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『鳥獣戯画のヒミツ』を読んだ話


なぜこの本を手に取ったか

かなり前のことで恐縮だが、東京国立博物館で「国宝 鳥獣戯画のすべて」展を見に行ったとき、インスタにはこんなメモをした。

実物を見るのは初めてじゃないけど、今なら分かる、これが仏教に関する絵だと。

なぜ倒置法なんだ、とかそういうツッコミは置いておいて(恥ずい)。

学生の頃から鳥獣戯画の存在はもちろん知っていたし大好きだった。前回の「国宝 鳥獣戯画と高山寺」展(2014)のときも、並ぶのが大嫌いな私が数時間並んで見た記憶がある。けれどもその頃は、単に可愛くて楽しい絵!というぐらいにしか見えていなかったように思う。
ある程度歳を重ねてから再び見たこの展覧会では、あぁこれは仏教に関係する絵なんだろうな、と思いながら見た。昔はそこまで気づけなかったので、それだけでも自分にとっては大きな成長なのだ。
気にはなったけど、それ以上のことは分からないままだった。そもそも鳥獣戯画は謎の多い絵巻物だ。なにせ誰が描いたかも分かっていない。

月日は流れ、この本を購入したもののしばらくの間積読したままだったのだが、ふと思い立って読んでみると…

面白いじゃないか!今までなにやってたんだ。
鳥獣戯画に興味がある人には是非読んでほしいのでネタバレは控えたいし、そもそも自分の仏教知識が浅すぎて、一つ一つの推論の確かさまで判断はつかないのだけれども、自分のなんとなく感じたことを研究している人がいると分かっただけでも嬉しい。

まずはおさらい

本の紹介の前に少しおさらい。鳥獣戯画、正式名称「鳥獣人物戯画」とは。

高山寺を代表する宝物である。現状は甲乙丙丁4巻からなる。甲巻は擬人化された動物を描き、乙巻は実在・空想上を合わせた動物図譜となっている。丙巻は前半が人間風俗画、後半が動物戯画、丁巻は勝負事を中心に人物を描く。甲巻が白眉とされ、動物たちの遊戯を躍動感あふれる筆致で描く。甲乙巻が平安時代後期の成立、丙丁巻は鎌倉時代の制作と考えられる。(中略)作者未詳である。天台僧の「をこ絵」(即興的な戯画)の伝統に連なるものであろうと考えられている。

高山寺HPより

まぁ一般的な理解としては大体上記のようなものだろう。ちなみに、本書は甲巻の読み解きが目的なので、その他の巻については触れられていません。

もう一つ、絵巻物の見方についておさらいをしておこう。
そもそも絵巻物とは、展覧会での展示のように何mもほどいて見るものではなく、一場面一場面開きながら送って見るものだ。紙芝居を横につないだ状態、と言ったら伝わるだろうか。多くの場合は詞書があるのでどこが場面の切れ目なのかすぐわかることが多いのだが、鳥獣戯画は詞書がないのでぱっと見どこまでで一場面だかわからない。なので、何mも開いて流れで見てしまうと、複数の場面が同じ空間に同居してしまうことになる。そのうえ、つなぎ方が間違っているところがあることも指摘されている(『国宝 鳥獣戯画と高山寺』図録P.120)。何が言いたいかというと、絵からストーリーを復元するのは、一見できそうでも難易度が高いのだろうと思う。これだ、というお話が見つかれば別だが。
本書以外の説などを不勉強から読んでいないのだが、きっといろいろな仮説が過去には出されているのだろう。しかし謎の絵巻物として今日も語りつがれている。

兎と蛙である理由。そして明恵上人

本書は、QandAの形式で論が展開されている、とても読みやすい一般書である(とはいえ、時々難しい古文漢文が出てくる)。

第一章「月と鳥獣戯画」でなぜ兎や蛙なのか、というところから論を進めている。本書を最後まで読み進めると筆者も「寄り道をさせられた」と書いているように、必ずしも結論には直接的な関係はないようだ。でも研究ってそういうものなんだろうなぁ。思考過程が見えるのも論文ではなく一般書のよいところだ。
第二章「『大唐西域記』とお釈迦様」ではお釈迦様のお話との共通点を探り、
第三章「カエルとウサギはなぜ相撲をとっているのか?」では、明恵上人の人となりを紐解きつつ、その教義から鳥獣戯画を読み解く本書のメイン。少し漢文が出てくるので難しい部分も。
第四章「鳥獣戯画と明恵上人」では、明恵上人の教義をより深く解説。高山寺の開祖、明恵上人は変わった人だったらしく、右耳を切ったり、島に手紙を書いたりと、奇人エピソードに事欠かない非常に興味深い人物だ。鳥獣戯画が高山寺に伝わっている以上、明恵上人と関係がないはずがない。そして、明恵上人は浄土宗とその開祖法然を批判しているらしい。この辺の背景を恥ずかしながら初めて知った。あぁ不勉強。これらのことを考え合わせると…(以下ネタバレなので割愛)。

まとめ、のようなもの

鳥獣戯画を単なる戯画や漫画のルーツとしてしか見ていないとしたら深読みに感じるかもしれないけれど、自分は展覧会で実物を見ながら感じた経験から、一つ一つの推論の妥当性はわからないけれど、この絵巻物がそのくらいの計画性や意味性を持っていても全然おかしくないな、と思いながら読んだ。

というわけで、積読はたまには解消すべし、という教訓でした()。
読書のハードルが高ければ、山田五郎さんのYouTubeチャンネルから入るものいいかも。
https://www.youtube.com/watch?v=IhxuYabc2ts


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