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新型コロナワクチンの普遍的・公正な配分の必要性を国際機関が相次いで指摘

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンがいよいよ実用化されようとするなか、世界中のすべての人がワクチンに公平にアクセスできるようにすることの必要性があらためて指摘されるようになっています。11月22日に採択されたG20首脳宣言にも、すべての人々によるワクチンへの「負担可能かつ公平なアクセス」(affordable and equitable access)を確保するために努力を惜しまない旨の文言が盛りこまれました(Bloomberg〈ワクチンへの「安価かつ公平なアクセス」確保-G20首脳宣言〉)。

 日本でも複数の市民社会団体によって「新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!連絡会」が立ち上げられ、日本政府への働きかけを強めていく予定です。

 11月末から12月にかけて人権関連の国際機関も指針や声明を発表していますので、概要とともに紹介します。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のガイダンス

 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、2020年12月17日付で「人権とCOVID-19ワクチンへのアクセス」と題するガイダンス(PDF)を発表しました。このような分野別ガイダンスはすでに12本発表されており、これが13本目になります(これらのガイダンスを含む関連資料は筆者のサイトの〈新型コロナウィルス感染症と人権 参考資料〉参照)。

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 そこに掲げられたキーメッセージは以下の8項目です。

1.COVID-19ワクチンは国際公共財(global public goods)として扱われるべきである。
2.COVID-19パンデミックは国際的な保健上の緊急事態であり、国際的な対応が要求される。
3.諸国間でのワクチンの不公正な配分またはワクチンの囲い込みは国際法上の規範をないがしろにするものであり、持続可能な開発目標の達成を阻害する。
4.COVID-19ワクチンは、すべての人にとって負担可能で、差別なくアクセスできるようにされるべきである。
5.ワクチン供給の優先順位は、人権を尊重する透明なプロトコールと手続を通じて決定されるべきである。
6.私的利益が公衆衛生より優先されるべきではない。
7.正確な健康情報に差別なくアクセスできることが不可欠である。
8.製薬企業には、すべての企業と同じように、人権を尊重する責任がある。

社会権規約委員会の声明

 また、社会権規約(経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約)の監視機関である国連・社会権規約委員会は、2020年11月27日付で「COVID-19ワクチンへの普遍的かつ公正なアクセスに関する声明」Word)を発表しました。そこでは以下のような指摘が行なわれています。

● 社会権規約第12条(到達可能な最高水準の健康に対する権利)などに基づき、国には、COVID-19ワクチンへのアクセスをすべての人に対していかなる差別もなく保障するため、利用可能な資源を最大限に用いてあらゆる必要な措置をとる義務がある。主要な感染症に対する予防接種の実施義務および感染症の流行の防止・統制義務は健康に対する権利に関連した優先的義務であり、現状においては、すべての人へのCOVID-19ワクチンの提供を最大限に優先しなければならない。(パラ3)
● COVID-19ワクチンへのアクセスを確保するため、国は、(1)さまざまな理由(在留資格がないことおよび貧困を含む)に基づくいかなる差別も取り除き(2)とくに周縁化された集団および遠隔地で暮らしている人々を対象として、ワクチンに物理的にアクセスできることを保障し、(3)少なくとも低所得者や貧困層には無償でワクチンを提供することなどにより、すべての人にとっての負担可能性または経済的アクセス可能性を保障し、かつ(4)とくにさまざまなワクチンの安全性・有効性に関する正確な科学的情報の提供およびワクチンに関する虚偽情報等から人々を保護するための公的キャンペーンを通じ、関連の情報にアクセスできることを保障しなければならない。(パラ4)
● すべての人がCOVID-19ワクチンに直ちにアクセスできるようにすることは不可能なので、ワクチンへのアクセスに関して優先順位を設けることは、少なくとも初期段階では避けられない。このような優先順位の決定は、差別の一般的禁止にしたがい、医学的ニーズおよび公衆衛生上の理由に基づいて行なわれなければならない。たとえば、▽保健スタッフおよびケアワーカー、▽年齢や基礎疾患のために感染したら重篤な容態に陥るリスクが高い人々、▽居住状況・社会的脆弱性のような社会的健康決定要因のためにもっとも感染しやすい状態に置かれている人々などを優先させることが考えられよう。(パラ5)
● 知的財産は人権ではなく、社会的機能を有する社会的産物であることから、締約国は、知的財産・特許法制度によって社会権の享受が阻害されること(たとえば、開発途上国や貧困層が不合理な費用体系のためにワクチン・医薬品のような重要な公共財にアクセスできないこと)を防止する義務を負う。(パラ6)
● 製薬会社を含む企業も、最低限、規約上の権利を尊重する義務を負うのであって、知的財産権を、安全・有効なCOVID-19ワクチンにアクセスするすべての人の権利およびCOVID-19ワクチンへの普遍的かつ公正なアクセスを可能なかぎり迅速に保障する国の義務と両立しないやり方で援用しないようにするべきである。国は、企業がこのようなやり方で知的財産権法を援用しないようにすることを国内外で確保するため、あらゆる必要な措置をとるべきである。(パラ7・8)
● 国は、必要な場合には常にワクチンへの普遍的かつ公正なアクセスを確保するための国際協力・援助義務を負う。COVID-19のパンデミックとしての性質は、諸国が負うこの義務を強めるものである。(パラ9)
● 自国民がまずワクチンにアクセスできることの確保をある程度優先させることは理解できるものの、そのことが、保健孤立主義(health isolationism)や諸国間のCOVID-19ワクチンの争奪戦につながるべきではない。諸締約国は、COVID-19ワクチンの研究・製造・配布に関連する金銭的負担の公正な配分のための戦略と機構を発展させるべきである。(パラ10・11)

 社会権規約委員会はこのほか新型コロナウィルス感染症(COVID-19)と経済的、社会的および文化的権利に関する声明(4月6日付)も発表しており、あわせて参照することが求められます。

その他の声明

 以上のほか、ユニセフ(国連児童基金)のヘンリエッタ・フォア事務局長は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する国連特別総会の開催に際し、すべての国に対する公平なワクチン供給を求める声明を発表しています(12月4日)。UNAIDS(国連AIDS合同計画)のウィニー・ビャニマ事務局長も、「私たちが持たなければならないのは利益のためのワクチンではなく人々のワクチンである」(We must have a #PeoplesVaccine , not a profit vaccine)という題する見解を12月9日付で発表しました。

 ワクチン接種の優先順位については、ユネスコ(国連教育科学文化機関)とエデュケーション・インターナショナルの事務局長が、学校教職員を優先的接種対象に含めるべきであると提言しました(12月14日)。ユニセフのヘンリエッタ・フォア事務局長も、その翌日に発表した声明で、
「ユニセフは、COVID-19ワクチンの接種について、最前線にいる医療従事者やリスクの高い人々に対して行ったあと、次に教師が優先されるべきだと呼びかけています。これは、教師をウイルスから守り、直接子どもたちに教えることを可能にし、結果として開校を維持する助けとなるためです」
 などと述べています。保育所・学童保育などの職員も対象に含めながら、このような対応も検討する必要があるように思います。

【追記】IOM(国際移住機関)のアントニオ・ヴィトリーノ事務局長が国際移住者デー(12月18日)に寄せたメッセージでも、

「パンデミックへの対応からこの数カ月で復興に移行する中、今年目にした献身と起業家精神によって、移民は通常の生活に戻るために重要であると再認識されました。
 しかしこれを実現するには、多くの国がすでにしているように、社会サービスへのアクセスを保障したり、移民が取り残されないようにしたりするなど、新型コロナウイルス対策に移民を完全に含めなければなりません
ワクチン接種が可能になれば、在留資格に関わらず移民も国のプログラムに平等なアクセスを保障されるべきです。特別なグループとしてではなく、友人や隣人、同僚としてです」

 と指摘されていたので、あわせて紹介しておきます。

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