見出し画像

小学5年。 ④ [医師の怒り]

手術の出来る大きな病院に行ってください。

救急車で運ばれた先の整形外科で言われたその言葉が頭から離れずにいた。
整形外科からどうやって帰ったのか記憶はない。

こうしてゴールデンウィークの3連休は終わった。

翌日、母に連れられ市民病院の小児科へ行った。
母は、診察が終わったら仕事へ行くと身支度をしていたので、病院に着いたのは朝一番ではなかった。
3連休明けということもあり、かなり混んでいた。
痛みに慣れたのか、それほど痛みが強くなかったのか、座って待っていた。
隣で母は、この後仕事に行かなくちゃいけないのにと、ずっと不機嫌だった。

30分ほどだろうか、母は受付へ行き、まだかと聞いた。
順番ですから、そう言われ戻ってきた。
更に30分後、母はまた受付へ行った。

1時間半ほど経ったくらいだろうか。
お腹の痛みが酷くなった。
母は受付へ行き、子供を寝かせてくれないかと言った。
受付にいる母に手招きされ、痛むお腹を押さえながら何とか受付まで行く。
看護師が来て簡易ベッドへ連れて行ってもらっている間、母は別の看護師に私の症状と経緯を聞かれていた。
それを聞いた看護師は、大きな声で医師を呼んだ。

「昨日、救急車で運ばれて担当の病院から盲腸かもと言われた小学生の患者さんがいるんですけど!」
出てきた医師に看護師が手短に状況を話すと、医師は母に向かって、
「何でそれを受付の時に言わなかったんですか!」
と怒った。
「昨日、救急車で運ばれて盲腸かも知れないと言われたんですよね!」
「最優先で診るべき患者なのに!」

それで患者の小学生はどこ?
医師は看護師に連れられ、私の所へやってきた。
医師はお腹を押さえ丸まっている私を仰向けに寝かせ、お腹を触診した。
お腹を数箇所触っただけだったが看護師に、
「直ぐに母親呼んで!」
と強い口調で言った。
やっぱり盲腸だったんだ。
手術するんだ、と不安に思っているところに母が来た。

「どうしてここまで放っておいたんだ!」
医師は母に怒鳴った。
さっきより、もっと強い口調で。
医師が患者の母親に対する態度とは思えなかった。
それでも母は淡々と、
「3連休で病院が休みだったので」
「4日に行った休日診療所でも、ただの腹痛だと言われたので」
そう答えた。
医師は、
「これがただの腹痛に見えますか?」
「ただの腹痛ではないと思ったから救急車を呼んだんですよね!」
「この子、ずっと痛がってたんじゃないんですか?」
母に、これでもかと言わんばかりに詰め寄っていた。
「それで、何の病気なんでしょうか?」
母は聞いた。
その言葉は、医師を更に怒らせた。
「何を呑気な顔して言ってんだ!」
「あと1日、いや半日遅かったらこの子死んでかも知れないんだぞ!」
医師の激高に、看護師が割って入ってきた。
「先生、落ち着いてください」と。
医師はそれで少し落ち着いたのか、
「肝炎だと思います」
「触診しただけで分かるくらい、肝臓が腫れてるので」
「詳しくは検査してからになりますが」
と言った。
「盲腸じゃなかったんですね」
「手術もしなくて済むんですね」
母は医師に言った。
医師は、母の問いには耳を傾けることなく、看護師に対し検査と入院の指示を出した。

看護師が母に、
「検査が終わりましたら医師の方から説明があります」
「入院になるので、準備をしてきてもらえますか?」
そう伝えた。

そして、これが人生で初めての入院となった。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?