を表明し、▽生活費危機の現実を反映させる形でユニバーサルクレジットの補助率を高めること、▽給付上限額を破棄すること、▽手当の受給を最初の2子のみに限定する方針(the two-child limit)を廃止することなどを求めていました。
さらに、11月17日には英国政府による秋季財政声明(Autumn Statement)を受けてあらためて共同声明を発表し、9月30日付の声明で掲げた4つの措置をあらためて要請しています。
ウェールズの子どもコミッショナーはこのほか、9月5日に高齢者コミッショナーと共同で声明を発表し、リズ・トラス新首相(当時;在任9月6日~10月25日)に対して、「家庭のポケットにお金を投入するための即時的行動」をとるよう求めていました。
さらに11月16日には、子ども7,873人および親876人の回答(オンラインアンケート「ウェールズのための大きな希望」に寄せられたものと思われる)を踏まえた新たな分析結果を発表し、次のような事実を提示しています。
-子ども(7~11歳)の45%および若者(12~18歳)の26%が、十分に食べられるかどうかについて不安を持っている。
-子どものほぼ3分の2(61%)および若者の過半数(52%)が、必要な物事のためのお金が家にあるかどうか不安を持っている。
-親の多くが、▽子どもに必要な物事に払うお金があるかどうか(68%)、▽子どもが十分に食べられるかどうか(36%)、▽1日3食分のお金を払えるかどうか(44%)、▽制服その他の衣服、旅行、誕生日プレゼントなどの贈り物、文房具などの学校関連費のためのお金を払えるかどうか(ほとんどの項目について過半数)について不安を持っている。
これらの要請・勧告を受けて英国政府と各自治政府が十分な対応をとるかどうかは何とも言えませんが、政府から独立した公的機関がこうした指摘を繰り返し行ない続けることはやはり重要です。なお、イングランドの子どもコミッショナーは9月23日・9月30日の共同声明に名を連ねておらず、「生活費危機」についてもとくに発言していないようですが、その理由はわかりません。
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