豚の家畜伝染病「豚(とん)コレラ」が猛威を振るっている。人が食べても感染せず健康には影響ないが、養豚場で一頭でも感染すれば飼育豚全頭を殺処分しなければならず、養豚農家にとっては死活問題だ。中部から一大産地の関東に感染が広がり、国は豚へのワクチン接種を実施する方針を示した。しかし、感染抑止で問題は終わらない。これまでのように豚を売れなくなる可能性があるからで、いまだ出口は見えない。感染が確認された三重県での実情を見ながら、問題の深刻さを探る。
自衛隊も出動
7月24日に感染が確認された三重県いなべ市の養豚場では、県職員や自衛隊員、各県からの応援獣医師、埋設対応の建設業者など延べ約3,100人が、熱中症対策に追われながらも24時間態勢で対応した。電気ショックや薬液注入、炭酸ガスで殺処分し埋設。約1週間で約4,200頭の防疫処分を終えた。
関係者によると、同養豚場では年間に約8千頭は出荷されていた可能性があり、今後、飼育の再開までにどれくらいかかるか見通しは立っていない。
拡大する感染
豚コレラは豚コレラウイルスにより豚やイノシシに感染する。発熱や食欲減退などの症状が表れ、致死率は高い。国内では平成4年以来、未確認だったが26年ぶりに岐阜県の養豚場で確認され、中部各県に広がった。今年9月には埼玉県や長野県での感染が確認され、これまでに全国で約14万頭が殺処分されたという。
ウイルスは野生イノシシや小動物によって運ばれ、豚コレラ発生6県のほか石川県や富山県、滋賀県など計9県で野生イノシシへの感染が確認されている。その数は約1,200例にのぼる。このためイノシシへの感染防止を図る経口ワクチンの散布も実施。三重県ではいなべ市の農場周辺でもイノシシの感染が確認されたため、隣接の桑名市や四日市市などでも感染防止の経口ワクチン散布を続けている。同県養豚協会の小林政弘会長は「イノシシへの経口ワクチン散布だけでは感染拡大が防げない」と指摘。「豚へのワクチンの直接接種を」と早い段階から要望してきた。鈴木英敬知事も同協会の要望を受け国へワクチン接種の要望を繰り返した。
国の対応は
だが国の反応は鈍かった。国内で豚コレラワクチンの接種をすれば、国際獣疫事務局(OIE)から「非清浄国」と認定され、輸出が制限されるからだ。また、他の非清浄国から安価な豚肉輸入を迫られる可能性もある。
非清浄国は、ユーラシア大陸や東南アジア、中米、南米などに約140カ国以上もある。しかし、岐阜県の感染確認から1年後の今年9月5日、埼玉県秩父市の養豚場で感染が確認されると、国はようやく重い腰を上げた。
国内で約915万頭が飼育されている中で、東海地方は約67万頭止まりだが、関東は約235万頭。同24日、国は感染防止のためのワクチン接種を開始する方針を示した。三重県の鈴木知事は「とりあえず、接種により感染防止をするとした国の態度は評価する」と話した。
ワクチンのない感染も
ただ、問題は残っている。ワクチン接種を国内全域で進めるか、知事の認可で都道府県単位で進めるかだ。都道府県単位で接種した後、接種豚の流通を接種県だけに限定されれば、中京や関西、関東に出荷している三重にとっては打撃が大きい。このため、ワクチン接種後の流通に関しても本州など広い範囲での流通許可を求めていく考えだ。8月中旬に豚コレラを抑制したリトアニアとドイツなど「清浄国」を視察した三重県紀州家畜保健衛生所の平塚恵子副所長によると「養豚場の徹底した衛生管理や、野生イノシシに対する厳格な流通規制などで克服していた」という。
ワクチンを接種して感染を防ぎつつ、清浄国並みの流通を維持できるのか、国は難しい方程式を突きつけられている。
さらに、対応ワクチンのないアフリカ豚コレラ感染が中国から隣国・韓国まで迫っている。
10月8日 産経ニュースより
https://www.sankei.com/premium/news/191008/prm1910080002-n1.html