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子ども時代に出合う本 #13 何度も「読んで!」と持ってくる絵本(3~4歳)

 今回は、3歳から4歳の子どもたちが「もう一回読んで!」と何度も何度も持ってきた絵本の紹介をしたいと思います。
  最初の1冊は、マーシャ・ブラウンの『ちいさなヒッポ』です。

 

いざという時は大丈夫だという安心感

『ちいさなヒッポ』(マーシャ・ブラウン/作 内田莉莎子/訳 偕成社 1984)は、アフリカの野生のカバの親子を板目木版画で描いた作品です。

 子ども騙しの可愛さとは無縁の、力強い線と色で、カバの生態が描かれています。

 ヒッポは、あかちゃんの時はいつもおかあさんのそばを離れずにいました。ヒッポがかばのことばを覚える時期がやってくると、おかあさんは「グッ グッ グァオ!」「グァオ、こんにちは」「グァオ、あぶない!」どんな場面で、どんな声を出すのかを教えます。

 おかあさんのそばにいれば大丈夫。おおきなカバにちょっかいかけてくるものはいません。

 でもある日のこと、ヒッポはおかあさんたちが眠っている間に、ひとりで水面へあがっていきますた。その時、わにがヒッポに襲いかかります。絶対説明かと思ったその時、ヒッポはおかあさんに教えてもらった声をあげることができました。



 この絵本は、次男が3歳だったころに大好きで、何度も何度も寝る前に読んでいました。

 3歳、子どもは少しずつ親と離れて過ごす時間が増えてきます。次男も当時シンガポール在住でしたが、現地の幼稚園に通い始めていました。新しい環境、新しい先生や友達がいる世界に一歩踏み出すためにも、子どもには大好きな人に見守られているという安心感があると勇気がでるんですよね。

 この絵本に登場するちいさなヒッポは、赤ちゃんだった時はおかあさんにずっとくっついていました。そこで愛着(アタッチメント)と呼ばれる親子の信頼感を築き、自分で出来ることをひとつひとつ身につけていったのです。

 ただ、ほんとうに危険な時には大人の助けが必要です。大きなワニが襲いかかった時、ヒッポは事前におかあさんに教えてもらった「グァオ!たすけて」と危険を知らせる声を出すと、おかあさんがすぐさま駆けつけてくれました。

 子どもの年齢に応じて自分で自分の身を守る術を教えることも大切ですが、子どもになにかあったら親がすぐに駆けつけてくれると信じられることも大切だなと思います。なにかあったら助けの手が差し伸べられるという安心感があってこそ、子どもたちは未知の世界へ一歩踏み出せるのです。
 その信頼関係が築かれていく幼児期、親も忙しくて四六時中一緒にいることができなくても、「あなたのことを思っている」ことを伝え、「いざという時は任せて」というメッセージを折に触れ伝えてあげたいと思います。


 

だれかが見てくれているって思えたら


 ヒッポのように、かならずだれかが守ってくれると信じられたら、子どもは自分の世界を切り拓いていけます。

 それが人でないこともあるのです。たとえば赤ちゃんの時から一緒だったぬいぐるみだったり、人形だったり。

 次に紹介する絵本は、我が家の4人の子どもたちだけでなく、文庫に来る子どもたちにも人気で、何度も読みました。それは『ラチとらいおん』(マレーク・ベロニカ/文・絵 とくながやすもの/訳 福音館書店 1965)です。

 
 ラチという男の子はとても弱虫でした。犬も、暗い部屋へ行くことも、ともだちさえも怖がるので、いじめられていました。ラチは大好きなライオンの絵を見て「こんならいおんがいてくれたらなにもこわくないんだけどなあ」と思います。するとある朝小さな赤いらいおんが現れるのです。そしてラチを励まし、鍛えてくれます。そして少しずつ勇気を持てるより、ラチが自力でいじめっ子に勝てた時、あのらいおんはラチのもとからいなくなったのです。

   小さな子どもたちにとってこの世界は未知のもので溢れています。なので初めての経験は、子どもにとっては不安になるのは当然のこと。そばに誰かが寄り添ってくれて、見守ってくれていれば勇気を出して歩めるのです。

 ラチはちいさな赤いらいおんが現れたことで、そばにいて見守ってくれる存在を得ました。そうすると、これまで挑戦するのをためらっていたことにもチャレンジしようと思えるようになったのです。そして一度、成功体験をすれば、あとは自信がついてどんどんできるようになっていくのです。

 『ちいさなヒッポ』では子どもの成長を見守るのは親でした。でも、この絵本では赤いらいおん。これはぬいぐるみだったのかもしれません。

 3歳くらいの子どもたちにとって、ぬいぐるみも自分にとっての大切な相棒です。想像の翼は、ぬいぐるみをもともだちにしてしまいます。ままごと遊びに夢中になっている子どもが、ぬいぐるみがまるで生きているかのように語りかけているのを目撃したことがあるでしょう。そんな仲間が見ていてくれる、と思うだけで、子どもたちは一歩踏み出す勇気を得るのです。
 
 一方で、親は我が子についつい過剰な期待を抱いてしまい、寄り添うというよりも、背中を必要以上に叩いてしまいがちです。少し我が子から距離を置いて、でもなにかあったらすぐ助けられる距離で見守ることが出来たら理想的なのです。でもそれがなかなか難しいのです。

 なので、この小さなあかいらいおんのような(のび太くんにとってのドラえもんみたいな)存在が必要なのです。それだけで「なにもこわくないんだけどなあ」という安心感につながっていきます。それはもしかするとペットの小動物かもしれないし、お気に入りのぬいぐるみかもしれません。

 あるいは、読んでもらった本の主人公が心の中に、小さな勇気を灯してくれる存在になることもあります。私の子ども時代もそうでした。『小公女』のセーラや『アンクルトムの小屋』のトムが、私の心の支えでした。
 「大丈夫!君の挑戦を見ているよ」と言ってくれる存在を持っている子は強いです。

シンガポール在住時代、自宅で開催していた文庫の風景(1999年7月21日撮影)



見守り、待つ


 子どもは時に親が思いつかないようなことを「やってみたい」と言い出すことがあります。そんな時に、どうするか、親の覚悟が問われるなあと思います。

 どれほど覚悟をもって見守れるか、私がお手本にしたい絵本があります。この絵本は、我が子にも繰り返し読んだし、やはり文庫でも人気がありました。

 その絵本は『くんちゃんのだいりょこう』(ドロシー・マリノ/文・絵 石井桃子/訳 岩波書店 1986)です。



 秋の終わりの頃、くまのくんちゃんは、南の国へ飛び立つ渡り鳥を見て、冬眠しないで自分も暖かい南の国へ行きたいと思い立ち、両親に伝えます。

 おかあさんは世間の常識を優先させて、即座に、くまは冬眠するものだと反応をするのですが、おとうさんはくんちゃんの「やりたい」という気持ちを尊重し、「やらせてみなさい」と答えます。

 この絵本を読むたびにそんな風に言える父親って「かっこいいな」と思います。その挑戦が無謀なことも分かったうえで頭ごなしに否定するのではなく、自分でやってみて子どもが納得するのを待てるのです。まさに「可愛い子には旅をさせよ」です。
 
  ところが、くんちゃんは意気揚々と出かけては行くのですが、丘の上に着くたびに、長旅に必要なものをひとつずつ思い出しては何度も家へ戻ります。そしてとうとう「りょこうにでるまえに、すこしひるねをしたほうがいいとおもうんだ」とベッドにもぐりこみます。春になってくんちゃんが目覚めた時に、どんな表情をするのでしょう。自分で行動したことで、きっとくんちゃんはそれを納得していると思うのです。

 我が家でも子どもが何かやりたいと言ったら、挑戦させていました。たとえば木登りしたいと言えば「やってごらん」と言って見守ります。子どもは自分で登れそうな木をみつけ、足場をみつけて登っていくのです。もちろん目は離さず見守りましたよ。見ていてくれるという安心感が、また挑戦しようという意欲に繋がっていたなあと思います。

 それは子どもたちが長じてからも同じでした。おとなの価値観を押し付けない、ただ社会的規範を著しく損なう場合は別ですが、いろいろ挑戦してみたいという想いを抑えつけずに見守ろうとしてきました。

 もちろん、親の願いや価値観と違うこともあり、ぶつかることもありましたが、子ども時代に子どもたちが好きだったくんちゃんの絵本を思い出し、くんちゃんのおとうさんみたいでありたい、と自分に言い聞かせていました。


 3歳~4歳の子どもたちは、自分の意志でなにかをやってみたいという意欲がわく時期でありながら、まだ親など見守ってくれる存在を必要としています。そんな揺れ動く気持ちをこれらの3冊の絵本は見事に捉えているのでしょう。不安な気持ちを、誰かが見守ってくれていることで克服し、一歩先へ進んでいく、そんな成長の過程にぴったりと合致し、ことばにできない想いを代弁してくれる、そんな作品だからこそ、子どもたちは自分を重ねて読み、もう一度再確認したくて、「もう一回読んで」と持ってくるんだと思います。

 だからこそ、これからの絵本がロングセラーとして今も読みつがれているのだなと思います。

  今回紹介した以外にも、たくさん繰り返し読んだ絵本がありした。でも、ひとまず3歳~4歳で出合う絵本についてはこれくらいにして、4歳~5歳で出合う絵本について次回書いてみたいと思います。

(続く)

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