控訴不可分原則と附帯控訴と控訴での請求拡張

XはYに対して、1000万円の貸金返還請求訴訟を提起していたが、第一審では700万円一部認容判決(=300万円部分について一部棄却判決)が出された。

1 訴訟の当事者が請求棄却部分に控訴した場合、請求認容部分も含めて訴訟物は全て控訴審に移審する。請求認容部分に他方当事者が控訴しなくても確定しない。
 しかし、控訴審の審理対象は、控訴した請求棄却部分のみ。
 Xが控訴した場合は、300万円の有無、Yが控訴した場合は、700万円の有無、XY双方が控訴した場合は、300万円+700万円=1000万円が審理対象。

2 Yはあくまで訴状記載の請求の範囲(第1審で請求拡張されていた場合はその範囲)でしか不利益を受けないという地位にある。そして、控訴審では、不利益変更禁止原則との関係で、Yだけが控訴した場合は、Yが控訴した範囲を超えての不利益変更を裁判所は出来ない。Yは控訴する際に「訴状に記載のある範囲でしか不利益がないのであれば控訴して争おう」という判断をする以上、この期待は保護されないといけないためだ。

Q では、Yが控訴した場合において、Xが控訴審で請求認容部分について請求を拡張(訴え変更)しようとする場合は、Xの附帯控訴は必要か。不要とすると、「請求拡張されるくらいであれば、控訴しなかったのに!」となり上記のYの期待に反するのではないか。
A Xの附帯控訴は不要。Xは控訴審で請求拡張可能。
 請求拡張(訴えの変更)は、当初の訴訟物とは別個独立になり立つ訴訟物(請求の基礎が同一なだけ)。訴えの変更が可能な範囲で既判力が及ぶわけではないので、別訴は既判力に拘束されない。
 附帯控訴がないことを理由に、別訴を強制すると、訴訟経済にもとる。訴訟手続を著しく遅滞させないのであれば請求拡張を許容することになる。
 他方、Xは附帯控訴しない場合、300万円の一部棄却部分については争うことができない(具体的には、Yが300万円の弁済を主張してこれにより300万円が棄却となっていた場合は、Xが附帯控訴しない限り、控訴審でXは300万円の弁済がなかったことについては争えない。)。
 なお附帯控訴は、控訴審の弁論終結まで可能。  

民事訴訟法第143条(訴えの変更)
1 原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、請求又は請求の原因を変更することができる。ただし、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときは、この限りでない。
2 請求の変更は、書面でしなければならない。
3 前項の書面は、相手方に送達しなければならない。
4 裁判所は、請求又は請求の原因の変更を不当であると認めるときは、申立てにより又は職権で、その変更を許さない旨の決定をしなければならない。

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