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人身取引に関する国連特別報告者、被害者非処罰原則を含む人権基盤アプローチの必要性をあらためて強調

 とくに女性および子どもの人身取引に関する国連特別報告者を務めていたマリア・グラツィア・ジャンマリナーロ(Maria Grazia Giammarinaro)氏は、人身取引反対世界デー(7月30日)にあたって声明を発表し、人身取引問題に対する取り組みにおいて人権基盤アプローチをとることの重要性をあらためて強調しました。OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)のプレスリリースを全訳して掲載します。

 ジャンマリナーロ氏は、国連人権理事会第44会期に提出した報告書およびそのプレゼンテーションでも、同様の指摘を行なっていました。今回は、(1)デューデリジェンス〔相当の注意〕義務を拘束力のあるものにすること(2)被害者の不服申立ての権利を保障すること(3)被害者に対して非処罰(non-punishment)原則を適用すること(4)関連のNGOを金銭的に支援すること(5)出入国管理法令を改正することの必要性を強調するとともに、パレルモ議定書(国連・国際組織犯罪防止条約を補足する、人(とくに女性および子ども)の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書)だけでは十分ではないとして、新たな国際文書の採択を検討することも各国に促しています。

 ジャンマリナーロ氏はあわせて「非処罰規定の実施の重要性:被害者保護義務」(The importance of implementing the non-punishment provision: the obligation to protect victims)と題するガイドライン(PDF)も発表し、被害者非処罰原則の適用の具体的あり方に関する指針も示しました。

 ジャンマリナーロ氏は7月末で特別報告者の任務を終え、現在はアイルランド出身のショバーン・ムラリー(Siobhán Mullally)教授が特別報告者の任に就いていますが、これらの見解は今後も引き継がれていくことになる見込みです。

 以下、プレスリリースの全訳です。

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窮乏する労働者の搾取が「ニューノーマル」となることはけっしてあってはならない――国連専門家
人身取引反対世界デー、2020年7月30日

https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=26137&LangID=E

【ジュネーブ(2020年7月30日)】 脆弱な状況に置かれた労働者(多くの女性・子どもを含む)に対する見境のない搾取がCOVID-19パンデミック中に憂慮すべき増加を示しており、その根絶の一助とするために国際的・国内的レベルで緊急に新たな措置が必要とされていると、本日、国連専門家が語った。

 仕事を失い、食べる物にも事欠く状況に追い詰められた人々――たとえば観光業で働く人々や家事労働者――はいっそう搾取的な条件の受け入れを余儀なくされていると、人身取引に関する特別報告者のマリア・グラツィア・ジャンマリナーロは言う。同報告者は、人身取引反対世界デーにあたって次の声明を発表した。

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 農業あるいは運輸・配達など、COVID-19パンデミック中にも不可欠であると考えられているセクターで働いている人々は、プレッシャーのもと、さらに長時間、そして適切な安全措置のないまま働くことを余儀なくされてきました。緊急事態下の子どもは、最悪の形態の児童労働の被害をとりわけ受けやすい状況に置かれています。買春およびセックス産業で搾取されている人々――ほとんどは女性と女児――は、ロックダウンの期間中は人身取引および搾取の加害者によって食べる物にも事欠く状況のまま放置され、ロックダウン終了後はさらにいっそう暴力的で極度の搾取の対象とされています。

 現在の危機および数百万人の労働者が置かれている状況に鑑みて、パンデミックの影響により、人身取引を背景とするものを含む深刻な搾取はいまなお――そして今日ではいっそう――増加傾向にあることが確認されます。

 このような背景のもと、私は、人身取引の防止および人身取引との闘いにおいて真の転換が必要であると確信しています。これらの対策が真に有効なものとなるためには、本当の意味で人権アジェンダから示唆を得たものであるべきです。

 今年は、人身取引に関する主要な国際文書である、国連・国際組織犯罪防止条約を補足する国連「パレルモ議定書」の採択20周年です。しかし人身取引対策は依然として、法執行を中心とする特定の分野の活動に限定されています。一方で、多くの経済部門で生じている大規模な搾取は顧みられておらず、世界中で経済の制度的要素のひとつになりつつあります。

 いまこそパレルモ議定書を超えて進むべきときであり、新たなビジョンが必要です。パレルモ議定書は、OHCHRの「人権および人身売買に関して奨励される原則および指針」のようなソフトローおよび人権裁判所の判例にのっとり、人権のレンズを通じて解釈・実施される必要があります。政府は人身取引対策に関する国内法および実施規則を根底から変革しなければならず、これらの法令を人権基準に一致させるべきです。ただし、これでは十分ではない可能性があり、各国は、人権基盤アプローチから搾取に対処する新たな国際文書の採択を検討しなければなりません。

 人身取引対策に対する人権基盤アプローチを促進するために、国際法と国内法は5つの方向に向けて変わっていくべきです。

1)国および企業のデューデリジェンス義務は、とくに防止、効果的救済へのアクセス(サプライチェーンにおけるものを含む)および人身取引・搾取の対象とされた者の社会的包摂を目的とする長期的措置(子どもの権利を基盤とする措置を含む)の分野で、拘束力のあるものとされるべきである。

2)人身取引・搾取の対象とされた者は、在留資格および援助に関する不利な決定に対して不服申立てを行なうことが認められるべきである。

3)人身取引の対象とされた者がその直接の結果として関与したいかなる不法な活動についても、非処罰原則が適用されるべきである。

4)より幅広い分野の被搾取者に対応するための十分な資金がNGO〔非政府組織〕に対して提供されるべきである。

5)出入国管理法令には、正規のかつアクセスしやすい〔移住〕経路、社会サービス・労働査察・司法手続と出入国管理との遮蔽措置および人材募集・仲介機関の規制についての定めが置かれるべきである。

 国連・パレルモ議定書にしたがい、性的搾取目的の人身取引を犯罪化する義務が国にはありますが、人身取引被害者が、性的サービスを理由として拘禁・告発されることを恐れずに進んで搾取を通報できるようにするため、売春それ自体はあらゆる場所で非犯罪化されるべきです。さらに、いかなる人身取引対策も、被搾取者――ほとんどは女性・女児――の人権を阻害し、その生活条件をいっそう厳しくし、あるいは深刻な搾取から逃れる被搾取者の能力に悪影響を与えるようなものであるべきではありません。

 あらゆる人身取引対策はジェンダーに配慮したものでなければなりません。防止の観点からは、物質的・文化的資源に対する女性によるアクセスの制限、性暴力、ドメスティックバイオレンスおよび紛争関連の性暴力を含むジェンダー不平等およびジェンダー差別といった根本的原因への、実効的対処が行なわれるべきです。人身取引の対象とされた女性・女児の社会的包摂の観点からは、長期的措置は変革につながるようなものであるべきであり、ジェンダーステレオタイプに基づいて形成されるべきではありません。ケアを与える女性とケアを受ける女性との意味のある関係は、女性のエンパワーメントの中核に位置してきており、世界中で、人権を基盤とする実践の結節点と考えられるべきです。――――――――――――――――――――――――――――――――――

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