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「子どもの権利と環境」に関する国連・子どもの権利委員会の一般的意見26号:チャイルドフレンドリー版抄訳

 9月18日、ジュネーブで国連・子どもの権利委員会の一般的意見26号(とくに気候変動に焦点を当てた子どもの権利と環境)グローバル・ローンチが行なわれました。あわせて、委員会の子どもアドバイザリーチームとともに制作された一般的意見26号のチャイルドフレンドリー版も公表されましたので、その主要部分(p.2以下;子どもの発言の引用は除く)を以下に訳出します(太字は原文ママ)。
 チャイルドフレンドリー版の原文(英語)は、フランス語・ポルトガル語・スペイン語版とあわせてこちらのページに掲載されていますので、ご参照ください。一般的意見26号の概要を解説するアニメーション動画(4分33秒)もあわせて公開されています。
 さらに、「私たちの星、私たちの権利、私たちの声!」Our Planet, Our Rights, Our Voices!)と題する、「子どもの権利・環境・気候変動に関する子ども世界憲章」も発表されました。一般的意見26号の作成過程で世界中の子どもたちから寄せられた子どもたちの声を、より詳しく紹介するものです。あわせてご参照ください。

https://childrightsenvironment.org/general-comment-no-26/

【p.2】

子ども権利と環境・気候変動はどのように関連していますか?

 子どもたちの権利はすべてつながっていて、同じように大切です。権利のなかには、環境危害と気候変動によってとくに脅かされているものがあります。また、子どもたちの権利を守るうえで大切な役割を果たす権利(教育を受ける権利など)もあります。

第2条 差別を受けない権利

 環境危害は、いくつかのグループの子ども――とくに先住民族の子ども、マイノリティ(少数者)グループの子ども、障害のある子ども、そして災害や気候変動の影響をいっそう受けやすい場所に暮らしている子ども――にとって、より大きな脅威になることがあります。政府として、グループ間の不平等についてもっと知るための情報を集め、その解決のために具体的行動を起こすことが必要です。

* 原文では「第1条」(Article 1)になっていますが、間違いです。/その後、修正されていました(2023年11月30日追記)。

第3条 子どもの最善の利益

 政府は、環境問題に関する行動を起こすときには、子どもたちに悪い影響がないよう、特別な配慮をしなければなりません。環境や気候変動について何か決めるときには、政府は、子どもたちにどのような影響があるか、今日および未来に成長する子どもたちの幸福と発達をどのように支えていくかを考えなければなりません。

第6条 生命・生存・発達に対する権利

 子どもは、健康・安全な環境で生き、成長し、発達すること、そして必要な支援を受けることができるべきです。汚染や鉛(なまり)との接触のような環境危害のせいで子どもたちの命が危険にさらされることは、あってはなりません。

【p.3】

第12条 意見を聴かれる権利

 子どもは、大人によって真剣に受けとめられ、環境や気候変動に関連する問題についての発言権を持てるべきです。政府は、環境や気候変動について何か決めるときには子どもたちに参加してもらうべきですし、子どもたちの意見がどのように考慮されたかについて、子どもたちにきちんとフィードバックするべきです。

第13条・15条 表現・結社・平和的集会の自由に対する権利

 子どもは、人権擁護者として、自分たちの環境権のためにしばしば立ち上がっています。友達やグループの仲間と時間をすごしながら情報やアイデアを交換する子どもたちも、少なくありません。政府は、安全でエンパワーメントにつながるスペースを提供することにより、子どもたちの自己表現を支援するべきです。政府として、人権擁護者としての子どもたちを守るための法律を採択することが求められます。

第13条・17条 情報へのアクセス

 政府は、環境・気候に関連する、明確で正確な情報に子どもたちがアクセスできるようにするべきです。これには、進行中の計画や決定に関する情報や、子どもたち自身が起こせる行動についての情報も含まれます。情報は、さまざまな年齢や背景の子どもたちが理解できるよう、さまざまなやり方でシェアされるべきです。

第19条 あらゆる形態の暴力を受けない権利

 環境危害や気候変動は、不安定な状況、紛争および不平等につながり、身体的・心理的暴力のおそれが高まった状態に子どもたちを置いてしまう可能性があります。政府は、子どものためのサービスに投資したり、暴力の根本的原因の解決に取り組んだりすることによって、子どもたちを守るためにいっそうの努力をするべきです。

第24条 健康に対する権利

 子どもの身体的・精神的健康に、気候変動、汚染、不健全な生態系、生物多様性の喪失による影響が及ぶべきではありません。子どもが健康上の問題を経験している場合、保健ケアと支援にアクセスできなければなりません。

【p.4】

第26条・27条 社会保障および人間らしい生活水準に対する権利

 子どもは、安全な食べ物、きれいな水、人間らしい家、生きて成長するために必要な物にアクセスできるべきです。政府は、子どもたちが貧困または安全ではない条件のもとで暮らさないようにしなければなりません。

第28条・29条 教育に対する権利

 子どもたちに対し、正確で、子どもたちがわかるやり方による環境教育が行なわれるべきです。環境教育は、子どもたちが環境とつながり、環境を尊重することを支援するようなものであることが求められます。子どもたちが学ぶ場所は、環境危害をまぬがれているべきです。

第30条 先住民族の子どもやマイノリティ(少数者)グループの子どもの権利

 先住民族の子どもやマイノリティ(少数者)グループの子どもの生命、生存および文化的慣行は、このような子どもたちの自然環境と非常に強く結びついていることが少なくありません。政府は、このような子どもたちの権利が守られるようにするとともに、このような子どもたちの環境に関するすべての決定で、子どもたちの参加を得るべきです。

第31条 休息・遊びに対する権利

 子どもは、きれいで安全な場所で遊び、活動すること、そして自然界とつながることができるべきです。政府は、新しい住宅地や子どもが行くかもしれない場所についての計画をつくるときに、子どもたちがどこで、どのように遊んだり休んだりできるかを考えなければなりません。

きれいで、健康的で、持続可能な環境に対する権利

 委員会は、子どもたちにはきれいで、健康的で、持続可能な環境に対する権利があると説明しています。子どもたちがすべての人権を手にするためには、きれいな環境が必要です。子どもたちは、きれいな空気と水、安全な気候、健全な生態系と生物多様性、健康的な食べ物、そして汚染されていない環境にアクセスできるべきです。

【p.5】

きれいで、健康的で、持続可能な環境に対する権利を含む子どもたちの権利を守るために、政府は何をしなければなりませんか?

〇 子どもたちの権利を尊重し、守り、充足すること。そのために、大胆で具体的な措置をとり、すべての子どもがきれいで、健康的で、持続可能な環境で育てるようにするという約束を守ること。
〇 環境に関する決定が子どもたちにどのような影響を与える(または与えつつある)かを理解する(そして解決する)ために、常に子どもの権利影響評価を実施すること。その際、あらゆる年齢層・背景の子どもたちへの影響がどのように異なる形で表れうるかに、とくに注意を払うこと。
〇 企業も子どもたちの権利を尊重するようにすること。そのために、会社が環境を汚染したり子どもたちを害したりすることを防ぎ、企業が環境上の影響を隠さないようにするための法律・規則・政策をつくること。
〇 子どもたちが、国レベル、〔ヨーロッパ・アジア・アフリカ・南北アメリカなどの〕地域レベルおよび国際的レベルで、司法に――つまり、子どもたちが経験している危害と影響に対する解決策・支援・補償に――アクセスするための支援を得られるようにすること。
〇 環境問題はある国の国境で止まるわけではないので、他の国の政府と国際的に協力すること。環境への悪影響についてもっとも責任があり、もっとも多くの資源を持っている国は、他の国よりも多くの行動を起こし、もっとも影響を受けている国々を支援するべきです。

【p.6】

 政府は、気候変動について行なわれるすべての決定で子どもたちの権利を考慮すべきであり、子どもたちについて行なわれるすべての決定で気候変動を考慮するべきです。

 政府には、次のような対応が求められます。

〇 気候変動の影響を緩和すること。これには、気候変動について科学者が教えてくれることにしたがい、緊急の行動を起こして、地球温暖化を制限するという約束を守ることも含まれます。
〇 適応のための計画、決定および解決策を発展させる取り組みに子どもたちの参加を得るとともに、すでに気候変動の影響を経験している子どもたちを守ること。これには、暴風、洪水その他の極端気象現象に備えて校舎や水道管を強化すること、非常事態の場合に食べ物を供給することも含まれます。
〇 子どもたちの権利に影響を及ぼす損失と被害を経験している国々に、金銭的・技術的援助を提供すること。
〇 企業(複数の国で活動しているグローバル企業も含む)が子どもたちの権利に悪影響を与えないようにすること。そのために、企業が温室効果ガスの排出量を速やかに減らすようにしたり、再生可能エネルギーを奨励したりすること。
〇 子どもたちの権利を侵害するような行動が気候資金によって支えられないようにすること。

【追記】(2023年11月30日)
 日本ユニセフ協会がチャイルドフレンドリー版の日本語仮訳を刊行しましたので、あわせてご参照ください。

-日本ユニセフ協会(2023年11月29日 東京発):COP28を前に 子ども版日本語訳公表 国連子どもの権利委員会「一般的意見26」 気候変動が脅かす子どもの権利
https://www.unicef.or.jp/news/2023/0204.html

 なお、「子どもたちが、国レベル、地域レベルおよび国際的レベルで、司法に――つまり、子どもたちが経験している危害と影響に対する解決策・支援・補償に――アクセスするための支援を得られるようにすること。」という箇所(p.5;日本ユニセフ協会仮訳p.6)が
「支援や補償:子どもたちが環境や気候変動の被害や影響を受けた場合、解決策や支援、また補償を受けられるようにする。」
 と訳されている点には疑問があります。わかりやすくするための配慮だとは思いますが、気候訴訟は多くの国の子ども・若者が活用している手段であり、やはり「司法」(justice)――「裁判などの手続」でもよいですが――というキーワードを省略するべきではないでしょう。

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