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道連れ

年末のある日、東京新宿の近くのあるビルの外装工事現場の近くで防犯カメラに写っていない場所で半グレの3人の死体が発見された。3人とも首を横から鈍器で一撃されて骨折していてそれが致命傷になったようだ。発見された時三人とも首が180度後ろを向いていて変な風に折れ曲がった状態だった。
発見される前の日の夜、付近の防犯カメラにはこの3人がブラブラしている画像が残されていて、通りかかった人に絡んだりしている姿が残っていた。
その絡まれている人の中に一人不思議な老人の姿が映っていた。帽子をかぶりマスクをしてコートを羽織り手袋をはめている。腕を掴まれ無理やり暗がりに引き込まれて行くところまで映っていたが、防犯カメラに映らない所に連れ込まれてしまったのかそのあとははっきりとは分からない。
かなりの時間が経ってから駅の近くの防犯カメラにその姿が映っていたが、別に変化は見られず慌てる風でもなく自然に歩いて駅の中に入って行ってどこかへ消えて行った。
あの男性は誰?3人との関係は?そして3人に何をした?どこから来てどこへ行った?
結局、何もわからず捜査も行き詰まり二年が過ぎようとしたころ、ある情報が年老いた女性からもたらされた。
「私の主人があの事件の真犯人です。担当の刑事さんにお話をしたいことがあります。」担当刑事の私はご婦人を取調室に案内し向かい側に座ってもらって話を聞きました。まあ、話しの内容にもよるので調書は取らず、ビデオだけとって話を聞いてみた。
今にも倒れてしまいそうなほど痩せこけ、ろうそくの灯が消える寸前のようなそのご婦人は、前の椅子に腰かけても机の陰になって見えないくらい小さな女性だった。
「どうして、ご主人が犯人であることが分かるのですか?」と質問をすると蚊が泣くような聞こえづらい声でゆっくりと一言ずつ振り絞るように話してくる。
「はい、主人が亡くなる前に私に言い残しました。」 「どのように?」 
そのご婦人はぼそぼそと小さな声で一言一言嚙みしめるように話し始めた。
「私達の息子は、10年ほど前に新宿で忘年会の帰りがけ酔っぱらいの車にひき逃げされ、半年後に30才で亡くなってしまいました。犯人はすぐに捕まりましたが、私達は無念で仕方がありませんでした。今の法律では限界がありどうしようもありませんでした。
その息子には幼馴染で凄く仲のいい子が一人おりました。その子は私達を本当の親のように優しく接してくれ、息子が亡くなった後も私たちを心配して暇なときはよく訪ねてくれていました。
その子がある日、町のチンピラに絡まれて袋叩きに会い、首の骨を損傷し頸椎損傷で体の自由が利かなくなってしまいました。私たちは、自分の子供を事故で亡くし、息子のように可愛がっていた息子の幼馴染迄ひどい目にあわされ、「怒髪天を衝く」と言うのでしょうか怒りが収まりませんでした。警察に何を言っても取り合われず、私達は怒りが収まらず、しかし今の自分たちにはどうしようもありませんでした。
でもその子はまだ生きています。車いすに乗り首から下は動かずとも、私達が会いに行くと、「お父さん、お母さん」とよく話をしてくれます。主人は、「とにかく犯人を捜して同じ目に会わせてやる。」と私だけには言っていましたが、どうして犯人を調べてよいのか分かりませんでした。
主人は毎日どこかへ出かけていました。私には分からない何処かへ。そして老後のためにと残しておいた家の預金が少しずつ減って行くのが分かっていました。
主人は、昔から剣道を続けていて知り合いの剣道教室で町の子供たちに教えるのが楽しみでした。私はあまり分からないのですが、相当な腕前であったことは確かです。大学時代や社会人になりたての頃はよく大会に出ていい成績を残していたようです。
ある日主人は、「とうとうチャンスが来た、分ったんだよ、犯人が。」と言いそれからしばらくして、あの日の夕方一人でどこかへ出かけました。そして夜遅く帰ってきて、「今日はすっきりしたよ、もう寝る。」と言ってその日は寝てしまいました。
次の日、3人の半グレが首の骨を折られて死んでいたとテレビのニュースや夕方の新聞などに出ていました。私はピンときましたが、黙っていました。だって、主人は私がしたかったことをしてくれたんです。私はその時決めたんです「死ぬまで黙っていよう。」と。
ところがその後主人が私に隠していた事実がもう一つ分かったんです。余命半年、そう「すい臓がん」でもう助からないという事。だから最後のチャンスと思って実行したんですね。
それから半年後、主人は死ぬ間際まだ意識がある時とぎれとぎれに言いました、「あの事件は私がしたことだ、「息子」の恨みを晴らしてやった。どうせ死ぬ身だ、あいつらも道連れにしてやった。だからビルの外壁工事をしているところを選んだんだ。あそこに行けば鉄パイプが足場として使われているからな。そのパイプの分かりにくい所を外しおいてから、わざとあそこに連れ込まれるようにしてそのパイプで一撃してやったよ。あいつら苦しむこともなかったさ。一撃で気を失いそのまま首の骨を折っているから身動きもできずそのまま地獄行きさ。ま、私もこれからあいつらの所へ行くけどな。お前は天国へ行け、いいな。息子の所へ行って幸せに暮らせ。私は地獄で永遠にあいつらを追いかけ回しまた叩きのめしてやる。それじゃあな、もう時間がない。誰にも言うなよ。」
そしてその後ご婦人はこう言葉をつぎ足しました、「私もねもう長くはないんですよ。私ももうしばらくで息子の元に行けます。主人には誰にも言うなって言われていたけど、誰かに言いたかったんです、分かってください、刑事さん。私たちの気持ちを。それともう一つ、主人があの日身に着けていたものはすべて処分してありますから、証拠は何一つないはずです。私たちの家ももうすでに取り壊して更地になっています。あの人の骨も東京湾に散骨しました。私も死んだら役所に無縁仏として処分してもらうように頼んであります。じゃあ、刑事さん、私の話を信じるかどうかは貴方にお任せします。では失礼します。」
ご婦人はやせ細った体で私たちの前から姿を消した。
あのご婦人の話は本当なのか?どう捜査をすればいいのか?裏付けをどのようにしてとるのか?もともと世間では「チンピラが三人ほど天罰で姿を消しただけ」ともうほとんど話題にもなっていない事件だけに・・・。

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