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小学5年。 ⑦ [お見舞い]

見舞いに来た同級生は、母親に連れられて顔を出した。


同級生は診察のついでだと言い、
「これ!ひつじに渡すように先生に頼まれたから」
そう言うと、大きな封筒を手渡してきた。
何かわからないまま黙って受け取ると、
「今年同じクラスだからさ」
そう言われた。
同じ団地で家が近く、何回か話したことがある。
封筒を渡したあと、
「ひつじがまだ1日も学校に来てなくて、入院になったからみんなで手紙を書こうって先生が言ったんだよ」
そう言った。
渡された封筒には、その手紙が入っているらしい。
担任は手紙を渡してくれる人を誰にするか考え、家が近いからと同級生に頼んだらしい。

その夜、お見舞いの手紙を読んだ。
知っているのは2人だけ。
あとは知らない名前ばかりだった。
知っているひとりは、この手紙を届けてくれた同級生。
もうひとりは、幼稚園で好きになった初恋の女の子。
だがきっと、女の子は私のことを忘れている。

一度登校してはいるが、10分ほどでグラウンドに倒れ帰って行った顔も知らないクラスメイトに、入院したからといってどんな気持ちで手紙を書いたのだろうか。
そう思うと、申し訳なさでいっぱいだった。
手紙にも、みんなのそんな感情が現れていた。
「早く退院出来るといいね」
「教室で待ってるね」
ほぼ、そんな内容だった。

点滴が外れ痛みもない上に誰も来ないので暇だった。
たまに看護師さんがいないのを確認して病室を抜け出し病院内を探索した。
そこで、同じく暇そうにしている5歳くらいの男の子に出会った。

男の子は隣の部屋だった。
ある日、病室から出ようとドアから顔を出して様子を伺った。
すると、隣の部屋から同じように顔を出してきた男の子と目が合った。
お互い驚いてドアを閉めたが、次に顔を出すと男の子も顔を出してきた。
それが楽しくてお互いに笑った。

その男の子がどんな理由で入院しているのか分からないので、身体に負担がないよう廊下に出る時はおんぶして出た。
男の子は病室から出るのが初めてなのか喜んでくれた。
私の背中でキャッキャッと楽しそうに笑っていた。
だが、それを看護師さんに見つかり酷く怒られた。
私が男の子を庇おうと、
「僕が勝手に男の子を病室から連れ出したんです」
そう言うと、
「そうだろうね」
冷ややかな目で言われた。
すると、急にいろいろと不安になってきて、
「隣の男の子、体調悪くなってないかな?」
と聞いた。
「心配になるなら、もうこんなことしないでね」
看護師さんに優しく諭された。

そんなことをしている間に、退院の日が決まった。



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