今この瞬間のあなたのメッセージを、今この瞬間のわたしが受け取れるという幸運|BTS 『PERMISSION TO DANCE ON STAGE』に寄せて

いつもは存在を意識することすらない何者かに祈りを捧げながら申込ボタンを押す。「徳を積む」という言葉を意識して生活してみる。当落の日には00分を迎えるごとに確認画面にアクセスする。日が決まれば何よりもまず急いで休暇の申請をする。運命の1着になりうる参戦服と出会うため何時間も街を歩き回る。仕事を早退して推しのメンバーカラーに髪を染め上げる。その現場に合った彩りを爪に施してもらうべくイメージを伝えるのに四苦八苦する。もっと早くからやっておけばと後悔しながら色紙を文字の形に切り出す。頭が痛くなるまでただひたすらに双眼鏡を覗き込む。気がつけばベッドに倒れ込んでおり数時間前の既に定かではない記憶を嘆いている。

それは、そしてその1日に向かうまでの日々は、一大事というほかなかった。普段はしないあれこれを積み重ねていった先にそれはあった。「生きていくための活力」と称するにはあまりにも稀有で、またあまりにも狂暴だった。それが私にとっての現場だった。

「コロナ禍」と呼ばれる事態に世界全体が陥ってから1年半以上が経ち、コンサートをはじめとしたイベントをオンラインで楽しむことも今や当たり前になった。アイドルを好きになって4年ほど、年に片手で数えるほどしか現場に行かなかった私も、オンラインでの配信は頻繁に見た。

そして数を重ねるうちに、それはどんどん日常に近づいた。その日を楽しみに待つというよりは、そのときに思いついて見ることが多くなった。誰にも会えないような格好で見るのは当たり前になったし、場合によっては何か他のことをしながら見るなんてこともあった。どちらかと言えば現場というよりは、コンサートのDVDを見るのに近いような気もしていた。


しかしその感覚は間違っていた、というか。ちょっと違ったな、と。2021年10月24日に行われたBTSのオンラインコンサート『PERMISSION TO DANCE ON STAGE』を見てそう感じた。

2時間半の公演の中で特に印象に残ったのが、1人1人がコンサートの感想を話したアンコール内のMCだった。今日が楽しかったという人も、また楽しくなかったという人もいた。ファンがその場にいないことへの戸惑いがある、涙が出そうだった、コロナ禍でモチベーションを保つことに苦労したといったようなリアルタイムでの葛藤の告白もあったのには驚いた。そんなに正直に胸の内を打ち明けてくれるのかと思った。見ている人をただ楽しませようということであれば、そのような思いを伝えないという選択肢もあると思ったからだ。良くないものを目に触れないようにするのではなく、そのときの思いを素直に共有する。コミュニケーションによってコンサートを作ろうとする誠実さに心を打たれた。

そして最後の曲『Permission to Dance』の曲振りで、ナムさんは「この曲がこのコンサートを通じて伝えたかったひとつのことだ。これはBTSとARMYが送り合う応援のメッセージだ。」と言った。ナムさんの言葉はいつだって私に気づきを与えてくれるのだけど、それは今回も同じだった。


田中絵里菜さんの『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』では、BTSが
・青春をコンセプトとしている
・自分たちの成長を楽曲に反映している
ことに言及している。

「BTSがうまくいった理由を挙げるなら、『青春』というひとつの普遍的なテーマを活動を通じて変化させ、『成長する青春の姿』をファンに見せてきたことです。」

—『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』田中絵里菜(Erinam)著
https://a.co/h89XDrv
「生身の彼らの「成長」を一貫して楽曲にストレートに反映し、成長による変化をそのまま BTSというグループのアイデンティティとしているのだ。」

—『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』田中絵里菜(Erinam)著
https://a.co/8lSmkGP


ナムさんの「伝えたいこと」「メッセージ」という言葉を聞いて考えたのは、
・「成長」とは特にその時代だからこその感情に基づいたものである
・それが反映されるのは楽曲そのもののみでなく、パフォーマンスやその集合であるコンサートも含まれる
ということだ。

楽曲そのものにそのときのアーティストの思いが付与されて、パフォーマンスはより具体的な意味を持つメッセージと成るのだろう。今回の『Permission to Dance』は、MVを撮影したときのパフォーマンスとも、LAでファンを前にするときのパフォーマンスともきっと全く違う。MCでの7人の感情の吐露は、BTSによる「Love yourself, Speak yourself」の実践であると同時に、今回の『Permission to Dance』のパフォーマンスを唯一無二のものとする(=別の回でパフォーマンスする『Permission to Dance』とは違う意味合いを持たせる)役割を果たしてもいたのだと感じる。

オンラインコンサートでは、アーティストとファンは場所を共にすることはできない。それでもたしかに時間を共にしている。BTSがあの日『Permission to Dance』を通じて伝えようとしたメッセージを一番真っ直ぐに、より鮮明に受け取ることができたのは、それ以前の私でも今日の私でもなくあの日の私なのだろうと思う。過去のコンサートが記録されたDVDを見ても、そのときのアーティストの思いを100%受け取れるわけではない。オンラインコンサートはやっぱりDVDを見るのとは違う、そんな当たり前のことをようやく理解することができた。


『PERMISSION TO DANCE ON STAGE LA』まで、あと3週間を切った。BTSにとってもARMYにとっても待望の有観客でのコンサートで、BTSはどんなメッセージを伝えてくれるのか。現地に足を運ぶことはできないけれど、今から楽しみでならない。そしていつかBTSのコンサートに行くという一大事を、この身を以って体験したい。

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