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「本当の意味で子ども・家族にやさしいフィンランド」――フィンランド国家子ども戦略(2021年2月)

 昨年11月の投稿で簡単に触れておいたとおり、フィンランドは、同国のすべての子どもの権利の実現を目的とする「国家子ども戦略」の策定を進めていましたが、2月23日に発表されました。

★ Ministry of Social Affairs and Health: First National Child Strategy aims to build a Finland that respects children's rights
https://valtioneuvosto.fi/en/-//1271139/first-national-child-strategy-aims-to-build-a-finland-that-respects-children-s-rights

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 英語版は、「国家子ども戦略」特設サイト内のこちらのページなどからダウンロードできます。

 同戦略では、このような戦略が必要とされた理由として、とくに次の2点が挙げられています(p.9)。

1.子どもの権利にとって重要な決定および政策がしばしば断片化されており、基本権および人権に関するフィンランドの義務の充足を一貫して基盤とするものには、必ずしもなっていないこと。その結果、
2.子どもの権利の実現が、実際には、子どもの背景、家族および他の同様の要素に主として依存していること。


 同戦略の基盤となっているのは、次の3つの考え方です(p.10)。

I.子どもの権利が尊重される、本当の意味で子ども・家族にやさしいフィンランドをつくる。
II.子どもの権利および地位を主流に位置づけ、すべての政策・活動で子どもたちが(社会の他の構成員と並んで)一貫して考慮されること、および、子どもたちが自己の権利について知らされることを確保する。
III.脆弱な立場にある子どもたちの地位が保障され、そのニーズがよりよく認識されるようにする。

 同戦略は、国連・子どもの権利条約に基づくフィンランドの義務の充足を意図したものであり、条約の4つの一般原則(差別の禁止/第1次的考慮事項としての子どもの最善の利益/生命・生存・発達に対する子どもの権利/子ども参加)がその背景となっています(p.11)。条約を踏まえ、同戦略は18歳未満のすべての子ども・若者に適用されるほか、子どもたちが暮らしている家族および移行期にある若年成人も対象とされています(p.10)。

 全86ページからなる同戦略は、次の5つの章から構成されています(原文には章番号はありませんが、便宜的に平野が振りました)。

(1)戦略の概要
(2)すべての子どもたちのためのフィンランド
(3)豊かに成長する、力のある子どもたち
(Thriving and competent children)
(4)社会に参加する存在としての子ども
(5)戦略の実施

 各章にはそれぞれ複数の小項目が設けられており、それぞれの小項目ごとに「現状および人権の文脈」に関する説明と数個の「戦略的政策」が掲げられています。(4)との関係で「子ども影響評価および子ども予算」が位置づけられている点などは、とくに興味深いところです。

 同戦略は、今後策定予定の実施計画に基づいて実行に移されていきます。策定から実施に至る過程は次のとおりです(こちらのページより)。

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 同戦略の作成過程では、子どもたちからの意見募集もオンラインで行なわれました(2020年9月28日付10月8日付の呼びかけなど参照)。今後の実施においても子ども参加の取り組みが進められていく予定で、現在、児童福祉法改正案の作成に子どもたちの参加を得るためのパイロット事業が始まっています。

 日本でも4月6日付で新しい「子供・若者育成支援推進大綱」が決定されましたが(Facebookへの投稿のコメント欄参照)、フィンランドのこのような取り組みも参考にしながら、子どもの権利を基盤とする内容へと、さらに改善していってほしいと思います。

【追記】(2022年9月7日) 日本財団『イングランドとフィンランドの子どもコミッショナー等に関する調査報告書』(2022年9月、PDF)のp.37以下で本戦略について詳しく紹介されているので、ご参照ください。

 以下、フィンランド「国家子ども戦略」の各章に設けられた小項目の一覧を示しておきます。

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